999話 混沌と終焉。
999話 混沌と終焉。
――天童は抗った。
己の全てを賭して、
大いなる混沌――『ソル』と戦った。
天童は強くなった。
ガキの頃とは比べ物にならないくらい、
候補生をやっていたころとは次元違いに、
強くなって、強くなって、強くなって、
そして、強くなった。
しかし、
「やはり、無理だったか……天童久寿男。お前ならばあるいはとも思ったんだが……」
大いなる混沌――『ソル』の言葉を受けて、
天童は、
「ふざけやがって……」
ボロボロの姿で、
しかし、
決して折れていない目でソルをにらみ、
「必死こいて……全部積んだのに……『てめぇに殺された作楽たち』の執念も覚悟も……全部、全部、全部……なのに、どうして届かねぇ……」
「さぁなぁ……それは私も知りたいところだ。お前だけじゃない……どうして、『誰』も『最後の壁』をこえることができない? どれだけ尽くしても、何を与えても……結局、『お前ら』は届かない。退屈だよ……本当に……ずっと、ずっと……退屈で仕方がない」
はるか遠くを見て、そうつぶやくソルに、
天童は、
すぅうと息を吸い、
「……俺じゃお前には勝てねぇ……」
吐き捨てた。
事実を述べる。
天童では届かない。
天童久寿男では、ソルには勝てない。
だからソルはうなずいて、
「ああ、そうだな」
至極つまらなそうに、
「貴様では私には勝てない」
事実を並列させる。
意味のない時間。
遠くを見るソルの心はからっぽで、
今に対して、驚くほど無関心。
――だったのだが、
「それでも……」
おもむろに天童が口を開いたのを受けて、
視線を虚空から天童にもどし、
「ん? どうした? 何を言う? 『それでも』……なんだ?」
「それでも……俺は……」
奥歯をかみしめて、
前を向く。
長い戦いの中で、
天童はとっくに、
あきらめ方を見失っている。
「どう転んでも、これが最後……負ければ終わり。勝てたら、もはやこの命に未練無し。だから、威勢よく叫ぼう。――さあ、てめぇは、全力で、耳をかっぽじれ」
ギンッッ!
と鋭い目でソルをにらみつけ、
「俺は……熾天使の首席にして天使軍総大将、究極超天使『天童 久寿男』――貴様を殺し『全ての運命』を守る者! すなわち! この世界の『主人公』だぁあああ!!」
叫びと同時に飛び出して、
すべての力を結集させる。
限界を超えて、
果て無く、
どこまでも膨らみ続ける、強大な力!!
――それを、
「貴様は間違いなく世界の主人公だ。しかし……足りない」
ソルは、涼やかな顔で受け止める。
子供の駄々でもあやすみたいに、
優しく、平熱のまま、
「お前は強くなった。『カス以下だったガキの頃』とは比べ物にならないくらい強くなった。正直、お前のような心根の持ち主がここまでくるとは思っていなかった。とんでもない奇跡……いや、もしかしたら、その弱さが必要だったのかもしれない」
おだやかに、落ち着いた口調で、
「お前は、『弱さ』を知っていたからこそ『その領域』にまでたどり着けたのかもしれない」
『最初』から強かったら、ここまで抗うことはできなかったかもしれない。
――なんて、そんなことを思いながら、
ソルは、
「お前は強い……強くなった……『弱さ』を背負い『命の最強』に届いた……だが、『私』には届かない。この事実には、私も、ため息しか出ない」
「俺の『底』を見た気になったな! そいつはフラグだぜ! 『その幻影』の一歩先へと踏み込んで、風穴をあけてやる!!」
「むりだよ、天童久寿男。お前はすでに出し尽くした。一歩先はもうない」
「あるんだよぉおおおお!! 最後の最後のとっておきぃいいいい!」