18話 過保護。
18話 過保護。
「……まあ、普通は、エンジェルコントロールを搭載していると思うわな。でも、残念、魔心臓でしたぁ」
――ケロっとした表情。
『完全に再生』している天童の右腕と左足。
それを確認すると、
真っ二つになっている主天使は、
「ま、まさか……『損傷フェイク』を使ってくるとは……いぶし銀だな……」
ぼそぼそと、そんなことをつぶやいた。
天童の右腕は、再生しているだけではなく、
なんともドス黒く膨れ上がり、
無数の硬いトゲのようなものがついている。
――なんとも、凶悪なシルエット。
先ほど、天童は、渾身の力でふりきった。
『魔王の腕』で握りしめた、出力最大のエンジンブレードを。
その結果、
主天使の体はヘルボックスと同じように、真っ二つになったのだった。
「バロールバンプに魔心臓……『今の私のビルド』にとっては相性が悪い闇属性アビリティばかり。運が悪い。というより、貴様の運がいいのか。……しかし、なんだ、そのラインナップは。まさか、貴様、厨二か? 剣翼の登録名も酷かったし、カラーリングもクソダサいし」
「……ぐうの音も出ないとはまさにこの事だな。佐々波に褒められすぎて、最近、ちょっと気に入り出していたから、反論の言葉もない」
「趣味は悪いが……戦闘センスは抜群で、かつ、豪運持ちか。なるほど、これ以上ない逸材だな」
最後に、ニっとほほ笑むと、
「しかし、まさか、高校生に負けるとは思わなかった……貴様……美しいぞ」
いつものミッションや演習と同じく、
倒された天使の体は、
輝く粒子となって、空へと戻っていった。
「……ふぅ」
天童は、溜息をつきながら、
(実際、俺って、運がいいよなぁ……こういう絶体絶命の時に限って、毎回のように、幸運が味方してくれる。佐々波がトランクに魔心臓をつけていなければ、騙し切れずに殺されていた可能性が高い。なんか、すでに神の加護がついているって感じだ……)
渋い顔で、遠くを見つめつつ、
(いや、加護っていうか、ここまでくると、もはや『過保護』だな……はっ。嗤えねぇ。だとすれば、生まれた時から、今までずっと過保護に育てられてきたって事になっちまう。そのダサさは、トランクの名前やカラーリングどころの騒ぎじゃねぇ)
ごちゃごちゃと、多少『興奮がいきすぎている頭』でモノを考えていると、
「あ、のさ……」
美奈が、おそるおそるといった感じで話しかけてきた。
「あん?」
「これ……なに? 科学技術の粋を極めたショー?」
「ああ、もちろん、そうだとも。お楽しみいただけたかな」
「ふざけんな!」
「……情緒不安定かよ。俺はお前の推察を肯定したんだが?」
「説明してよ! なに、これ! マジでわかんないんだけど!」
「さっきのヤツは悪い天使で、お前らを殺そうとしていたから、正義の味方である俺が助けてやった……とでも言えば満足か?」
「……どっちかって言ったら、あんたの方が、悪者っぽかったんだけど……色合いとかフォルム的に」
「ははっ……だよなぁ。でも、デビルマンの例もあるように、悪者カラーだから人間の敵とは限らな……ああ、ダメだな。デビルマンは最終的に人間を皆殺しにしてるわ。例を間違えたな。失敗、失敗」
「………………説明する気はないってこと?」
「良い読みだ。そのとおり。なんせ、無駄だからな。まもなく『記憶を消されるお前ら』に手間暇をかけて説明するのは、あまりにも合理的じゃない」
天童は天を見上げる。
すでに『黒い塊』がグルグルと渦を巻いていた。
――そろそろ『掃除用の部隊』がくる。
メン・イン・ブ〇ックのアレ的な部隊。
ミッションの後始末は、『上』の仕事。
黙って任せておけばいい。
「記憶を消すって……こんな衝撃的な事、忘れる訳ないじゃん」
「上は、その気になれば『命より大事なテメェのガキ』の事まで、奇麗サッパリ忘れさせることも出来るんだ。『たかが天使が殺し合っている程度の記憶』を消すくらい訳ねぇよ」
「……」
「なんだよ、その目は」
美奈は、少しだけ言い淀んでから、
伏目がちに、
「……あり、がと」
小声で、感謝の意を表した。
「助けてくれて……ありがとう」
それに対し、天童が、
(……感謝ねぇ……いらんなぁ)
などと思っていると、
美奈に続くように、他の五人も、ポツポツと、礼の言葉を述べた。
よくある『言わなければいけない』感じの感謝ではなく、
『言わずにはいられない』という『想い』があふれた本気の感謝。
「あんたのおかげで死なずにすんだ……ありがとう……忘れる前に、言っておく」
最後に、そう締めた美奈。
そんな彼女の顔から視線をそらしながら、
天童は、フラットな顔で、
(そもそも、俺に感謝するのは御門違いも甚だしいんだが……まあ、修正したところで、どうせ忘れちまうんだから、もう、どうでもいいけどな)




