31話 飛び級試験。
31話 飛び級試験。
『飛び級試験』の会場は、中学入学前に、幾度となく足を運んだ『旧体育館地下二階』のさらに下だった。
地下一階は工房だが、二階にシミュレータルームがあって、『適正あり』と判断された小学生は、入学までの半年間ほど、そこで剣翼のトレーニングをする。
親の顔より見たシミュレータルームを横目に、
天童は、その下にある地下三階へと足を運んだ。
(そういや、地下三階に降りるの、はじめてだな)
コツコツと、石の階段を降りて、重そうな鉄の扉を開けると、
(広いな……工房の五倍くらいか)
何もない広い部屋があった。
その部屋は、真っ白な壁に覆われているだけで、本当に何もなかった。
部屋に一歩、足を踏み入れたところで、
『中央に立ちなさい』
どこからともなく声が聞こえてきた。
スピーカーなどはない。
しかし、部屋全体に万遍なく響く声。
『照合する。所属と階級と名前を』
「部隊序列一位、特殊精鋭部隊C‐7番隊隊長を拝命している、天使候補軍大佐、天童久寿男であります!」
『――結構。御託は抜きにして、さっそく試験を開始する』
その宣言と同時に、真っ白だった部屋に詳細な色がつきはじめた。
数秒で、何もない部屋から、広大な荒野に変化する。
(フィールドも形成するタイプのシミュレータルームか。凝っているな)
『試験内容は、五対五の中隊戦。敵味方の剣翼と階級はランダム。ただし、君の部隊は、常に、敵部隊より、かなり弱く設定されている』
(それって、つまり、いつも通りって事じゃね? うーん……なんつーか、ずいぶんと、簡単な試験だな。兵隊の数が少ない中隊戦なんて、指揮官の腕次第。戦力差なんて、よっぽどじゃない限り、どうとでも引っくり返せる。つーか、わざわざ、改まって、それもシミュレータで試験しなくたって、中隊戦なんか、天使相手に、何度もやって――)
『なお、その条件の中隊戦を、今から、休まず一万回、行ってもらう』
「……はぁ……?」
一瞬、耳が壊れたのかと思った。
「いちまん? ……いちま……いやいや、聞き間違いですよね? な訳ないですよね」
『いや、聞き間違えてはいない。これから、ランダム中隊戦を、休むことなく一万回行う。合格条件は、全勝だ。一敗でもすれば、その時点でテストは終わり。不合格だ』
「中隊戦っつったら、一回、平均、25分くらい……どんなに早くとも、15分はかかるんですけど……」
『だから、どうした?』
「いや……一万となると、えっと……ザっと計算したところ、軽く200日近くかかるんですけど……」
『時間については気にしなくていい。その部屋の時間は凍結されている』
「あ……そう。え、ていうか、そういう問題じゃ……ぇ、マジかよ? ……マジで一万回やんの? 中隊戦は、比較的、楽な戦いではあるけれど、一万を休まずとなったら、さすがに精神が持たな――」
『大佐。つまりは、貴官の【その部分】――【貴官の芯】を見極める試験というわけだ』
「……」
『本来、十二年かかるところを、五年に短縮しようというのだ。200日かかるテストだったとしても、そうおかしくはあるまい』
「まあ……そりゃ、そう言われれば、ぐうの音も出ないですけれど……ていうか、休むことなくって、どのレベルで? 睡眠は?」
『一時的に、睡眠と食事が不要になるAPPを、君の剣翼に、インストールしてある。あまり長期間使用すると、細胞が劣化するのだが、200日程度なら問題ない』
(200日が長期というカテゴリにおさまらないって、どんな時間感覚……永遠の命を持つと、そういう感覚になるのか?)
『おしゃべりは終わりだ。さあ、はじめよう』
(マジでか……一万って……中二の時、一度、中隊戦闘を五回連続でやらされたことがあるが……たったの五回でも、精神がかなり摩耗したんだぞ)
しかも、当時は、指揮官ではなく、下士官として、命じられるまま、目の前の敵と戦うだけだった。
一応、すでにエースだったため、『エース天使と戦わされまくった』という直線的なしんどさはあったが、
(指揮官として何年かやってきた経験から言わせてもらえれば、比べた場合、ぶっちゃけ、やっぱり、下士官の方が、総体的には楽だ)
冷や汗が浮かんだ。
中隊戦を一万回。気が遠くなる。ゴールがかすみ過ぎている。
『走って火星まで行ってこい』と言われた気分。
(中隊戦を一万回とか、頭おかしい……しかも、全勝って……出来るか? いやいや、無理だろ、普通に考えて)
あえて言おう。
この作品は、センエースの正統なる過去編です(*´▽`*)




