突然女の子になる
次の日の朝、俺は謎の寝苦しさから目を覚ました。時刻は午前四時十五分。誰がどう考えたって早すぎる。重い瞼を擦りながら、その原因を探り始める。
前の話に書いたとおり、俺の寝方はうつぶせに寝て首を左右どちらかに向けて寝るのだが、何かが俺の下に横たわっている(?)ようで、寝辛いことこの上ない。
「なんでこんなに寝辛いの……?」
朝っぱらからこんな作業をする事になり、ついつい愚痴を漏らす。しかし、ここで俺は自ら発した声に違和感を覚える。声変わりし、自他共に認める程の低音からは考えられないほどに声が高く、透明感があって可愛らしい。
俺は身体が震え始めるのに気が付いた。
ひとまず現状確認をするために、部屋にある姿見の元へと向かうことにする。ベッドから降りると、以前とは重心が異なっていることに驚き、危うく転びそうになった。それでもなんとか鏡の前にやってくると、それまでの怖さが驚きに変わった。
“おい……なんだこれは。俺は男のはずだぞ。なのに、なんで……”
鏡に映ったその姿は、華奢な体付きの清楚な雰囲気を持つ女の子。瞳はぱっちりとしていて、色は黒い。健康的な肌は、離れていても分かるくらい肌理が細かい。小さくて形の良い唇に癖のない肩まであるストレートの黒髪。思わずうっとりとしてしまう。
……正直、可愛い。
視線を静かに下ろしていくと、平たかったはずの胸が少し膨れている。嫌な予感がして、あわてて下も確認すると、あるはずのものがなかった。
「もしかして……」
俺(いや、ここは私と言うべきなのだろうか?)は、一昨日見た夢のことを思い出す。その夢で俺が性転換した後の女の子も、これとそっくりだった。まさか……
〝もしかして、正夢ってやつか……?〟
考えているうちに、頭の奥が痛みだし、眩暈にも襲われる。このままだと倒れ込んでしまうので、俺はふらふらと覚束ない足取りで、なんとかベッドへと非難する。そこに仰向けになると、気付く。
男だった時よりも何センチか身長が縮んでいる。 当初、ベッドが大きくなったのかと思った。しかし、じっくり見てみると、その結論しか出てこない。
頭痛や目眩が収まってきたのを確認して、俺はゆっくり上半身を起こし、女になってしまった自分を改めて眺める。見ると、足は若竹のように細く、肌は雪のように白い。腕は強く握られたら簡単に折れてしまいそうなほど細く、弱々しい。こんな自分の姿を見て、俺の脳裏に“深層の姫君”という単語が浮かび、思わず口から溜息が漏れる。
「はぁ。なんで女になったんだろう……」
拳をぎゅっと握ってみる。だが、以前とは違ってぜんぜん力が入らない。
何度もそれを繰り返していたが、何度やっても同じことだと思えた。まだ起きて活動するには時間が早すぎるので、俺はもう一度寝ることにする。
「寝れるかなあ……」
透き通るような声は、やんわりと明るくなった室内に解けて消えてゆく。
でも、このまま起きているわけにはいかないので、ゆっくり目を閉じた。再び、視界が闇に包まれる。幸運なことに、睡魔が襲い、俺の意識は暗い闇へと落ちていった。
……そして、それから約二時間後、事件が起きる。
第二話です。
2012年6月24日……本文を元に、加筆修正しました。