夢の話 闇の停車場
第五章 闇の停車場
中年の夫婦は、車の通りの少ないバス停にある待合室の中にいた。駅舎のように個室となっている。地方独特のバス停である。
待合室には長方形の長机と椅子があり、ストーブが橙色に灯っている。中には、夫婦の他にもう一人いる。中年の男性か女性か分からない風貌で、夫婦に対面して椅子に座っている。
夫が対面する者に言った。「もうどうする事も出来ない。何とかして欲しい。あなたに頼むほかないんだ。」対面の者は黙っている。少し微笑んでいるようにも見える。夫の妻は黙っていたが、夫が何を頼んでいるのか分からず、分からないイライラから、夫を睨むように見つめていた。
対面の者は死神だった。夫は自分の命と引き換えに死神にある事を依頼していた。妻が知らないところを見ると、妻か、それとも夫の家族の命に関わることかもしれない。死神は何も言わない。夫が犯した罪を知っているのだろう。夫の妻を横見して、値踏みするかのような視線で見ている。
待合室の時間はゆっくり過ぎていく。外は寒空で道路の街頭が点々としており、真っ暗で、夜になるといっそう車の通りが少ない。
夫は妻に言った。「いいんだ。全て私が悪いんだ。すまない。」
妻は「何があったの?わかるように教えて。」夫は黙っていた。
夫婦の話の間に、対面の者の姿が消えていた。妻は、え?っと驚いた様子だった。夫は眼を閉じていた。
半年前、夫婦の周りで肉親が2人亡くなった。元気だった、母と父。一週間に2人続けて突然死んだ。心臓発作だった。夫は顔面蒼白で死人のようは顔で葬儀の喪主を二度、淡々とこなした。
夫婦は夫の両親と2人の子供と長男嫁と孫の8人の大家族だった。半年前に両親が亡くなり、先月には、お盆を過ぎても長男の嫁が実家に帰省して戻ってこなかった。子供を置いて帰っている。長男の嫁は育児鬱になっていた。今の自分の居場所が見つからないと言っている。
長男が嫁の実家に行って説得するも帰ろうとしない。
平穏な家族が突然不穏な空気がただよっていた。妻は泣き崩れて、ただ泣くばかりで何もする事が出来なかった。