22話 結局、俺は何も成長していない……
22話 結局、俺は何も成長していない……
「まあ、悪魔みたいな天使が彼氏とか、超オモロイから、どうしてもって言うなら、付き合ってあげてもいいけどね」
「……はぁぁ……なんか、最近、こんなんばっか……しんどぉ」
「なに、その態度、超シツレーなんですけど(あれ? もしかして、彼女持ち? 案外、モテる? まあ、背ぇ高いし、闘っている時は、そこそこイケてたから、ない話でもないか。となると、話は変わってくるんだよねぇ。特に略奪願望が強いってわけじゃないけど、やっぱり、人のものは美味しそうにみえちゃう系。ガチで攻めてみるか。あたしなら落せるっしょ)」
捕食者の目になってきた高瀬のトイメンで、
『彼女がそんな事を考えている』などとは知るよしもない天童は、
彼女の思考とは正反対の思いつめた表情でガッツリと悩んでいた。
(この状況は、あるいは、心につっかえていたものにフタをする、いいチャンスなのかもしれない)
それは、誤解と勘違いを元に構成した、
『完全に間違っている結論』であり、
そして、
(正直、もう、この件でグダグダ考えるのは、しんどい……)
そうでなくとも、やはり、選ぶべきではない『最低の選択肢』だった。
結局のところ、今、天童が選んだ道は『楽になりたい』という、それだけの甘え。
まだ心の片隅に残っている『甘ったれた部分』に支配されてしまった。
だから、
「お前の家族を殺したのは俺だ」
「……ぇ?」
「とはいえ、あれは単なる事故だ。謝罪する気はない」
「……」
「ただ『怨みを抱かれる事』に関しては許容してやる。好きだけ、存分に、心ゆくまで憎むがいい。謝罪をする気も、すべてを受け入れる気もないが、できる範囲で受け止めてやる」
(ふむふむ。なるほど。だから、『違反』なのに色々としゃべったと……で、私に対して、一定以上は強く出られないと。なるほど、なるほど。正直、一ミリも覚えていない姉妹の事とか、クッソどうでもいいし、そもそも、本当にあたしの家族だった人なのかもわからないけど……『姉妹を失ってとても心が痛んでいる』という『設定』にしておけば、この男との関係は繋ぎとめられるかも。共通の話題と、一緒にいる時間さえ確保できれば、あとは、なし崩し的に落とせる。あたしなら、落とせる。いいや、落としてみせる)
高瀬は、頭の中で、今後を見据えたプランを設定してから、
「謝罪する気も起きないような事故なら、怨む筋合いもないんじゃない?」
「……なに?」
「あたし、頭悪い事はしたくないんだよね(ここで、強がっている笑顔。傷ついてはいるけど、恨み事は言わない、健気感をアピール)」
高瀬は全力で表情をつくった。
女は全員、女優。
だから、渾身の表情は、必ず男に突き刺さる。
(……明らかに強がってんじゃねぇか。クソめんどくせぇ……どうしろってんだ)
「でも、聞かせてくれない? あたしのお姉ちゃんだった人の名前、なんていうの?」
(姉……だったのか。やはり、心の一部に、強く残っている)
天童は、少しだけ悩んだが、
「……まゆ」
「マユね。うん。OK。じゃあさ、これからも、マユの事、いろいろと教えてよ(姉だったのか、妹だったのか、その辺は分らないけど、とりあえず、利用させてもらうわね、おねえちゃん♪)」
心の中で舌を出し、それを悟られない表情をつくり、
「そのくらいの義務は、果たしてほしいんだけど(ここが押し所。引きすぎてもダメ。ここの約束だけは絶対にとりつける)」
(……『楽を求めた堕落』は『俺の全部』を『削るだけ』だって……ガキのころ、痛感したはずなんだがな。結局、俺は、何も変わっちゃいねぇって事か。甘ったれたクソガキのままで、何一つ成長してねぇ……たまらんな、このしんどさ)
天童は、天を仰いで息をついた。
そんな彼を見て、高瀬は、
(第一段階クリア。さて、ここからどうしようかな。あー、腕がなるぅ)




