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大会!-最後の競技-

 それから、競技はあっという間に進んでいった。

 800m自由形で、久坂副部長が惜しくも二位になり、200m自由形に出場した神奈川さんは三位。

 200m背泳ぎでは、冬奈が三位に入賞するなど、喜ばしい出来事が続いた。

 そして、いよいよ最終競技。

 会場の雰囲気は、最高潮に達していた。

 これから行われる400mフリーリレーを楽しみにしているのだろう。

 召集所で膝に手を置き、ただ何も考えずにボーっとしていた私は、傍から見れば緊張していると見えるのかもしれない。

「緊張しているのかい?」

 私の隣でケタケタと笑っているのは、先程800m自由形を泳ぎきったばかりの久坂副部長。

 一体、その底なしの体力がなくなることはあるのでしょうか?

 まったく、一度でもいいから見てみたいものです。

「いえ……これから始まるリレーに向けて集中していました」

「お、それはいいものだ。その調子でがんばってくれよ?」

「先輩こそ、手を抜かないでくださいね?」

「ハハハ、言ってくれる。私が手を抜くとでも?」

「それが分かれば苦労はしませんよ」

「そうだな。表彰台のてっぺんをとるためにも、がんばるか」

「その意気ですよ、先輩」

 私と先輩は、気軽に談笑を楽しんでいた。

 一方、神奈川さんと冬奈はというと、競技が終わったばかりなので、疲れを取るために身体のあちこちをマッサージしていた。特に入念に、脹脛ふくらはぎと上腕を解している。

 二人とも、真剣な顔つきのまま。

 ちなみに、私達潮凪中はセンター4コース。予選でいいタイムを出すと、自然とセンターに来てしまうので仕方がないが、冬奈にとっては堪らないはずだ。

 なんせ、上り症だからね。

「由紀、何か言った?」

「いや、何も?」

「ふ~ん……」

 いやぁ、危ない。冬奈は察しがいいのよね。油断は禁物、だね。

 それにしても、召集所に来てから、他の皆さんの視線が痛いです。

 なにか棘々しいものがあり、体中を細い針でチクチクされているみたいな嫌悪感が襲ってくる。

 できることなら、この場からすぐにでも去りたかった。

 でも、それは夢のまた夢。出来っこないことくらいわかっている。

 なんとかそれに耐えること五分。ようやくプールサイドへ入場してくださいという合図が来た。

 長々と待った甲斐があったと思った。

 でも、視線は相変わらず。

 それでも、幾分かはその視線から逃れることは出来たから、よしとしよう。


 そうしているうち、スタートの時間がやってきた。

 最初のうちは、個人競技同様緊張はしなかったけど、だんだんと、身体の奥底から震えがやって来た。

 徐々に震えは大きくなっていき、椅子の隣で立っている私にとって、とても厳しくなってくる。

 そんな私の様子に気が付いたのは久坂副部長。にやにやしてこちらを見ていた。

 声に出されなくても分かる。久坂福部長が『おや、緊張しているのかい? まぁ、安心しな。どうせ人間、緊張するんだよ。緊張しない人間なんていないんだから。そのままでいいんだよ』と言っているのが。

 でも、あくまで私独自の見解であるため、本当にそう言っているのかは分からないけど……。


 “3コース 立浦中学 神妙さん、小林さん、梢さん、遠藤さん  4コース 潮凪中学 綾瀬さん、神奈川さん、久坂さん、青柳さん  5コース 桐扇学院中学 湯野上さん、星さん、大矢部さん、本郷さん  6コース……”


 順々に名前が読み上げられていく。私達が呼ばれたとき、スタンドにいる皆が一人一人名前を呼んでくれたことがとても嬉しかった。でも、冬奈にとっては逆効果みたいだったけど……。

 またロボットみたいに動きがカクカクしている。これはヤバイ。

 と、久坂副部長が冬奈の元へと歩み寄り、何かを耳打ちする。すると、先程とは別人のように集中した冬奈がそこにいた。

 きっと、久坂副部長が冬奈に何かよからぬ事を言ったのだろう。集中はしているものの、その顔が真っ青だ。

 これはこれで、ヤバイのでは……?

 そんなことを思っていると、いつの間にかスタートの準備に入ってそれぞれの第一泳者がスタート台の上に登っていた。

 そして、静寂。電子音。入水、そして声援。

 競技が始まった。


 冬奈は飛び込むや否や、持てる力を全て出しているのだろう。2位という高順位で50mを折り返し、そのままの順位を保ったまま戻ってきた。

 冬奈が戻ってきて、神奈川さんが水中に飛び込んでいく。

 神奈川さんは、個人競技の決勝がすぐ前に行われたためか、本調子が出ないようだった。順位も2つ落ち、4位で50mを折り返し、さらに1つ順位を落として5位でこちらに帰ってきた。

 神奈川さんが壁に触れた瞬間、サイボーグこと、久坂副部長が水中に飛び込んだ。

 久坂副部長は相変わらずの体力を駆使し、順位を3つ上げて50mを折り返し。そして、1位の桐扇学院中との差を5mまで縮めて、こちらに戻ってくる。

 そして、私の出番がやってきた。

 久坂副部長の頭上を華麗に飛び越え、入水。

 すこし前のほうで、桐扇学院中の人がハイペースで泳いでいる。

 でも、このくらいなら、抜かせる。

 残った体力を使い、集中しながらも両手、両足を動かす。

 50mの折り返し。桐扇学院中の人との差は、手のひら一つ分くらい。

 もう横一列って具合まで縮まり、隣は何かを恐れるように、狂った人のように両手、両足を必死に動かしていた。

 でも、無理に動かしすぎると身体が悲鳴を上げるのは当たり前。

 突如、お隣を泳いでいた桐扇学院中の人がペースをガクッと落としてしまった。

 というわけで、私達潮凪中が1位でフィニッシュ。

 大会新とはならなかったけど、難なく延北標準記録を突破した。

 全国大会の標準記録には、あと1秒及ばなかったけど、個人的には大満足の結果だ。

 その後も、続々とゴールするほかの中学校の人達。その間、私達は互いに抱き合い、喜びを分かち合った。

 神奈川さんは大会新が出なかったのは自分の所為だと言っていたけど、神奈川さんの責任じゃないと思った。

 だって、私だって疲れて、最後の25mなんて調子が出なくて酷かったもの。

 きっと、それは冬奈だって、久坂副部長だって同じだと思う。

 私達は神奈川さんを労わるようにしながら、プールサイドを後にした。


三十五話目です。


※2011年9月29日…文章表記を改めました。

※2011年10月17日…表記を変えました。

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