夢の話 闇の水路
第三章 闇の水路
地学同好会の巡検で、県内の地質名所にバスで行く途中だった。バスが道の駅に止まって休憩中に、知り合いが川向こうの広場に見えた。道の駅の駐車場から、携帯電話で知り合いに電話してみた。しかし、電波が繋がらなかった。あれ?おかしいな。山間地だから電波悪いのかな、と特に気にしなかった。今からあそこに行くから、また後で会えるかと簡単に思い、またバスに乗った。
バスは大きい公民館のような施設に行った。ここで、昼食タイムらしい。バスを降りて、知り合いを探した。外の河川敷に知り合いは居なかった。ちょうど入れ違いだったかもしれないな、と私は思った。
公民館の中に入ると、お土産がたくさん置いてあった。地元の特産だろう。お土産を見て歩いていたら、こちらを店員のお婆さんがじっと見ている。店員はみんなお婆さんだ。田舎だから仕方ないのかなと勝手に自分で解釈した。
お婆さんが声をかけて来た。よくいらっしゃいました。ずっとここに居てくださいね。
私は少し不気味に思えたが、若者がいないから永住してくれということなのか、そうだとしても、他に言い方がありそうなものだが。と笑顔で対応したが、心の中は暗かった。
何か店の中の雰囲気に違和感を感じた私は、先にトイレに行こうとして、トイレを探そうと顔をキョロキョロさせて、一つの扉にゆっくりと歩いて向かった。
その時、数人の店員のお婆さんが、私の方に勢いよく走って来た。私は、何か分からないが恐怖を感じ、走って扉を開けて、薄暗いコンクリートの通路を走って逃げた。あれ?外に出ない。地下に向かってるのか?水路がある。排水路なのか?10秒くらい走って逃げた。通路の先が左に直角に折れ曲がっていた。
左に曲がった瞬間、幅30センチの水路と幅50センチの通路に、頑丈な鉄の扉があり、その先には進めない。後ろからお婆さんは追って来ない。何とか扉を開けて、逃げなくては、私は焦っていた。視界に薄い橙色の粘膜状の物質がこびりついているように見えた。鉄格子の錆が付着して、広がったものか、コンクリートの腐食が固まったものか、何かだろうと思い、気味が悪いが、鉄格子に近づいた。その時、近くで見ると濃い赤みがかった橙色の固まりがゆっくりと動いた。腐敗した死体と頭蓋骨、骨に少し肉が着いたような細い手と脚が見える。ミイラよりも気色悪いが生気がある。私のほうに手を出している。何か話しているようだが、うー、うー、とうめき声しか聞こえない。私は固まって動けなかった。これは幽霊なのか、それともさっきのお婆さんが化けて出ているのか。
近くで見ると死体のような化けモノは、薄汚れた服をまとっている。この服は、さっき見た知り合いの服に似ている。さっき見た知り合いは、白い長袖シャツにべージュ色のズボンをはいていた。なぜ?こんなに年老いて、服もボロボロになっているのか?あの30分くらいの間に、50年も経過したのか?
そういえば、さっきの公民館のお店の中には、私たち以外に何人もお客さんがいたが、誰も笑っていなかった。死人のように無表情だった。店員のお婆さんは、客商売というよりは監視しているような目で店内を見ていたような気がした。
私は、サービスエリアの駐車場から、川を挟んだ対岸のこの場所に行くのに、時空を超えて50年も経ったのか。だから携帯電話が留守電ではなくて、通話出来ませんとなったのか!この知り合いは、今の私のように、違和感に気付いて逃げ、ここから先には行けずに、ずっとここで助けが来るのを待っていたのか。ミイラになるまで。
逃げて来た通路は真っ暗で何も見えない。この鉄格子の周りだけ、薄暗いし、視界開けている。ここが現世への出口だと思うが、この鉄格子には扉のように開く構造ではない。南京錠も無い。
私も、次に時空越えてくる人を、ここで何十年も待つしかないのか…。