7話 そもそも、作楽トコがなんだってんだ……
7話 そもそも、作楽トコがなんだってんだ……
「……できない……」
「きもっ! なに泣いてんねん。きっしょいわぁ! おまえ、ほんま、なんやねん」
「……できない……」
「あ? 聞こえん! なに、ブツブツ言うとんねん! 男なら、ちゃんと喋れ! カス!」
作楽は、叫びながら、
ライフルを抜いて、天童に向って放った。
天童は、体をよじって、どうにか避ける。
作楽トコのスペックは熟知している。
ハッキリ言って、天童からすれば、大した相手ではない。
今のような極限状態でも、勝つだけなら造作もない。
というか、サシで天童に勝てる人間は、現状、一人もいない。
これほどボロボロの現状でも、人間が相手なら勝利は決して難しくない。
いや、人間でなくても勝てる。
天童のスペックはモノが違う。
たとえ、また、安西と再戦といわれても、決して負けはしない。
ぶっ通しで9999回も『敵を殺すことだけ』考えてきた天童の、
システマティック化され過ぎた脳は、
考えようとなどしていないのに、
一瞬で、何千通りもの、
『作楽を殺す手順』を紡ぎ出す。
楽勝。
本当に『その気』にさえなれば、いつでも殺せる。
殺せる――そう考えただけで、頭がしめつけられる。
心が軋む。
(作楽は……あの女は、本気で俺を殺そうとしているんだぞ……)
頭の中にいる『弱い自分』が囁く。
(俺を覚えてもいない相手に……俺を殺そうとしている相手に……何をためらう必要がある)
生存本能が、必死に叫んでいる。
心の深い部分に根付いた戦略的視野が『闘え』と背中を押してくる。
『生き残る事』だけを考えて、必死に頭を動かせと喚いている。
(そもそも、作楽トコがなんだっていうんだ。俺にとって、特に何でもない相手だろう。クラスメイト? 部下? だから、なんだ。母さんに似ている? だから、なんだよ……)
バカバカしい。
『守る価値があるかどうか』は知らんが、しかし、
少なくとも『守らなければいけない相手』ではない。
ただの他人。
いや、もっといえば、
天童久寿男の華々しいサクセスストーリーを邪魔する迷惑で害悪な他人。
(正当防衛だ。この女を殺したからといって、何の罪もない。というか、罪の意識など、天使になってしまえば、おそらく、微塵も残らずに消えてしまう。おそらくというか、確定。今まで、一人たりとも、人間を殺す事をためらっている天使はいなかった)
冷静に考える。
ここで躊躇して死んでしまう『愚』を想う。
(ここまでの苦労を無駄にする気か? どれだけしんどかった? さっきの試験も大概だったが、下士官だった中学時代に、どれだけ危ない橋を渡った? 何度も何度も死にかけながら、それでも必死に駆け抜けてきたのは何のためだ? せめてもの親孝行として『永遠に生きるため』だろう。なら、こんなところで、死んでいる場合じゃないだろう。そもそも、この女を殺したからなんだって言うんだ?)
天童の頭がどんどん冷たくなっていく。
(仮に、ここで、この女に『お情け』で殺されてやって、どうにか、こうにか、生き永らえさせたとしても、『この女が次の演習でアッサリと死ぬ可能性』はゼロじゃない……というか、比較的、その確率は高い。なんせ、そのルートだと、俺の庇護と加護がなくなるんだからな。自慢じゃないが、俺の指揮下にあったから、こいつは今日まで生きてこられたんだ。それに……)
『生き延びられて、他の男と共に生きている姿』を想像するだけで吐き気がする。
――作楽トコが、知らん男とSEXをしている姿。
妄想だけで死にたくなる。
心が裂けそうになる。
ああ、そうだよ。
そうだろう?
イヤだろう?
自分が死んで、
この女が生き残る。
そんな未来になんの価値がある?
(作楽トコを殺せ。それが最善だ。もう考えるな。単純な話だろ。本当に快活な話だ。ここで、こいつを殺さない理由は、何一つない)




