3話 どう改造する?
3話 どう改造する?
「おやおや、センセーは、片親さんでしたか」
「べつに、珍しくもないだろう」
「そうっすね。むしろ、頻繁に見受けられるスタンダードなケースといえるっす。マジョリティと言っても過言ではないっすね」
「……離婚パターンなら、最近だと、あるいはマジョリティかもしれんが、流石に、死亡ケースは、マイノリティだろ」
「そうっすか? ボクはデザイナーベビーで、父親の方は、母が受胎する前から他界しているし、トコちゃんに至っては、両親ともストーカーに惨殺されちゃっているじゃないっすか」
「……『特殊なヤツ』ばかりが集まっている『閉鎖的な空間内限定のパーセンテージ』など何の参考にもならん。統計学をナメるな」
「自分も特殊だという自覚があるのは『全くない』よりもいい事だと思うっす」
「まあ、もちろん、特殊な連中の中だと、俺は、かなりマシな方だと思っているがな」
「ボク視点だと、最前線の死地に突撃しまくる戦場狂いこそ、一番ラリっていると思うっすけどね。ちょっとは命を大事にしてほしいっす。センセーが死んだら、トコちゃん、悲しむっすよ。トコちゃんには、センセーしかいないんすから」
「……」
「共依存状態から脱却する、いいキッカケになるとは思うんすけど、ただ、ボク、愛情による共依存に関しては、肯定派かつ、ハタから見ているとメシウマだから、脱却してほしくはないんすよね」
「直属の先輩を恋愛映画扱いするのはやめたまえ、大尉」
溜息をはさんで、
「そもそも、俺は、あいつに、依存などしていない」
「そうっすか? トコちゃんに対するセンセーの態度は、他の隊員に向けるソレとはあまりに違いがありすぎるんすけど」
「そいつは、すなわち、いわゆる、ひとつの、ちょっとした気のせいというヤツだな」
「その、『下らない言い訳』をする時に、顔と言語がムチャクチャになって超面白くなっちゃう御茶目な所、ボク、かなり好きっすよ、センセー」
ニタニタしながら、ナメた事を言いつつ、佐々波は、
「さて、そろそろ、カスタマイズを始めたいんすけど、いいすか?」
「てめぇがウダウダ喋っていたんだろうが。俺が邪魔をしているかのような言い方をするな。とっとと始めろ」
「で? どの系統に寄せるんすか? イーグルソウル? レーザーファルコン? 零色? ドラゴンホーク? セ改?」
その五つは、高名な五大熾天使が使用しているスタイルで、
専用剣翼カスタマイズの指針になっている。
「イーグルソウル」 オールラウンダー
「レーザーファルコン」 手数の多さ重視
「零色」 スピードスター
「ドラゴンホーク」 脳筋・火力全振り
「セ改」 装甲特化タンク
どれも、剣翼を戦場で運用するに当たり、
各分野に特化していながら、必要最低限の機能性を踏まえているスタイル。
戦術にも名指しで組み込まれているため、
正式な軍規に定められているという訳ではないが、
暗黙の了解で、
『自身の専用剣翼が、どのスタイルに寄っているのか、
あるいは、どのスタイルを組み合わせているのか』
――それを、報告書やマイカードに表記する事になっている。
「イーグルソウルとレーザーファルコンの間くらいで頼む。あらゆる状況に対応できるように」
「それだと、器用貧乏になっちゃわないすか? 特に、配られたばかりのレベルワン専用機は、拡張パッケージゼロで、ステをほとんど上げられないし、武装もショボいから、決定打に欠ける剣翼の象徴みたいになっちゃうっすよ」
「打つ手を完全に失う場面に遭遇して呆然とするよりは、清貧に喘ぐ方がまだマシだ」
「やれやれ、センセー。汎用ラブにもほどがあるっすよ。まあ、好きにしてくれていいんすけどね。ベクトルがなんであろうと、どうせ、ボクが調律して、センセーが駆れば、それだけで結局は無敵なんすから。ボクたち『ラブラブスーパーベストカップル』の前に敵は無しっす」
「ソウダネー」
「棒?! ちょっと、ちょっとぉ、心を手放すのは反則っすよ、センセー」
「流石に小ボケが多すぎる。サバききれねぇ」
「まったく、だからセンセーは永遠童貞なんすよ。そんなクソみたいな遺伝子じゃあ、センセーの子供も童貞確定っすね」
「……永遠童貞のヤツに、なんでガキが出来てんだよ」
「何言ってんすか。ボクの父親みたいに、精子を提供すれば、子供はできるじゃないっすか」
「……そのパターンでも、俺にガキはできねぇよ。誰も、俺の遺伝子なんざ欲しがらん」
「そうとも限らないっすよ。どこかの心優しい聖母のような女が、『誰にも買ってもらえないなんて、かわいそうに』てな感じで買う可能性もなくはないっす」
「ボランティアもそこまで行けば、ただの狂気だな」