6話 最後の闘い。
6話 最後の闘い。
『それでは、最後の闘いといこう。キッチリと、美しく飾って、誰しもの記憶に残り続ける、永遠にして無上の伝説になりたまえ』
「……はぁ……」
安西戦がおわり、どこかホっとしている天童。
普段の百倍近い重力を感じながら、天童は、そよ風に吹かれただけでも折れてしまいそうなほど、脆そうに、激しくプルプルしつつも、どうにか、こうにか、
「確認する……本当に、あと1回で……終わり……だよな……」
気力の搾りカス。
擦れた声。
『そうだ』
「……よし……さっさとはじめよう。いい加減、倒れそうだ。……で? 最後は、どういう闘い?」
『最後の一戦は、人間と闘ってもらう』
「……にんげん……?」
『最後に、その手で人間を殺すことで、貴官は完全になる』
「あ、そ……」
人間を殺せ――ふつうに考えれば、なかなかとんでもない命令。
しかし、天童は、心の底から、『本当に楽な最後で助かった』と思った。
「何人ほど殺す? ……1万人でも、100万人いいぞ……一瞬で……消炭にしてやる。俺は迷わない……俺はもう、覚悟を決めたんだ……」
『一人だけでいい』
「一人……はっ……マジで、すげぇ楽……」
『ちなみに民間人ではなく候補生だ』
「……ぇ……」
ゾっとした。
候補生を一人、殺せ。
となると、浮かぶ、一つ可能性。
(ぃや……まさか……)
嫌な予感が止まらない。
絶望的な予想が加速していく。
心臓がミシミシと音をたてる。
『その相手は、彼女』
扉がゆっくりと開いた。現れたのは、
『貴官の部下、作楽トコ。彼女を殺すことで、貴官は天使になれる』
「……」
当たってほしくない推測ばかり、いつだって、妙に当たりやがる。
ボロボロの頭で、どうにか状況を理解しようとするが、
「なんで……」
当然、うまく、頭が働いてくれず、
ただただ、理解できた内容だけを反芻して、ポロポロと涙を流す。
膝から崩れおちる。
「……なんで……」
理解はできる。
ここまでに経験してきた『天使』という生命体の『実情』を基に考えれば、この流れは、決しておかしくない。
むしろ、妥当。
妙に納得できる。
できるからこそ、
「……イヤだ……」
大粒の涙を流して嗚咽する。
『貴官は素晴らしい。いずれ、最も主に近い席に座る、偉大な天使になるだろう。しかし、そのためには、この女――作楽トコは邪魔だ。調査の結果、この女は貴官の価値を落とす足かせでしかないと判断された。その手で殺す事によって、貴官は、真に偉大で完璧な最強無欠の天使になれる』
「……それだけは……」
『立ちたまえ。ここまでたどり着いた修羅よ。全ての苦労をなかった事にする気かね』
「……」
『せめてもの配慮として、彼女の頭から、貴官に関する記憶を消しておいた。礼はいらない。さあ、心おきなく、彼女の御霊を葬りたまえ』
「……記憶……ぇ……」
『今の彼女にとって、貴官は、ただの敵だ。彼女にはこう伝えてある。天童久寿男という天使候補を殺せば天使になれる。彼女は快く承諾してくれた』
「……」
『さあ、人間としての未練を断ち切って、完璧な天使になりたまえ。ちなみに言っておくが、辞退は許さない。貴官か彼女か、どちらかが死ななければ、そこから出ることは出来ない』
天童は、そこで、作楽の顔を見た。
彼女の目には、いつもの温かみなど何もない。
極めて冷徹な『抹殺対象』を睨む瞳。
――初めて会った時の表情。
(作楽……)
「別に、どうしても天使になりたいわけでも、不死身になりたいって訳でもないんやけど……殺されんのは、流石に、何かイヤやから……反撃させてもらう。全力で殺したる。恨んでもええで。気にせぇへんから」
冷たく宣言すると、作楽は、ブレードを抜いて、斬りかかってきた。
反射的に、天童は、その攻撃を自身のレーザーソードで弾く。
「やめろ……」
天童は、グシャグシャの顔で、ポロポロ泣きながら、
「……イヤだ……」
鼻水をたらし、嗚咽しながら、
「……できない……」
「きもっ! なに泣いてんねん。きっしょいわぁ! おまえ、ほんま、なんやねん」
「……できない……」
「あ? 聞こえん! なに、ブツブツ言うとんねん! 男なら、ちゃんと喋れ! カス!」




