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2話 佐々波 恋。


 2話 佐々波 恋。


「何、話してたん?」


 教室に入って、席についてすぐ、後ろの席に座っている作楽が声をかけてきた。


「話?」

「さっき、くっさい媚びヅラしたビッチ丸出しのゲロ女と話してたやん。なに、あの雑巾の搾りかすみたいな女」


「……ああ、高瀬の事か」

「高瀬って言うんや。へぇ。ふぅん。どんな御関係?」


「新兵だ。ウチの部隊に配属されたらしい。その挨拶を受けた」

「……なーんや」


「なんだとは、なんだ?」

「べつに~」


 言いながら、作楽さくらは、ボールペンの先で、天童の背中をつつく。


「少尉、私の背中に穴をあけようとするのを今すぐやめたまえ。これは命令だ」

「あれぇ、知らへんの? 演習外では命令聞く必要ないねんで? 無知やなぁ」


 楽しそうに笑いながらナメた事をいってくる彼女の顔を見て、

 天童の心は、ポカポカと温かくなる。


(当たり前のように笑えるようになったな。『常時、世界を威嚇していただけ』だった中学時代の険しい顔を思い出すと、思わず泣きそうになるくらい、可愛く笑えるようになった)


 初めて会った中一の春から中二の秋くらいまで、作楽は一度も笑った事がなかった。

 笑うとか、笑わないとか、そんな次元じゃなかった。


 腹を空かせた野獣のように、とにかく溢れんばかりの敵意だけをむき出しにして、周囲にいる全ての他者を威嚇していた。


「ちなみに、あの絞りカスとは、他になにを話してたん? 挨拶だけにしては、ちょっと長かった気がすんやけど」


「大した話はしていない。――『C‐7番隊はかなり厳しい部隊だからやめておけ』と上から言われなかったか? と尋ねたら、『俺と闘いたいから是非にと志願した』という返事がきた。わざわざ嫌われ者の俺の部隊にくるとは、随分と奇特なヤツだ。マゾなのかもしれん」

「……」


「作楽? どうした?」

「なるほどね~、ふぅん」

「何がだ?」


「べーつーにー」

「少尉、私の後ろ髪を引っ張るのを今すぐやめたまえ」






 ★






 その日の昼休み、天童と作楽と向かい合って弁当を食べていると、


「セーンセ」


 なれなれしく、天童の首に、その長い腕を回してくる女が現れた。


「絡むな、鬱陶しい」


 心底からしんどそうな顔で、彼女を払いのける天童。


 背後では、シャツのボタンを三つ目まで開けて、深い谷間を惜しげもなく晒している、妙に手足の長い褐色肌の女が、鋭い八重歯を煌かせて、ニタニタと笑っていた。


 限界まで短くしているスカートをヒラヒラさせながら、


「うわ、センセー、態度が荒いっすねぇ」


 挑発するように、ロングの艶やかな黒髪をかきあげながら、


「愛らしい後輩が、こんなにエロ可愛く慕っているんすから、もっと、こう、抱きしめる的な対応で迎えてほしいっす。はい、というわけで、やりなおし」


 さぁ抱き締めろと言わんばかりに両手を広げている、そのクソ面倒くさい後輩に、


「佐々波。要件を言え。端的に、短く。そして、すぐに消え失せろ」


 『決して下品ではないのだが少々ラフ過ぎる彼女』に、天童は辟易する。


「つれないっすねぇ。本当は、こんがり肌で巨乳のエロ可愛いボクの事が好きで好きで仕方ないくせに。知っているんすよ。今朝も、ボクをオカズに、朝勃ちを鎮めてきた事くらい。まったく、妄想の上とはいえ、あんなことや、こんなことまで……センセーったら、もう、ドスケベなんだからぁ」


 器用に頬を赤くしながらシナを作る佐々波を見て、我慢の限界を迎えた作楽が、


「二択や、クソガキ」


 ほとんど一瞬で、距離をつめると、佐々波に、豪快な喉輪を極め、


「くぇぇ~」


「さっさと本題に入って死ぬか、本題に入る前に死ぬか。もういっそ死ぬか。どれや? おぉ、ごらぁ!!」


 血走った殺人鬼的双眸そうぼうが止まらない彼女を見た天童は、やれやれと首をふりながら、


「少尉、落ち着きたまえ。そのめ方では死んでしまう。そして、その状態では喋れない。あと、選択肢が三つあったぞ。二択じゃなかったのか? ……というか、実質、『殺してやる』の一択だったが」


 天童に止められた作楽は、


「ちっ」


 と舌打ちをして、ゆっくりと手を離した。


「けほ、けほ。センセー、苦しいっす。喉、痛めちゃったっす。ほら、見て見て」

「久寿男に近づくな、クソガキィイ!」


 佐々波の艶やかな黒髪に掴みかかりそうになる作楽を、天童は、必死に、


「どーどーどー」


 となだめながら、

 佐々波に視線を送り、


「佐々波、本当に面倒くさいから、マジで要件を言え。五秒以内に言わんと、問答無用で教室から叩きだす」


「後輩とのコミュニケーションを拒絶するなんて、酷い隊長っすねぇ。ボクたちは、もっと密に関わっていくべきだと思うんすよ。センセーだって、本当は、ボクの柔らかいおっぱいをモミモミしながら、二人の将来について、じっくり話したいと――」


「余裕で五秒経過だ」


 そう言って、佐々波の首根っこを掴む天童に、


「きゃー、チカーン、セクハラァ!」

「久寿男を、チカン呼ばわりしやがったな、このクソガキャァ!」



「あー、めんどうくさい!」




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