23話 『体調不良方面』に向いた『ベクトル性』の『アレ的』な理由。
23話 『体調不良方面』に向いた『ベクトル性』の『アレ的』な理由。
その日の昼休み。
珍しく、中央食堂(の片隅)で昼食を取っていた作楽トコは、
隣でカレーうどんをすすっている天童に、
「あ、そういえば、聞くん忘れとったけど、朝、なんで遅れたん?」
「……」
麺をすする挙動がピタッと止まる。
天童は、
「あー」
わずかに、脂汗をにじませながら、
「んー、それは、つまり、その……ぞくに言う『体調不良方面』に向いた『ベクトル性』の『アレ的』な理由だ」
「何一つ分らんのやけど。何言うてんの?」
「つまり、その……腹が痛んだ的な属性の領域内における」
「いやぁ、センセー、やるじゃないっすか。今朝の情事、見させて貰ったっすよ。学校来る前に、一発、可愛いギャルとのデートを挟むとか、マジ、それ、なんてエロゲ?」
前触れもなく湧いた佐々波の発言に、
作楽は、ピクっと顔面の筋肉を痙攣させた。
「え、どういうこと?」
「あのイカレ女は頭が炸裂している。それだけの話だ。今更、気にする事でもな――」
「ちょこっとだけ話を聞いたんすけど、彼女、トコちゃんが撃ち殺した新人の姉妹――」
「さざなぁぁみっっ!! 大事な話がある! 集合! こっちこぉおおい!」
天童は『アホの腕』を引っ張って、中央食道の裏口から外に出ると、
音が漏れないよう、遮断フィールドを張り、
ドンッっと、『バカの背中』を壁に叩きつけて獅子の目でにらみつける。
「いやん、センセー。はじめてだから、やさしくしてほしいっす」
「どういうつもりだ」
「ん? 何がっすか?」
「てめぇなぁ」
「本音で言えば、トコちゃんの事は好きだから、別にいいんすけど、ぽっと出の三人目は、なかなか、どうして、許容しがたいものがあるんすよ。どうやら、ボク、自分で思っている以上にセンセーの事を気に入っているみたいっす。あと、独占欲も強め? きゃっ♪」
「あいつは、高瀬の妹で、そのせいか知らんが、とにかく、なぜか、ミッションの記憶を残している。当然、そんな事が上にバレたら、あいつは消される。『どう対応すればいいか微妙だ』という俺の『多角的な困惑』くらい、お前の頭なら理解できるだろ」
「まったく、センセーは、ちょっとスタイルのイイ子を見つけたら、すぐに鼻の下をのばしちゃって。この浮気魔! 性欲の化け物! ほんと、先が思いやられるっす」
「頼む、佐々波。お前の頭なら、何もかもが完全に理解できているはずだ。これ以上、俺をイライラさせるな。いろいろと、立て続けに、訳の分からんコトがまきおこりすぎて、流石に、一杯一杯なんだ」
「そんな状況なのに、相談もしてくれないなんて、酷いっす」
「……ぁあ?」
「ジャイアンにボコられた直後の野比くんばりの勢いで、このドラえもん以上の対応力と包容力を誇るボクの『豊かな胸』に飛び込んでくるものだとばかり思っていたのに、何にも言わず、なぜか呑気に太麺をすすっているんすもん。イラっときてイジワルしたくなっても仕方ないじゃないっすか。まったく、久寿男さんったら! ぷいっ! もう知らない!」
「びっくりするほど気持ち悪いから『なぜ始めたのかさえマジで不明な、その全く似ていないシズカちゃんのモノマネ』を、いますぐやめろ。イライラする」
「で、実際、どうするつもりなんすか?」
「……どうすればいい?」
「聞いているのは、ボクなんすけど」
「わかんねぇよ。だから、教えてくれ。ここ最近、マジで、短期間に色々と起こり過ぎて、どう対処すべきか、ほんとのほんとのマジで、もう、わかんねぇんだ」
「ボクの視点では、『上に報告して処分する』の一択っす」
「あいつは、さく……俺が殺した部下の家族だ。贖罪なんて概念にすがるつもりは毛頭ないが、俺の精神衛生的に『そういう人間』には、なるべく生きていてもらった方が、どちらかといえば、ありがたい。そもそも――」
「――うだうだ、うだうだと……ったく。ちっせぇ男だなぁ」
「あ? てめぇ、今、なんつった?」




