1話 あとは、わかるな?
1話 あとは、わかるな?
「――せんぱぁい、なんですかぁ? もしかして、シメられる的なアレですかぁ?」
昼休みに、天童久寿男の事で話があると屋上に呼び出された高瀬。
『面識のない高等部の先輩に呼び出された』というのに『まったく動じていない高瀬』の『異様なまでの胆力』を佐々波は面白がり、その横で、作楽は、状況そのものに対して酷く鬱陶しそうにしている。
切り出したのは、佐々波。
右手首を、高瀬の目線まで上げて、
「ボクたちのコレを見てほしいんすよ」
二人とも、手首に、天童と同じロザリオを巻いている。
「……」
当然、深読みしてしまう高瀬。
そんな彼女に、
佐々波が、ニィっと笑い、
「ボクとトコちゃん、そして、天童久寿男の三人は、まったく同じ形状のアクセサリを身につけている。あとは、もうわかるっすね?」
――あの時、高瀬は見ていた。
天童が、ロザリオを握りしめながら『デビルなんとか、起動』と叫んでいたシーン。
その直後に、剣翼が顕現した、あの衝撃的なシーン。
ということは、つまり、
「へぇ。じゃあ、あんたたちも――」
「そう。つまり、ボクらは、天童久寿男大センセーに調教された、ペット一号と二号で――いたっ」
「もう、お前、喋んなや、クソガキ」
即座に佐々波の頭をシバいた作楽は、
心底タルそうに、溜息をついてから、
「スパっと本題に入れ、ボケ。何のために、あたしと、そこの中坊を呼んだか、はよ、言えや、カス」
「喋るなと言ったり、言えと言ったり。トコちゃんは、情緒不安定っすねぇ」
「ハシャぐんも大概にしとけよ、あほんだら。あたしも、このガキに言いたい事あるんやから、はよ本題に進めや」
ギャーギャー言っている二人を見ている間、高瀬は、
(……まさか、あの男、この二人のどちらかと付き合っている? ていうか、雰囲気的に、もしかして、両方と? このレベルの女を二人も侍らすって……あいつ、そこまでの男なの? いや、まあ、確かに、強かった。戦っている所はイケてた……でも、それだけで? いや、それ以外にもあるんだ。きっと……あの男には、もっと『破格のとんでもない魅力』か、もしくは『なにかしらの、女の欲を満たす特典』がある。そうじゃないと、この二人みたいな超絶級の美少女が、あの程度の男の相手をする訳ない)
人間の心理は複雑怪奇。
どんなに『穿った見方』をしても『超絶的』と認めざるを得ないほどの『イイ女』に選ばれた男。
それも、タイプがまったく違う、二人のイイ女に、選ばれた男。
『たった一人』に選ばれただけなら、たまにある『美女と野獣』、『タデくう何とか』に過ぎないと捉える事も出来るが、絶対的に趣向が違うであろう二人の超絶的な美女に選ばれているとなると、
それは、もう、
(欲しい……絶対に欲しい)
あの男にとんでもない価値・ブランドがあるのは確定。
それだけでも垂涎だが、
これほどの美少女たちから奪い取る事が出来たら、どんなに愉快痛快だろう。
もし、達成できたら、彼女の『女としての矜持』がリミットを超えて満たされることは間違いない。
これ以上ない獲物。
絶対に落としたい。
(でも、今のままだと話にならない。多少、強引でも、ある程度まで距離を縮めておかないと、土俵にもあがれない。今からでも会いにいって、放課後の約束をとりつけるくらいしないと、この二人にぶっちぎられるだけ)
覚悟を決めると、
「あのぉ、用がないなら、帰っていいですかぁ? 私も、ヒマじゃないんでぇ」
さっさと天童を探しにいこうと踵を返した高瀬に、
佐々波が、
「用件は一個だけっすよ。――高機動型強襲五改、起動」
唐突に、剣翼を発動させながら、
召喚したショットガンの銃口をつきつけながら、
「――あんた、誰っすか?」
「ぇ……なに……ちょっと、ちょっと」
剣翼という万能兵器の異常なまでの凶悪さを知っている高瀬は、
冷や汗を流しながら、両手をあげて後退り。
高瀬に銃を突き付けて問いかけている佐々波に、
作楽が、いつも以上の訝しげな眼で、
「おどれ、正気か? なに、民間人相手に銃を抜いてんねん」
「この女、民間人じゃないっすよ」
「はぁ?」
「深いところまで潜って調べてみた結果、高瀬美奈という女のデータはおかしな所ばかり。経歴も成績も、書類によってバラバラ。おそらく、こいつは『この世界の人間』じゃない。多分っすけど、異世界からきたスパイかなにかっす」




