エピローグ2「絶望」
エピローグ2「絶望」
「聞いた時、普通に『ウソやろ』って思ったんすけど、彼女、安西元帥と同じで、暫定評価が智天使(レベル8)候補らしいんすよ」
「ウソやろっ?!!」
つい、トコのモノマネが入ってしまうほどの驚愕。
佐々波は続けて、
「実際、あの子、成績だけ見たらヤバんすよ。技術士官適性だけは0%なんすけど、戦闘技能評価A+で、入学式直前に受ける士官適性試験で、歴代三人しかないオール満点を叩きだしているそうっす」
「あのクソむずい上にバカみたいに膨大な量のイカれたテストで、満点を取ってんのか。すげぇな、あいつ……」
「というわけで、当然のように『センセーに撃ち殺されたという記録』はデリート。晴れて、天使候補に舞い戻ったっす。――というわけで、結果、センセーの損耗率も0に回復という結末っす」
「……他の候補生には、その辺、なんて説明してんだ?」
「説明なんていらないじゃないすか。記憶をちょっとイジったら、それでおしまいっす。ていうか、もともと、時限式で記憶が書き換えられるようになっていたみたいっすね。さすが、主。手際がいぃっすよねぇ」
「……」
「と、いうわけで、類稀な上位天使候補である彼女も、センセーの従者に選ばれましたとさ。めでたし、めでたし」
「終わんな。まだ聞かなければいけない事はヤマほどある。そもそも、従者ってなんだ。そんなもんいらん。俺は一人暮らしを満喫している。というより、俺には一人暮らしがあっている。孤高、ばんざい」
「と言われても、主の命令っすからねぇ。ボクにはどうしようもないっす。あーイヤだ、イヤだ。センセーの夜の御世話、ヤダなー。ローションまみれになるのヤダなー。縄で縛られるのヤダなー。お尻の穴に炭酸水を注入されるのヤダなー」
「お前は、俺を、どのランクの変態だと思ってんだ。つぅか、こんな状況で、エロネタのエンジンを噴かせんな、鬱陶しい。頼むから、必要な説明だけを事務的に粛々と行ってくれ」
「なんでも、センセーの供回りは、最低でも三人は必要で、全員が優秀じゃなきゃいけないらしいんすよ。大事な息子の世話をする者は一人や二人じゃ足りない。あと、無能になど絶対に任せん……って事らしいっすよ」
「……ほんと、どこまで過保護なんだ、あのオバハン……」
「大事な、大事な、『世界を統べる者』の後継者っすからねぇ。多少、過保護になっても仕方ないんじゃないっすか?」
「全体的にみっともなさすぎる……マジで顔から火が出そうだ。『気になっている女』の前で炸裂する『母親の過保護』なんて、思春期の男子高校生にとっては、恐ろしく凶悪な『会心の一撃』でしかないという事を、あのババァはどうして理解できないんだ」
「センセーのみっともない所なんて見飽きているんで、今さら、ちょっとダサいところが増えたからって、ボクもトコちゃんも、別に何とも思わないっすよ。『ウンコ』に『ホコリ』がついたからって、何とも思わないみたいな感じっすね」
「今、確信した。おまえ、やっぱり、俺の事、嫌いだろ」
「大好きっすよ。じゃなきゃ、一緒に暮らそうなんて思わないっす」
「仮に、お前がマジで俺に好意を持っていたところで、一緒に住むのはおかしいだろ」
「難しく考えなくていいじゃないっすか。みんなで楽しく暮らせばいいだけの話っすよ」
「お前はこの状況を『イカれている』とは本気で思わんのか?!」
「トコちゃんを含めたセンセーとの三人暮らしは密かに画策していたんで、想定より少し早くなったなぁ程度なんすけど、高瀬が混じってきたのが大分イレギュラーなんすよねぇ。彼女とは、仲良くやっていけるか、ちょっと心配っす」
「大尉。まずは、とにかく『心配するポイントが途方もなくズレている」という事実に気付きたまえ」
「新しい女だからって、彼女ばっかり相手にしちゃダメっすよ」
「会話する気がないのか、お前は!」