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『私』として生活開始

 ―僅かの間、由奈(由紀の姉)視点でお送りします―


「今日はもうへとへと……」

 太陽はもう西に傾き始めている。早く帰って、家事をこなさないと。

 でも、体力的に厳しいかな。今日は不必要に疲れちゃったからなぁ……。

 課題もこんもりと出されているし、徹夜して終わらせないと。

 はぁ。苦労してるな、私。

 そんなこんなしてたら、もう帰ってきちゃったわね。

 この見慣れた扉を開け放てば、学校とは一味違う忙しさが待っている。

 頑張れ、自分!

「ただいま!」

 いつもより少し声を張り上げてみた。

「おかえりなさい!」

「おかえりなさいませ!」

 うん。元気な返事が……二つ!?

 あれ、おかしいな。我が家は私と由紀の二人暮しなのに。

 きっと疲れてるのね。大変。今日はあまり無理しないようにしないと。

 ……あれ? なんだか、とってもいい匂いがする。

 程よい味噌の香り。これはきっと味噌汁。

 一体誰が……

 リビングへと通ずる扉をカチャリと開けば、そこには二人の少女が流し台の向こうで楽しそうに調理の真っ最中。

 一人は私の妹である由紀。でも、もう一人は知らない。

「由紀さん、玉ねぎ刻み終えましたよ」

 私の知らない少女が柔らかな口調で言った。

「うん、ありがと。そこに置いておけばいいよ」

 それに笑顔で応じる妹。

 ねえ、由紀。その子って何者なの?

 あー、だめ。考えていると頭が痛くなってきた。

 と、妹と謎の少女が私に気がついた。

「おかえりなさい、姉さん」

「おかえりなさいませ」

 笑顔で言ってはくれるものの、私の脳内では砂塵が吹き荒れていて、あんまりしっくり入ってこない。

 ふと視線を右に移せば、いつも私がやっている家事の全てが終わっていた。

 そうか、二人がやってくれたんだ……。

 安心した。と同じく、身体から力が抜けていった。



 ―ここからまた由紀視点です―


 どさっという音が聞こえた。

 なんだろうと思って振り向くと、そこには姉さんが倒れていた。

「ね、姉さん!?」

 慌てて駆け寄ると、安らかな寝息を立てている。

 熱が出てないか、額に手を添えてみる。……うん。大丈夫そう。

「比良、姉さんを運びたいから手伝ってもらえる?」

 最後の仕上げをしていた比良を呼び止めると、作業を手際よく終わらせて来てくれた。

「由紀さん、どちらに運ぶんですか?」

「ひとまず、姉さんの部屋まで」

「はい、了解しました。それでは、私はこちらを持ちますね」

 そう言って、比良は姉さんの両足を持ち上げた。

「じゃあ私はこっちね」

 私は姉さんの上半身を優しく持ち上げ、二人で協力しながらゆっくりと移動を開始した。


「ふぅ……」

「疲れました……」

 なんとか姉さんを部屋に運び込むことが出来た。今はベッドに姉さんを寝かせて、そのまま部屋の中でくつろいでいる。

 というより、疲れて休んでいるといったほうが正しいのかな。

 相変わらず姉さんは眠ったまま。規則正しい寝息を立てている。

 ひとまず、安心。


 “ガバッ!”


「きゃあ!」

「きゃ!」

 突然姉さんが上半身を起こした。

 私と比良は突然のことに悲鳴を上げると、姉さんはこちらに視線を移した。

「あなた、何者?」

 目を覚まして開口一番、姉さんは比良に言葉を投げかける。

「えーっと……」

 でも、ここは比良ではなく私が説明したほうがいいから、彼女に代わって話し始めた。


「ふぅん、そういうことね」

「うん、そういうこと……」

 比良のこと、私の口調のことを一通り姉さんに説明し終えると、何の疑いを抱かずに納得してくれた。

 相変わらず姉さんは理解が早くて羨ましい。

 羨望の眼差しで見ていると、姉さんが私の隣に歩み寄って静かに腰を下ろした。何かと思っていると、囁くような小さい声で話し始める。

「で、彼女…比良さんはあなたが創ったということね。随分と凄い能力持ってんじゃない?」

「ちょ…能力なんて何も無いよ!」

「そんなこと言っちゃって、本当は時空を超越しちゃうとかそんな能力持ってるんでしょ? 早く見せて欲しいな、その能力」

「だから、持ってないって!」

「何を話しているんでしょうか?」

 私たちの間へ割り込むようにして、比良が顔をにゅっと割り込ませてきた。

 その途端、ぱたりと姉さんが黙り込んでしまった。そして、「あら、残念ね」と言わんばかりの表情を一瞬浮かべる。

「私も混ぜてくださいよ」

 笑顔で言う比良に、私は困ったように笑った。


 “くぅ”

 可愛らしい音が私のお腹から響く。

「おっ? いい音鳴らすのね」

 姉さんがその顔に、にんまりと嫌らしい笑みを浮かべる。

「そういえば、まだ食べていませんでしたね」

 比良が思い出したように呟く。

 それを聞いた姉さんは、それじゃあと言って立ち上がると、部屋の扉を開いて言った。

「せっかく二人が作ってくれた料理が冷めちゃうわね。早いとこ、食べちゃいましょう」

 姉さんの顔には、先程とは対照的な笑顔が浮かんでいた。


 頑張って作った料理は、これまでのどの食事よりも美味しかった。

 食べていると自然と笑みがこぼれるのが分かる。

 夏休みも残すところあと三日。どうやって過ごしていこうかな。


十六話目です。


※2011年6月29日…原文を元に新しく書き直しました。

※2011年10月17日…表記を変えました。

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