大会!-閉会、そして帰校-
全ての競技が終了し、只今閉会式。
各校ともプールサイドに代表者(入賞した人全員)が整列し、地区会長さんのありがたい(?)話を聴いていた。
「えー…今回の大会では、数多くの大会記録、県中記録が更新されました。さらに、この近衛地区から、多くの全国大会出場者、延北大会出場者、県大会出場者が出たことを、とても嬉しく思います。これも、皆さんの努力の賜物だと思っているところであります。そのことに敬意を表し、私からの話は終わります。皆さん、本当にお疲れ様でした」
会長さんの話が終わると、会場から拍手が鳴り響いた。その拍手を受け、深々とお辞儀をする。マイクの前から退くと、偉い人達が並ぶところへと戻っていった。
そして、次は表彰。
競技順に、入賞した人たちの名前が呼ばれ、特設の表彰台に登っていく。
「表彰状……」
恒例の言葉が、一位になった選手の前に立つ地区会長さんの口から発せられた。
これを聴くと、本当に大会が終わったと思えるのは、私だけ?
その間も、表彰は進んでいく。
そして、400m個人メドレーの表彰。
「第三位、桐扇学院中東部、湯野上さん。第二位、近衛中学校、大星さん。第一位、潮凪中学校、青柳さん。表彰台に登ってください」
とうとう名前が呼ばれ、私は小さく返事をして、表彰台の一番高いところに登った。
一気に登れそうになかったので、三位の台のところから登ろうとしたけど、三位は桐扇学院中の人が居て、私を登らせまいとしていた。
普通、ここまでする?
仕方ないので、反動をつけて登った。後ろの方から苦笑が聞こえたが、それが全部桐扇学院中からのものだということは、振り返らなくてもわかる。
どこまで性質が悪いのだろう。だから、今回一位が取れなかったんじゃない?
心の中で、ぽつりと毒吐く。
そして、やっとの思いで表彰台に登り、立ち上がる。それを確認した地区会長さんは、賞状の内容を読み上げていった。
「表彰状……」
その間、私は会長さんの、長年の証を見つめていた。
「おめでとう」
読み上げが終わったのか、賞状を手渡してきた。私が両手でそれを受け取ると、メダルが私の首に掛けられた。
金色に輝くメダル。
これをもらうと、たとえそれが何度目であろうと嬉しい。
そして、私は登ったとき同様、苦労しながら表彰台から下りた。
その後も続く表彰式。
私は200m個人メドレー、400mフリーリレー、400mメドレーリレーでも表彰台のてっぺんに登った。
その結果、私の首には、四つの金メダルが燦然と輝いていた。
「以上で、表彰式並びに閉会式を閉じます。一同、礼」
アナウンスの声に合わせるようにして、その場に居た全員が深々とお辞儀をする。こうして、今回の『秋季水泳選手権大会近衛地区大会』は幕を下ろした。
閉会式を終え、私達は惜しくも入賞を逃した皆の待つテントへと帰ってきた。
もう皆はテントを片付けていて、私達入賞者の荷物は、傍らに綺麗に並べて置いてある。
片付けをしていた皆が私達に気が付くと、口々に「おめでとう!」とか「おめでとうございます!」と笑顔で声を掛けてくれた。
私達入賞者は、それに笑顔でお礼を言うと、テントの片付けを手伝う。
そのうち、宮城先生がこれまた派手な格好でやって来た。
「お前ら、今日は良く頑張った! 早めに片付けて学校に戻るからな。バスがもう来てっから、急ぐんだぞ?」
そう言って、自分もテントの片付けに加わる。後片付けはハイペースで進み、あっという間に終了。
簡易に持ち運べるようまとめたテントを小脇に抱えながら、宮城先生が言った。
「よし、忘れ物はないな? それじゃあ、撤収!」
そう言って、バスの方へと走って行ってしまう。
私達はポカンとしながらも、急いで先生の後を追った。
途中、プールの敷地内から出る際、全員で「ありがとうございました!」と言って、私達潮凪中水泳部は会場を後にした。
バスの止まっている場所に到着すると、息を切らした宮城先生がバスの傍らに蹲っていた。
「先生、年ですね……」
河野部長が笑いながら言うと、宮城先生は「うるせぇ」と一言呟いて立ち上がる。
そして、朝同様バスの運転手さんに挨拶をして、私達はバスに乗り込んだ。
今回は席が自由ということで、一人でゆっくりと乗りたかった私は一番後ろから一つ前の席に陣取った。もちろん、窓際。
そうしているうちに、どんどん席は埋まっていく。だが、ここで一つ問題が。
なんと、男子一人が余ってしまった。
長身の彼は、困ったような表情を浮かべて、バスの真ん中ほどできょろきょろしている。
そんな彼に宮城先生が声を掛けた。
「どうした? 座る席がないのか?」
その問いかけに「はい」と短く答えた彼は、再びきょろきょろと辺りを見回す。
そんな彼を見かねて私は立ち上がり、少し大きめの声で言った。
「ここ、空いていますよ!」
その声に少しびっくりしたのか、件の長身君がビクッとこちらを見た。そして、安堵の表情を浮かべると、私の元へとやって来た。隣に座って、私のほうを向いて囁く。
「ありがとう、青柳さん」
あまりの優しい声色に、思わず頬が熱くなる。
「ど、どういたしまして……」
声も小さくなってしまい、穴があったらそこに入りたいくらいだ。
私、本当は男なのに、何で男から声を掛けられて顔を赤くしているんだろう。もしかして、心も女の子になり始めているのかな。
それが本当だったら、本当に大変なことになってしまうな……。
「青柳さん? 何をブツブツ言っているの?」
長身君が、私を見つめたまま声を掛けてきた。
「ふぇ?」
変な返事をしてしまう私。急速に恥ずかしくなって俯いた。
きっと、私、顔真っ赤になってるんだろうな……。
そのままでいると、隣から長身君の声が耳に届いてくる。
「赤くなってる。……ふふっ、可愛い」
「なっ……!」
なんて事を言うのだろう、この人は。私は顔を上げて反論しようとしたけど、声が思うようになってくれない。
「困った顔も可愛いね、青柳さん」
私の気持ちも知らずに、言葉による追撃をしてくる件の長身君。
私は仕方なく、ウィンドブレーカーを頭から被り、顔を隠した。そして、捲られる事の無い様、端っこのところをギュッと握り締める。
さすがにそこまでした私に、長身君は声を掛けなくなった。
これで、ひとまず安心できる。
私はしばらくの間、テレビで良くみる怪しい人の如く、ウィンドブレーカーを被っていた。
それから約20分後。
「おーし、着いたぞ! 忘れ物しないようにするんだぞ」
ウィンドブレーカーを頭から被って、じっとしていた私の耳に救いの声が届いた。
「楽しかったよ、青柳さん?」
隣の長身君が、そんな言葉を残して座席から立ち上がると、足早にバスを降りていった。
私は、彼が消えたのを確認してバスを降りた。もちろん、荷物を全部手に持って。
バスを降りると、皆は既に整列していた。
「青柳! 早くしろ!」
久坂副部長の罵声が飛ぶ。私は大急ぎで皆の元に走り、列に並んだ。
私が並び終えた直後、宮城先生が話し始めた。
「皆、今日は本当にお疲れ様だ。今日は早く帰ってすぐ寝るように。わかったな?」
「はい!」
「よしっ、それじゃあ、解散!」
そうして、先生の短い話は終わった。
帰り際、皆はそれぞれバスの運転手さんにお礼の挨拶をして、家路に着いた。
私も、冬奈と共に家路に着いた。
三十六話目です。
※2011年9月29日…文章表記を改めました。
※2011年10月17日…表記を変えました。