1000話 アリア・ギアス。
1000話 アリア・ギアス。
「お前は強い……強くなった……弱さを背負い、最強に届いた……だが、『私』には届かない。この事実には、私自身も、ため息しか出ない」
「俺の『底』を見た気になったな! そいつはフラグだぜ! 『その幻影』の一歩先へと踏み込んで、意地の風穴をあけてやる!!」
「むりだよ、天童久寿男。お前はすでに出し尽くした。一歩先はもうない」
「あるんだよぉおおおお!! 最後の最後のとっておきぃいいいい!」
そこで、天童は、亜空間倉庫から一本のナイフを取り出し、
――自分の胸に突き刺した。
天童の心臓を突き破る、死色のナイフ。
「なにをっ――」
いぶかしげな顔で声を漏らすソル。
天童は、ゴフっと血を吐きつつ、
胸から、だらだらと血を流しながら、
「か……覚悟を力に変えてやる!! 作楽を……佐々波を……高瀬を……安西さんを………………『母さん』を奪った貴様に! ……俺の全部をたたきつける!! 俺の全部で、貴様を殺す!! それ以外に、俺の存在理由は必要ねぇ!」
「上がっていく……膨らんでいく……素晴らしい。とてつもなく、すさまじい力……いいぞ、天童……その力、その覚悟……どこまでいく? 超えられるか? 私を!!」
天童久寿男の母、
この世界の主――『天童アリア』が、
ソルとの決戦後、
死に際に、愛する息子へ遺した『想いのナイフ』。
刃のような狂気の愛――その具現。
『我が子への想い』、
ソレを受け取った息子は、その莫大な想いを『最後の覚悟』にかえて、
この瞬間、
貪欲に、獰猛に、狡猾に、徹底して暴力的に、
――『ソルを殺すための力』を求める。
「俺は死ぬ気で望む!! 貴様を殺すためのだけの力! この出血量なら、俺はもう死ぬ!! 勝とうが負けようが、どっちにしろ、これが最後の闘い! だからぁああああ!! 俺を縛り付けるリミッターをブチ殺し、魂の全てを燃やし尽くせぇ!」
天童久寿男は、自分自身につきつける。
「絶死のアリア・ギアス、発動ぉおおおお!!」
想いを燃料にした覚悟が、燃えるように煌めく。
狂気的な『赤いオーラ』に包まれる天童を見て、
ソルは目を輝かせ、
「覚悟を力に変えるシステムか……秀逸だ。なにより、ネーミングがウルトラかっこいい……気に入った!」
言いながら、
『最後の特攻を仕掛けてきた天童』と対峙する。
火花が閃光になり、
加速をもって終焉を飾る。
激闘。
殺し合いというより、世界の削り合い。
ピカピカとチカチカと、
音と光が過敏に連鎖して、
世界を鮮やかに染めていく。
「天童久寿男。……お前の覚悟……非常に『美しかったぞ』……」
「ぐふ……くそ……なんで――」
「なぜ、か。お前の視点では、当然の疑問だろう。足りなかったから、というワケでもないはずだが……いや、結局のところは足りなかったのか。お前では、足りなかった。……劣っているわけでも、覚悟がなかったわけでもない。足りなかったのだ」
「そうか……」
そこで、天童は、
「……なら……」
ギリっと奥歯をかみしめてソルをにらみつける。
その瞳を受けて、
ソルは問う。
「なら……なんだ? 辞世の句なら聞いてやるから、好きに歌え」
「なら、積んでやる……」
「ほう」
「積んでやるよ……たとえ、『俺』が終わっても……この覚悟……この想い、この執念だけは……絶対に遺してやる! 俺の意地は終わらねぇ! 絶対! 『次の主人公』に積んでやるっっ!」