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大会!-最初の競技-

 マイナス考え漂う中、ついに競技は始まってしまった。

 まず最初は《タイムレース決勝》男女400mメドレーリレー。

 出場するのは一年の飯舘いいたてさんがバタフライ。一年の大熊さんが背泳ぎ。三年生の琴橋ことはし先輩が平泳ぎ。そしてアンカーは私。

 泳ぐ順番は大熊さん→琴橋先輩→飯舘さん→私。

 男子の方は……情報が入っていないのでわかんないけど、潮凪中豪華メンバーで統一したらしい。

 飯舘さんと大熊さんは初出場ということもあり、緊張してガチガチになってしまっていた。

 さらに大熊さんは第一泳者であるためか、差を作ってはいけないという責任から、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。

 第二召集所で待機していると、大熊さんが私に落ち込んだ様子で言った。

「先輩、私……ターン失敗するかもしれません」

 微かに声が震えている。下唇を噛み締めているのは、泣くのを必死に堪えているからだろう。膝の上に乗せた小さな腕はプルプル震え、彼女が精神的にかなり追い詰められていることが分かった。

 私はそんな彼女の震える手の上に自分の手を置くと、優しく、彼女を傷つけないように言った。

「大丈夫だよ。大熊さん、いつもの練習の時みたいに泳げばいいんだよ。後は私達が頑張るから。楽しんで行こうね?」

「は、はい!」

 大熊さんの表情はいくらか和らぎ、プレッシャーもかなり減ったんじゃないかと思う。

 すると、となりの飯舘さんが私に言ってきた。

「先輩、私もいつも通りに泳げばいいんですか?」

「うん。それでいいんだよ」

 私の代わりに答えたのは琴橋先輩。

「緊張してたって始まらないからな。練習通りに泳いでいれば、きっと良い泳ぎができるぞ?」

 そして、私達は鼓舞しあった。

 それを良く思わなかったのであろう、私達の隣に座っていた桐扇学院の人達がこちらに罵声を浴びせてきた。

「練習通り泳いでいたら、予選落ちますよね、先輩?」

「あぁ。態々(わざわざ)敗北宣言ありがとうございます、潮凪中の皆さん?」

「ふふふ……」

 あぁ、なんて失礼な人達だろう。他の人を傷つけて何が楽しいんだろうか。

「先輩……」

 飯舘さんと大熊さんは琴橋先輩に情けない声で言った。

「気にするな。あっちはあっち。こっちはこっちだ」

 その二人を宥めるように言うと、先輩は静かに目を閉じた。

 私はなるべく桐扇学院の人達を見ないようにして、静かに座っていた。


 そうして、いよいよ出番がやってきた。

 《タイムレース決勝》女子400mメドレーリレーに参加する学校は7校。

 組数は一組。私達潮凪中水泳部は三組目の2コースだった。

 対する桐扇学院はセンターの5コース。早いって噂があるけど、私達だってかなり早い。

 緊張している一年生二人はかなりの泳力の持ち主だし、琴橋先輩は去年全国大会に出場した平泳ぎのスペシャリスト。そして私もそこそこのタイムだから、行ける所までは行けると思う。

「位置について……」

 あっ、そうこうしているうちに始まっちゃう。

「よーい……」

 私は手を握り合わせ、静かに祈った。

 (どうか、大熊さんのターンが成功しますように……!)

 その直後、鈍い電子音が響き、一斉にスタートした。

 スタート直後、大熊さんは良い反応でバサロキック(注:水中で仰向けのままキックをすること)をして浮き上がり、いきなりトップに躍り出た。

「大熊! 行け!」

久実くみ(←大熊さんの下の名前)ちゃん! そのまま!」

「大熊さん! 頑張って!」

 私達は大熊さんの泳ぎを見ながら応援に声を挙げていた。

 そして、問題のターンがやってきた。

 相変わらずトップ独走状態のまま、5mの旗の下をくぐった。そして、三回水を掻き、ターンの動作を行った。

 結果は……成功だった。

「やったぁ!」

 思わず私達は喜びあった。

 そして、琴橋先輩が準備に入った。


 ……………………。


 今、私は25mを通過したところだ。私達潮凪中はトップを独走。そのまま私は泳ぎ続けた。

 予選ということもあって、半ば流すペースで泳ぎ、ターンをした。

 そのまま、私はゴールに向かって一直線に泳いでいった。


 〝ダムッ〟

 タッチ版にタッチして顔を上げると、先輩や一年生二人組が私を出迎えてくれた。三人とも、晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「おつかれ、青柳」

「おつかれさまです、青柳先輩!」

 そして、一人でプールサイドに上がれないで四苦八苦している私を引き上げてくれた。

「ありがとうございます」

 私は感謝の言葉を言って、その場で三人にお辞儀をし、プールサイドを後にした。



 ちなみに、女子400mメドレーリレーの結果はごらんの通り。

 1位…潮凪中        タイム《4分46秒27》 

 大会新・県中新・延北えんほく(←地方名。関東地方とかの“関東”のようなもの)標準記録突破。

 県大会・延北大会出場決定。

 2位…桐扇学院       タイム《4分58秒91》

 延北標準記録突破。県大会出場決定。

 3位…本郷北中       タイム《5分01秒25》

 県大会出場決定。

 4位…本郷東中       タイム《5分02秒11》

 県大会出場決定。

 5位…近衛工学付属中  タイム《5分05秒47》

 県大会出場決定。

 6位…乾中          タイム《5分08秒75》

 県大会出場決定。

 7位…新堂中         タイム《5分15秒44》

 県大会出場決定。


 どうやら、泳ぎきれば県大会には出られたみたいです。


三十一話目です。


※2011年9月27日…文章表記を改めました。

※2011年10月17日…表記を変えました。

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