世間が鬼なら社会は漆黒
何故、同期がこんな事をするのか、分からなかった、同期とは仲良しなのだが、何故こんな事をしたのか。
聞こうとする、だから同期に聞いてみた。
「なんでこんなことをしたの......?」
同期は静かに答えを口に出す
「それはね、あなたを陥れたかったから」
意味が分からない、なんでそんな事をしようと思ったか。
「何でそんな事をするの......?なんで......?」
分からないので聞いてみた、すると同期は顔を暗くさせ、何も言わない。
「本当に、分からないのよ......私のことを」
と、泣きそうな声で呟く、だが、涙は出ない。なんでなんだ。
「ごめんなさい......ごめんなさい......」
と、泣きながら頭を下げる、そんな同期が、どうしてこんな事をしたのだろうか......
「ごめんなさい、本当よ......許して、許して......」
翌日、同期は長期休暇に入った。
同期が事務所側に相談をしてその結果である。
流石に今回の件を公にする訳には行かず、事務所の信頼を大きく落とすこととなる。
そのため、長期休暇の理由として、喉にポリープが複数個見つかり、ポリープの除去手術を行うということにした。
それは嘘だ。
事務所では翌日大型の研修が行われた。
コンプライアンスの研修の他、ネットリテラシー等いくつもの研修が今回の件を発端として行われた。
でも、事実を知ってるものは少ない。
「......マジかよ」
俺は娘の体験した経験の話を聞き、こんなことがあったのかと思った。
人間はいつおかしくなるのか分からない。
それに、真相を世間に伝えない事務所側にも問題があるように思うが、この世には伝えてはいけない真相というのもある。
今回はその類だが。その中では軽い方だが大丈夫だろうか。
話を聞きながら、ゆっくりと頷く。
話はまだ続きがあるそうだ。
今回の騒動が出回ってないので、ネットで燃え上がって炎上という事は今回は起きなかったが、いつまた似たような事が起こるか分からない、あの同期でさえも、混乱している様子だった、あの長期休暇は同期の精神を安定させるという措置の意味での休暇であり、反省期間でもある。
今回誰が悪かったかとかは決められないが、同期がアンチを煽った人間の一人であることは変わらない。
だから、今回の長期休暇は三ヶ月にも渡る時間があった。
同期は定期的に事務所に連絡をしており、最低でも週に三回はしているそうで、今は元気にやっているそうだということが、休暇二ヶ月目の段階で分かっていた。
「最近どうしてるの?」
私は同期に聞いた。
「そうだなあ......」
同期は歯切れが悪い。
「別に、特に......最近は少し元気がないよ」
事務所の人から聞いた時よりは元気がない、短い期間の間に体調でも悪くしてしまったのだろうか?
「体調は平気なの」
同期が言うが、曖昧に首を横に振るだけだった。
「精神的には、ちょっと悪いかな」
あの様子では、精神的にも悪くなったかもしれない、と私は思った。
「大丈夫、大丈夫だよ」
私は慰めるが、同期の顔は少し曇っている。何かあったのだろうか、と私の心がざわめいたのだ。
翌日、同期の様子がおかしいのを事務所の人に聞いてみたが、「元気だったよ」の一点張りで話にならない。
事務所に対しての不信感までも出てきている、もしかしたらブラックというやつではないか。
私はどうしたものかと考えを巡らせたが、私から言えることはない。私は少し悩んだ。
「ねえ」
先輩から話しかけられた。
先輩は何か暗い表情だ。
「どうしたんですか」
私は思わず先輩に声をかけてしまった。
「同期の様子がおかしくて......事務所の人に聞いても話にならなくて......先輩何か知りませんか......?」
先輩は、
「えっ、いや......特には......」
と歯切れ悪そうだった。
「あのね」
先輩の声が震えている。
「私が聞いていいかな、と思って......」
先輩の震える声は、いつもと違う様子に私は驚きを隠せなかった。
「ちょっと待ってね」
先輩は私を一度止め、パソコン画面を開き、何かを打ち込んでいった。画面には、
「漆黒」
と表示された。
「これ」
それは、事務所の社長の名前だ。
画面がスクロールすると、gifが流れた。
その内容は、社長が先輩を一方的に押さえ付けている、そして......その内容は、決して私の口からは言えない。
あまりの事に私は嘔吐した。
先輩は、同期も同じ事をされたのではないかと推測していた。
私は、怒りに拳が震えた、すぐ社長室に乗り込もうとしたが、先輩に止められた。
今のままだと確実にまずい、水面下で作戦の参加者を増やしていき、何百人、何千人も一気に突入させたら、一溜りもないだろう。
同期に話を聞くことにした、今度は先輩も同伴だ。
先輩が社長にされた事を話すと同期は困惑していた。
やはり、同期もやられていたのだ。
同期にも先輩との作戦を話し、どんどんと作戦網を広げることにした。
先輩、私、同期、それぞれがこの作戦の参加者を増やしていき、結果、五千人もの人がこの計画に参加した、この事務所で今回の作戦に参加していない配信者は、一人もいない。
社長は、背水の陣だ。
社長の目の前には怒りや悲しみの感情の人間が五千人もいる。
このままだと、作戦は成功するのは確実だろう。