2話 死ぬのが怖くないの?
たくさんの応援、本当に感謝です(*´▽`*)
現在、どうにか、日間の5位までたどり着きました!
2話 死ぬのが怖くないの?
軽口を叩いている間に、粗方の調整は終わったようで、
佐々波は、額の汗をぬぐいながら、
「ふぅ、下準備終わりっす」
「おつかれ」
「いやぁ、しかし、センセーは、本当に、すごいっすよねぇ。高二で大佐とかありえないっすよ。そもそも佐官って言ったら、普通は、『大学二年くらいまでに昇格できたらラッキー』っていう超高位の地位っすよ」
「常に最前線で暴れまくったからな。あれだけやって『昇進速度』が他の連中と同じじゃ、割にあわねぇ」
「前から聞きたかったんすけど、センセーは死ぬのが怖くないんすか?」
その問いを受けると、
天童は、グっと奥歯をかみしめて、
(逆だ)
と、心の中でつぶやいた。
「……センセー?」
(准将まで上がれば、司令部勤務の後方指揮がメインになる)
中将になれば、ほぼ確定で、戦場には出なくなり、
元帥ともなれば、百パーセント戦場には出なくなる。
(元帥になれば、天使昇格確定。その上、『主天使』スタート)
天使の階級は、九段階で、下から、
下位天使『 「小天使」「大天使」「権天使」 』
中位天使『 「能天使」「力天使」「主天使」 』
上位天使『 「座天使」「智天使」「熾天使」 』
(まあ、正直、キャリア特典はどうでもいい)
※ 中位天使スタートは、『元帥になった者』に例外なくあたえられる特典であり、
天童や安西のように『智天使候補』『熾天使候補』と評価されている者は、
『間違い』を犯さない限り、『そこ』からスタートとなる。
つまり、天童は、このままいけば、最上位天使スタートとなる。
警察で言えば、学校卒業した直後から警視総監みたいなもの。
(大事なのは、確定で不老不死になれるという、とんでもないメリット。最速で元帥になる事。それこそが、死のリスクを下げる最善の手段)
天童久寿男という男は、
関わった者全員から、
『あいつ、もしかして死にてぇの?』
と自殺願望を疑われているほど、豪快に命を晒して暴れまわるため、
周囲からは、戦場狂いのバーサーカーと評価されているが、
実際は、真逆の、臆病者だった。
母が唯一自分に望んだ『健康と長寿』を成すため、生命に対して貪欲――ありていに言えば、己の命に対しアホほど過保護な天童は、その大事な大事な命を守るために、『あえて前に出て戦う』という道を選んだ。
鬼神もかくやという働きを魅せて、とっとと将軍に昇格する。
そうなれば、実質、『あがり』なのだ。
(十二年も命を晒していられるか。俺は死ぬわけにはいかないんだよ)
母との約束。
健康で長生き。
それを成すためなら、天童は何でもする。
(前線で暴れるのは確かにリスキーだが、一年でも早く元帥になる方が、総体的に見た場合の危険度は、間違いなく低くなる)
『元帥になる』=『天使確定』=『命イェーイ』
(ようやく……ようやく、将官の一歩手前、大佐まできた。あと、二・三回ほど、大きな武勲をあげれば、どんなに遅くとも、大学入学までには『将官』に昇格できる)
大佐になったことで、『選抜戦のエースマッチ』や『大隊戦の総合指揮官』という、厄介な仕事が回されるようにはなった――が、
(自由にカスタマイズできる専用剣翼が手に入った今、正直、権天使(レベル3)までは、さほど怖くない。余裕ではないが、ほぼ確実に撃墜できるだろう。演習に出てくる天使の中では最強最悪の力天使(レベル5)が相手でも、逃げるだけならできなくはない。運次第では勝利も不可能ではない。もちろん、逃げられるなら逃げたいが)
「おーい、センセー」
(だが、当然、こんな本音を大っぴらに言えば『チキン評価』を受けて、査定に大きく響く。俺が目指しているのは、主の親衛隊。つまりは、主の盾)
『主』は、この世界の支配者。
偉大なる『主』の『お仕事』を簡潔に説明すれば、異世界との外交。
滅多に起きることではない(数千年に一回が精々)が、仮に、他世界の『主』とモメて戦争になった場合、メインになって戦うのは、天童の大学院卒業後の進路先である『天使軍』となる。
(自己保身第一の弱腰な盾など使い物にならない。最悪、戦意欠如、不敬、主を守る資格なしと判断され、除名される可能性だってなくはない――)
「セ・ン・セ」
ついに、佐々波が、声を甘くしながら、天童の耳に息を吹きかけた。
「……何をしている」
「愛情表現っす。気持ち良かったっすか?」
「俺の人生において、ワースト二位の体験だった。不快感も、なるほど、度が過ぎると、怒る気力さえなくなる。正直、吐きそうだ」
極度の不快感に歪んだ顔で耳をゴシゴシと拭く天童に、
佐々波は、ケロっとした顔で、
「ちなみに、不快体験第一位はなんなんすか?」
「ガキのころに、母親が死んだ件だ。流石のお前でも、あれ以上の心痛を、俺に与えることはできないだろう」