表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/55

呼ばれたわけ

 私たちは今、宮城先生に呼ばれて式台前にいる。

「何か悪いことでもしたっけ」と二人で顔をあわせていると、先生が何かが書かれている紙を持ってきた。しかも、紙は二枚一束になっているらしい。

「いやぁ、すまん。一枚目が前回のタイム測定の結果だ。それと、二枚目が次の大会の要項と出場種目が書かれた紙。今度の大会については二枚目の表に詳しく書いてあるからな」

 宮城先生が私たちに紙を配った。私と冬奈はそれを受け取り、一通り目を通す。

 タイム結果はベスト。うん、それはいい。

 ただ、出場種目がちょっと納得いかない。

 おかしいでしょ。なんで200メートルと400メートルの個人メドレーなの!?

 “私を殺す気ですかっ!”

 多分、私が思っていることが顔に出ていたのだと思う。宮城先生が大声で笑い出した。

「まあまあ青柳、今のお前なら大丈夫だ。きっと全国までいけるって」

 あまりにもスパッと言われたので、私は一瞬面食らってしまった。しかし、すかさず反論。

「先生、正直厳しいかもしれません。私、先生が思っている以上に体力ないですから」

 私の言い分に先生はさらに笑い出す。

 何がおかしい!

「青柳。お前、自分の体力どれくらいあるのか分かってないな」

「いえ、分かっているつもりですが……」

「それならこの二種目でも大丈夫だ。……なんなら、明日タイムでも計るか?」

「分かりました。受けて立ちましょう」

 こうして、明日の放課後、200メートルと400メートル個人メドレーのタイム測定が決まった。

 今日は早く寝て体力を温存しないといけない。

「あの……先生」

 突然、私の隣で紙を見ていた冬奈が呟く。

「おう、なんだ綾瀬?」

 先生はその声に反応して、意識を私から冬奈に移す。

「先生、私の参加種目についてなんですが、変更はできないでしょうか?」

 彼女はそう呟くと、内股でモジモジとしている。

 冬奈、なんかキャラ変わってない?

「う~ん……どうだろうなぁ。ちなみに、綾瀬は何に変更したいんだ?」

 宮城先生の腕組の状況から、種目の変更はかなり厳しいものに思われた。でも、宮城先生は一応彼女の希望を聞いてくれるらしい。

 冬奈はモジモジしながら、囁くように呟く。

「平泳ぎ100メートルから、背泳ぎ100メートルに……」

 希望を聞いて、宮城先生は唸った。

 先生が唸るのは私にも分かる。冬奈の得意種目は平泳ぎと背泳ぎの二種目。

 そして、冬奈の出場種目(仮)に書いてあるのは、平泳ぎ100メートルと背泳ぎ200メートル。

 彼女の得意種目を両方盛り込んであり、私的には最高の組み合わせだと思う。

 でも、冬奈は突然どうしたんだろう。

「どうして平泳ぎ100から背泳ぎ100に変えようと思うんだ?」

 宮城先生は腕組をそのままに、冬奈に問いかける。

 彼女はモジモジすることなく、静かに、そしてはっきりと言った。

「私、これから背泳ぎ一本でがんばろうって思うんです。平泳ぎと背泳ぎ両方やっていると、どちらにも集中できなくて……思うようにタイムが伸びないんです。そのため、背泳ぎに変更しようと考えました。……先生、お願いします!」

 彼女はそう言って、先生に深く頭を下げた。肩まで掛かるさらさらの髪が、だらんと前に垂れる。

 冬奈、そこまで考えてたんだ……。

 私はその行動を心の底から凄いと思った。

 しかし、宮城先生は腕を組んだまま思案顔。きっと、このまま種目を変えていいものか悩んでいるのだろうな。

 そんなことを思っていると、何の前触れもなく宮城先生は腕組を解き、冬奈に優しく話し始めた。

「綾瀬、お前の考えはよく分かった。種目の変更を認めよう。今日中に変更願いを出せば確か間に合うはずだからな。……背泳ぎ、がんばれよ」

 その答えを聞き、冬奈は頭を下げたまま、「ありがとうございました!」と感謝の意を表す。

 私はいつの間にか胸の前で両の手を握り合わせていた。

 静かに目を閉じる。

 よかったね、冬奈。

 と、思い出したように先生が話を私に振った。

「ああ、それと青柳。お前の種目変更は無な。あと、お前はリレーメンバー入り確定だからしっかり練習するんだぞ。……それじゃあ、はやく教室戻れよ」

「……」

 宮城先生、なんと言う爆弾発言をするんですか!

 驚愕の表情を浮かべているであろう私に、先生が微笑を湛えながら、一言。

 「グット、ラック!」

 ……。

 先生、全然嬉しくないです。

 結局、なにか腑に落ちないものを抱えた私と、晴れやかな表情の冬奈は急いで教室へと戻った。

 教室に戻る途中、とても良い匂いが漂ってくる。

 途端、私と冬奈のおなかが鳴いた。

 互いに顔を見合って、呟く。

「冬奈、おなか空いてるんだね」

 「由紀こそ、ペコペコなんじゃない?」

 ああ、早く給食が食べたい。

 そう思うと、知らず知らずのうちに歩調が早まっていった。


二十一話目です。


※2011年7月16日…本文を編集、加筆しました。

※2011年10月17日…表記を変えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ