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大会!-個人競技!①-

 次は私の競技、400m個人メドレー。

 予選を無事通過し、いよいよ決勝という具合なのだが……

「うぅ。お、おなかが痛い……」

 只今、私は急な腹痛に悩まされています。

 突然やってきたこの腹痛は、下腹部を内側からキリキリと痛めつけてきます。

 早めに治って欲しいものですが、現在私が居るのは招集所。競技直前で、かなりヤバイ状況です。

 でも、行くしかない。『棄権』なんていう手は使いたくないですからね……。

「それでは女子400m個人メドレー決勝に出場する選手の皆さんの登場です」

 アナウンスがこのように告げ、いよいよ戦闘開始だ。

 自己ベストがでるように、頑張らないと。


 “……3コース、大星さん。近衛中学  4コース、青柳さん。潮凪中学  5コース、湯野上さん。桐扇学院中学……”


 順々に名前を呼ばれていく決勝出場者達。運命の悪戯なのか、私はまさかのセンターコース。そして、同じくセンターコースに控えているのは、ライバルでもある桐扇学院の三年生、湯野上さん。名前は聞いたことがあるけど、それほど早いっては聞いていないから大丈夫だとは思うけど……

「潮凪、ぶっ殺す!」

 うわぁ。殺意むき出し。

 多分あの人に関わったら最後、殺られる。しかも確実に。

 なるべくそちら(5コース)の方を見ないようにした。

 そして見つめる、五十メートル離れたゴール。

 正確に言うとゴールではないけれど、あそこに向かって行こうと思うと、何だか不思議と安心感が沸いてくる。人それぞれ違うと思うけど、少なくとも私はそう思えてくる。

 なんだか、あのゴールの上で、不慮の交通事故で死んだお父さんとお母さんが微笑んでいるようで。

 私の事を、遠くから呼んでいるようで。

 あれ? おかしいな。まだ水の中に入っていないのに、ゴーグルの中に水が溜まってるぞ? 一体なん でだろう。泉のように湧き出してきたのかな? うん、そうだね。きっとそうだよね。


 “ピッ、ピッ、ピー!!”


 ……む? どうやら競技が始まるみたいです。

 精神を集中させて、はるか先の壁を見つめ、大きく深呼吸をして、ゴーグルの中に湧き出た謎の水を外に流して、再び装着。

 そして、スタート台に登って、臨戦態勢に入った。


 “よーい……”


 あともう少し。あともう少しで戦いが始まるんだ…。


 “とくん、とくん……”


 心臓の音が聞こえる。はっきりと、私の中で動いている。

 そうだ、私は緊張してるんじゃない。興奮してるんだ。この鼓動は、「はやく戦いが始まらないかなぁ……」といううずうずとしたものなんだなぁ。

 私の『意識』と『身体』が一緒になった時、戦いの火蓋は切って落とされた。


 “パンッ!!”


 乾いた電子音が、晴れ渡る空に響き渡った。



 水の中に飛び込むと、私の身体を優しく受け止めてくれた。

 まずは、バタフライ。

 思いっきり、身体全体で泳いだ。ただ、目指すものは自己ベストのみ。

 順位なんてどうだっていい。

 とにかく、自己ベストが出れば、それでいい。

 私はただ、泳いだ。


 壁に両手をついて、バタフライ後半戦が始まった。


 折り返してみると、隣を泳ぐ桐扇学院の人が、かなり先のほうにいた。

 あっ、負けてるんじゃないからね? 私が勝ってるんだからね? そこのところ、勘違いしないでね?

 私は単独首位状態にいた。

 それでも、ペースを落とすわけにはいかない。だって、目指すのは自己ベストだもの。

 でも、ちょっと疲れたかも。

 心臓がはちきれそう。でも、耐えなきゃ。

 ここでへばってたら、肝心の自己ベストを取り逃がしちゃう。

 そんな私は、ペースを落とさず、バタフライ100mを泳ぎきって、背泳ぎ100mに突入した。


 背泳ぎは意外と自身があるんだよね。

 なんたって、二番目に得意な種目だもん。

 ただ、『壁』が見えないのが怖いけど。

 その怖さに打ち勝てば、こっちのもの。


 私はあっという間に150mのターンを終え、背泳ぎ後半戦に突入した。


 後半もペースを落とさなければ、行ける!

 きっと、大幅に自己ベストを更新できるはず。


 ペースそのまま、私は背泳ぎ100mを終え、全体の半分を終えた。

 次に待っているのは、一番嫌いな平泳ぎ100m分。

 これさえ越えれば、競技も終わったものだ。

 そんなことを考えながら、私は平泳ぎ100mを、順調に消化していった。


 そうして、なんとか首位をキープしたまま、私は平泳ぎ100mを終えた。

 そして、最後の最後、自由形100mに突入した。


 ようやくやって来た、お楽しみ。

 一番得意な、自由形。

 これはもう自己ベストは確実なものになったかもしれなかった。

 なんせ、泳いでいて、とても楽しい。

 そして、気持ちいい。

 ここまで楽しく、かつ気持ちいいのは初めてかもしれない。


 あっ、もうターンだ。


 本当に楽しい時間は早く過ぎ去ってしまう。

 あまりにも早い時間の流れは、私達を悲しませるだけ。

 出来ることなら、時間の流れを凄く遅くしたい。

 そうすれば、私達は悲しまなくて済むと思うから。


 結局時間はそのまま進み、私は残念な思いと共にゴールした。

 タイムは自己ベスト。全国標準記録も切って、全国大会出場が確定した。

 私は腑に落ちないような表情で、プールサイドを後にした。



 ちなみに、女子400m個人メドレー決勝の結果はご覧の通り。

 1位…青柳 由紀(潮凪中)  タイム《4分46秒31》

 大会新・県中新・延北、全国標準記録突破。

 県大会・延北大会・全国大会出場決定。

 2位…大星 可奈(近衛中)  タイム《4分59秒95》

 延北・全国標準記録突破。

 県大会・延北大会・全国大会出場決定。

 3位…湯野上綾那(桐扇学院中)タイム《5分03秒31》

 延北・全国標準記録突破。

 県大会・延北大会・全国大会出場決定。

 4位…室伏 夕菜(近衛中)  タイム《5分05秒33》

 延北・全国標準記録突破。

 県大会・延北大会・全国大会出場決定。

 5位…大平  純(諸岡中)  タイム《5分09秒19》

 延北標準記録突破。

 県大会・延北大会出場決定。

 6位…飯村 佳織(宇部山中) タイム《5分10秒01》

 延北標準記録突破。

 県大会・延北大会出場決定。

 7位…宇治真由美(宇部山中) タイム《5分10秒04》

 延北標準記録突破。

 県大会・延北大会出場決定。

 8位…井村 裕未(御所中)  タイム《5分13秒65》

 延北標準記録突破。

 県大会・延北大会出場決定。


三十二話目です。


※2011年9月27日…文章表記を改めました。

※2011年10月17日…表記を変えました。

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