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姫なんかいない  作者: 煙突効果
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駆け足で遭遇する


拝啓 初夏の候、私ますますご詠唱…?

あってたか?この始まり方。


夏がもうすぐそこに来ている、この季節は夕日がきれいで虫たちも賑やかで楽しい…わけあるか、蒸し暑すぎるんじゃボケ。


蒸し殺される初夏という言葉を辞書に載せたいと考えながら僕は、今日も今日とて勉強三昧の日々を過ごしていた。


「はい、じゃあ今のとこテストに出すから。

次のスライド行きまーすねー」


あ、見逃してしまった……。


この時期になると同じ講義を受けている大学生からは負のオーラが出まくっており、それに影響されたアホ共は、団体でパチンコに行き必修科目をサボる始末。

僕はなぜこんなクソ大学に何故入ってしまったのだろうか、事の発端は俺の人間嫌いから始まった…

いや、今はそんなことどうでもいいか。

とにかくそんなわけで、今参加している授業の部屋はガラガラだ。どこかしら講師もやる気のなさそうな態度をしている。


必修科目なのに大丈夫なのかよ…


スピーカーから、音量調節を間違えたとしか思えない爆音鐘の音が学校中に響き渡る。


「おーし、今日の授業はここまで。明日はこの続きではないことをするから予習しようとしても無駄だからな、んじゃ、おつかれさーん。」


やる気ゼロの講師は速やかに帰っていった。


さて…僕も帰るかな…


このときまでは、いつものように今日の授業が終わって家に帰るものだとばかり思っていた。


いつものように帰ろうと教室から出て、廊下をはや歩きで通過していく。

大学というものは、いつのときにも人ばかりで非常に息がし辛いものであって…

などと考えている僕の思考を、突如として遮るような何かが目の前を歩いていた。


「うわ…どえらい美形だ…」


しまった、つい口にしてしまった。

僕の目の前を歩いていたのは、僕より身長が少し低めの中性的で顔の整った美形の人物が歩いていた。

しかしながら…僕はそもそも人間が嫌いで、美形とかそういうこと関係なく嫌いというわけであって…大体、人間なんてろくでもないことばかり考えてるわけで…そもそも人同士は見下し合いながら…


「何を考えているんだい?」


どうやら、この出来事が不毛な考え事に集中していた僕の頭を一瞬で真っ白にしてしまったようで。

要するに…パニック状態ってやつだ。


「え、あ、別に…何も…」


男だか女だかわからない、しかも話したこともないやつが、顔を意味不明なまで近づけて話しかけて来ているんだから、そりゃ真っ白にもなりますって…

緊張している僕に追い打ちをかけるように、彼だか彼女だかは話を続けた。


「ふーん、そうなのか…。あぁ、急に話しかけてごめんね、なーんか昔に仲良かった友達に似てたから、つい話しかけちゃったよ。」


お前の事情など知るか、こっちはお前の顔のせいで、僕お得意の不毛な論争が消えちゃってんだよ…

コイツ、なんかちょっと腹が立つな。


「いいよ…別に…」


あぁ、こんなときにガツンと言ってやれるようなコミュ力があればいいのに…。


「それで、何を考えてたんだい?」 

「え?」


それはさっき答えただろーが!!別にって言ってるんだから、特に何もねーよ!!あったとしてもお前に…


「教えられない?」

「………………………は?」


は?嘘だろ?

まさか…こいつ…


「やっぱり、そうだと思ったんだ。君のようなオトコは人間が嫌いで、極力人間に関わらず、のらりくらりと生きていくタイプの人間だね」


「な、にを…根拠にそんなこと…」


ふざけんな、大体当たってやがるじゃねえかよ!

何だコイツは!?エスパーでも持ってんのか!?


「根拠?うーん、そうだなぁ…」


どうせろくでもない根拠に決まってる。ましてや、根拠になっていないことすら口走りそうだな。こんな急に人の思考を読もうとするやつなんて、


「いっぱい人間を見てきたからかな?」


「………」


何を言っているんだこいつは。


「すみませんが、急いでいるので…失礼しますね…」


こんな人間大好きマンだかウーマンだかに関わっている暇はない。

さっさとお暇して、家での一人スペースを満喫しなければならんのだよ。


そそくさとその場から離れようとする。しかし、美形の人間は僕の目の前に出てくる。何度も、何度も、その場から去りたがっているのを、常識を持っている人間なら簡単にわかるようなシチュエーションを、正解は黙って見送るというシチュエーションをこいつは会話という選択をしやがった。


「おや?帰るのかい?」


「………そうですけど……そこをどいてくれないと帰れないんですが………?」


美形!おまえこの野郎!早くどいてくれって!!!!!


そんな僕の心の奥底の悲痛な叫びは届くはずもなく


「まぁまぁ、そんなこと言わずに、ワタシと一緒に帰らないかい?」


怪しすぎる…

仮にも人間嫌いだと判定している人間に対しての態度ではない…

ここはおとなしく…


「すみませんが、一人で帰るので心配無用です。それでは」


僕はそこから、はや歩きではなく全力疾走で帰った。

走って帰るときには、相手の顔は見ていないからあの人間がどんな顔をしていたかなんてわからない。

でもこれでいい。

アイツも僕の名前を聞いていなかったし、僕も相手の名前を知らない。

ましてや、ああいう人間大好き野郎が、僕のようなモブの顔なんか覚えられるわけがない。


さっさと忘れよう。


そう思って過ごすしかなかった。

でも本当は、こんなにも心が揺らぐ人間は初めてで、人間と話していてこんなにも嫌な気持ちにならなかったのも初めてで、本当は…


『いや』


でも、もういいんだ。


今は、もう、いいんだ


こんなにも美しい日に、

人間という名の動物が消えていく日に、

アイツのことはもう気にしなくてもいいんだ。



涙が溢れて止まらない


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