17話 残念。
17話 残念。
「美しいほどの空間支配力。――だからこそ、美しくはないが、こうして、たかが高校生相手に、プライドを捨てて、人質を利用しようとしているのだ。ふふ。ちょっぴり不愉快だが、第2フェーズに移行する」
御茶目にそう言うと同時に、主天使は、天童と同じく『事前に不可視状態で展開させていた複数の高性能リモコン』を、一斉に起動させ、女子達にレーザーを放った。
「っっ!! ちぃいいっ!! ディレイ粒子、散布!!」
天童は、カタナをそのままに、
『彼女たちを守るため』に配置していた防御型遅延系の兵器を発動。
レーザーの発射速度が『かなり落ちた』が、
しかし『天使の目』があってようやく分かる程度しか落ちていない。
とてもじゃないが、女子中学生に『自力回避』を求められるほどではない。
おまけに、リモコン系は例外なく追尾性能を有するため、
たとえ、たぐいまれな反射神経をもっていて、
奇跡的に緊急回避に成功したとしても、
結局のところは、回避した直後にブチこまれてしまう。
――だから、天童は、
「点火!! マキシマムブーストっ」
すぐさま、女子達の元まで高速で飛び、その身でレーザーを受け止めた。
全身にビームが収束。
「ぎがぁああ!」
ガードを固めたが、右肩・左足に濃いダメージが入った!
中和しきれなかったエネルギーが暴走し、
天童の『右肘から先』と『左脛から下』を粉微塵にふっ飛ばす。
そして、爆発の衝撃で地面に叩きつけられた。
「ふげっ!!」
踏んだり蹴ったり。
その悲惨な光景を目の当たりにしたギャル6名は、
当然、
「「「きゃぁあ!!」」」
高音の悲鳴を合唱。
目の前で『人間の腕や足が吹っ飛んだ』のだから、
仕方ないと言えば仕方ないが……
「うるせぇ……響くじゃねぇか……黙ってろ。おまえらは、痛くも痒くもねぇだろ」
天童は、足に再生力を集中させながら、
左手で体を支えつつ、フラフラと立ち上がる。
(お荷物をこれだけ抱えた状態で戦闘を長引かせてもジリ貧確定。思考誘導のブラフを押し通して『一点突破』を図るしかねぇ)
片足だけで立ちつつ、ショットガンを取り出し、
――その銃口を、主天使に向け、
「おいこら、先輩! 主天使のくせに、高校生のガキとタイマンを貫く気概もねぇのかよ。くそが! 志が低いにも、ホドがあるんじゃねぇか、あぁん?」
「それなりに的確な挑発だ。しかし、少し浅い。心理に関しては、解析不足とみえる」
「……」
「あらゆる状況を想定し行動に移す決断力。見事。……洞察力、対応力、反応、反射。危機的状況下でも回転する頭。活力。気力。胆力。つまりは、卓越した戦闘センス。すべて良質。なるほど、なるほど。確かに上々。それなりには美しい。だが、しかし、どこか、決定打にかける」
主天使もショットガンを取り出しながら、ゆっくりと、近づいてきて、
「この状況では、とにもかくにも、私の排除だけに集中すべきだった。これほど劣勢の状況下で、6人全員を守るのは確定で不可能。つまりは、どれだけはやく『何人切り捨てるか』を正確に計算する事――それこそが『必着』の場面だった。その程度は見極めてほしかったものだ。『決断力』は認めるが『判断力』には、疑問があると言わざるを得ない」
「……」
「飛び級試験というエサにつられて命をこぼす。指揮官としては最低だ。美しくない。失格だな」
と、得意げに高説をぶっている主天使に対し、
天童は、ニっと笑みを浮かべ、
「……俺の足……なんか、妙に治るのが遅いと思わねぇ?」
「なに?」
「……『不可視化させたリモコンで女を狙っておく』……その程度なら、さすがに『最初から想定』できる。それが一番確実だからな。でも、それって、こっちも同じなんだよね。やっぱり、リモコンって便利だよなぁ。現環境じゃ、マジで必須だわ」
――天童の言葉から、
即座に『その先』を推測した主天使は、
「くっ!!」
一瞬のうちに『対抗フィールド』を展開しつつ、バっと後ろを振りかえる。
――『おそらく、リモコンで狙われている』。
天童の『回復速度の低下』から推測するに、エンジェルコントロール。
『優れた性能を持つ天使同士の戦闘』に慣れているからこそ辿り着く『音速の推測』。
細かい対応と処理が求められるからこそ、思考が完全にシフトする。
――だが、
「っ?!」
何もなかった。
合理性をデコイにしたブラフ。
――即座に気付くが、コンマ数秒遅い。
「うぐっっ!!!」
全身に響く絶大な切断の衝撃。
真っ二つに裂かれる主天使!!
「……まあ、普通は、エンジェルコントロールを搭載していると思うわな。でも、残念、魔心臓でしたぁ」




