1001話 たくしたぞ、センエース。
1001話 たくしたぞ、センエース。
「お前では、足りなかった。……劣っているわけでも、覚悟がなかったわけでもない。足りなかったのだ」
「そうか……なら……」
「なら……なんだ? 辞世の句なら聞いてやるから、好きに歌え」
「なら、積んでやる……」
「ほう」
「積んでやるよ……たとえ、『俺』が終わっても……この覚悟……この想い、この執念だけは……絶対に遺してやる……そして、『次の主人公』に積んでやる……」
「……いいな、それ……」
最後にそうつぶやくと、
ソルは、
「お前を見ていると、つい『もしかしたら』と思ってしまうな。あるいは……もしかしたら……」
そこで、首を横に振り、
「いや……いやいや、期待はしない。甘い期待はいつだって絶望にかわるだけ。だから、期待はしない。絶対に……だが、しかし……」
最後まで言葉を繋ぐコトなく、
途中で言葉を切ると、
ソルは、
久寿男に右手を向けて、
「――異次元砲――」
右手から放出される強力なエネルギーの波動。
ようするには『か〇はめ波』。
無慈悲な照射が天童を包み込んで、
だから、
「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
結局のところ、天童は、ソルを相手に、ほとんどダメージをあたえることもできず、
最後には、影一つ残さずに消えた。
文句なしのバッドエンド。
天童久寿男は、ソルに負けた。
完璧に敗北した。
完全に死んだ。
しかし、それは『有機領域』に限定された『一部分』の話。
――絶対にあきらめねぇ――
――この絶望、この苦悩――
――つぶれそうだ。死んだ時よりもはるかに苦しい――
――しかし、それでも――
天童久寿男の『執念』は消えなかった。
その執念は、虚空を彷徨って、
舞い散りながら、
けれど、確かに、
――『彼』へと託された。
★
彼の名前は『閃壱番』。
地元で一番バカな公立高校で主席を張っているという、
『なんとも形容しがたい謎な経歴』を積んでいる奇妙なド変態。
閃は、スマホをタップしながら、
(究極超天使クズォテンドゥの成り上がり……か。タイトルだせぇけど、まあ、面白かったかな)
つい夢中で読み込んでしまったWEB小説。
さほど評価されている作品ではないが、
中身はなかなか面白かった。
(まさかのバッドエンドだったけど、まあ、鉄オル2期のラストもバッドエンドだったし、そういう『リアル路線』が、今の流行りって感じなのかね……俺は嫌いだけど……まあ、文句言ったって、しゃーねぇ。しょせんはWEB小説。どんなオチをつけようが、作者の勝手さ。……つぅか、この作品の主人公、一話目とラストで、性格かわりすぎだろ。この作者、成長期を過信しすぎ)
アクビを一つはさんで、
(さて、次は何を読もうかな……この『月光の携帯ドラゴン』とかよさそうだな……『スマホゲーの二次創作』っていう危うさが、逆にひかれる)
あらすじと一話目だけサラっと流し読みして、
(まあ、アリかな)
ブックマークをつけると、
そこでチラっと時計を確認する。
(……今なら、39分の電車に乗れる感じかな)
と心の中でつぶやきつつ、
帰り支度をしつつ、
(ブックマークつけた作品の数、エグくなってきたな。いやぁ、読んだなぁ……異世界系WEB小説……だいぶ、読みつくしたなぁ……マジで、俺の読書量、ハンパねぇなぁ)
などと、心の中でつぶやいていると、
隣の席の『反町』が、
「なあ、閃。今日、みんなとカラオケいくんだけど、お前もいく?」
その発言に対し、
閃は、まっすぐな視線で、
「いくわけねぇだろ。俺をナメんな」
と言い切った。
「……俺、お前のこと、まったくナメてねぇけど……むしろ、すごいやつだと思っているけど」
「いや、お前は俺の孤高力をナメている。俺は常に究極の孤高。『愛』と『勇気』という『パリピな友達』に囲まれて日和っているアンチクショウよりも一段階上にいる真のヒーロー」
「……はぁ」
「というわけで、俺は帰る。まっすぐに帰る。俺の名前はセンエース。帰宅部の永久欠番。運命を調律する孤高の大エース」
「ま、なんでもいいけど……あ、そうだ。明日のレクリエーションで必要なタスキ。買っておいてくれた?」
「は? タスキ? なに、それ? 概念レベルで知らんのだけど」
「え、誰からも聞いてない? マジか、誰かは言うとは思ってたけど……」
そこで、反町は、息継ぎをして、
「先週の金曜、放課後のホームルームできまったんだよ。お前は6限終了のチャイムと同時にそっこうで帰ったからもちろん知らんと思うけど」
「当たり前だろ。帰宅部のスーパーエースが『単位に関係ない放課後のホームルーム』に参加するといつから錯覚していた?」
「まあ、お前が参加しないことに関してはみんなもう諦めてるから、いいんだけど。――逆に『なんで今日は放課後に閃がいるんだ』って、みんなが不安を感じているレベルだし」
「5限終わりの休み時間で読み切るつもりが、ラスト少しだけ残っちまって、どうしようか悩んだすえ、結局、誘惑に負けて、放課後に、読みふけってしまった……帰宅部のエースとしてはあるまじき失態……なんて言っても、わからねぇだろうな」
「もちろんわからねぇよ。てか、わからせようと思って話してねぇだろ」
「まーねー」
「それよりも、買い出し分担で、お前がタスキ担当になったことに関しては、みんなあきらめていないからな。無視をしたらイジメに発展すると思え。ちなみに、イジメの内容は、文化祭実行委員長の強制任命だ」
「……すげぇ宣言かましてくるじゃねぇか、その『最果て』と断じるにいささかの躊躇も必要としない『最強の脅し文句』には、さしもの俺も、動悸と悪寒がとまらねぇよ……俺の心をへし折りにかかるとは、やるじゃねぇか、反町。俺はお前を認めたね」
「ありがとう。――というわけで、絶対に買い出しよろしく」
「うぜぇ……」
「そんな大変でもないだろ、一個買い物するだけだし。あ、でも、必要なのは『ただのタスキ』じゃなくて、『本日の主役』って書かれている例のアレな。じゃ、駅前のドンキでよろしく。この辺だと、あそこにしか売ってないからな」
「……だるぅ……」
ため息をつきながら学校を後にしたセン。
面倒くささと鬱陶しさに殺されそうになりながらも、
一応、『クラス内での最低限の空気』は読んでいくつもりの閃は、
言われたとおり、
駅前のドンキに向かっていた。
少し手前にある大きな交差点で、
「access‐行く方法 accompany‐同行 achieve‐成果を挙げる」
単語カードを使って、
一単語一秒の高速復習をしながら、
赤信号を待っていると、
そこで、
『『『『『……たくしたぞ……』』』』』
空から妙な声が聞こえて、
閃は、天を仰いだ。
「ん?」
天を仰いでも、もちろん、そこには青い空が広がっているだけ。
(なんだ、空耳? にしてはハッキリ聞こえたような……)
などと思っていると、
――キキキキキキキィィ!!!!!!
彼めがけて、
トラックが突っ込んできた。
そしてはじまる。
『数多の想い』を『その魂』に背負い、
『すべてのバッドエンド』を殺すために舞うヒーローの物語。
ここから『先』の物語は、
『センエース』で紡がれます。
下にリンクを張ってあるので、ぜひ!
バッドエンドのままでは終わらない!!