16話 十八番の戦法。
16話 十八番の戦法。
(ここまでコスト差が開いていると、まともな武装を使われたらマジで話にならねぇ。ぶっちゃけ『DSN』を使われたら、その時点で詰み。しかし現状、使っている気配はなし)
専用機体は、量産機以上に、コスト差がモロに出てくる。
追加パッケージで特に変わってくるのは『武装の積載量』で、
高性能の武器であればあるほど倉庫を圧迫するため、
『コスト差』こそが戦力の決定的な差ともいえる。
(まあ、『ドーキガン・ハンター(全武装の銃口補正を560%アップ)』を使ってない時点で、『自己縛り』か『命令』かは知らんが……とりあえず『まともな戦いにしよう』って意思がうかがえる)
ドーキガンシリーズの兵装は、どれも効力が異常なほど高いのだが、
対ドーキガンシリーズの兵装を使われると、
効果がそのまま『逆に働く』という凶悪な弱点を持つ。
ただ、対ドーキガン系は『レベルファイブ以上の機体』にしか搭載できないため、
天童のレベルワン専用剣翼には当然ついていない。
現状の天童相手にドーキガンシリーズを使うのは、大富豪で『スペードの3を持っていない事が確定している相手』にジョーカーを出す行為に等しい。
だが、相手はジョーカーを出してこない。
つまり、それは、これが、そういう戦いだということ。
(ガチでやりあえば『前提で詰みまくっている主天使』に勝てるわけねぇ。向こうの要求に、へーこらへーこら応えつつ、確反の好機を待つしかねぇ)
応じるように、レーザーブレードを取り出し、
「――うらぁ!!」
下段から切り込むが、
「判断もまずまず。いいぞ、ここまでは」
片手の――『それも逆手』で、あっさりと受けられ、軽く弾き飛ばされる。
ゴロンと一度回転したが、
即座に体勢を立て直し、
「ファントムクロス!!」
音声入力で、特殊システムを発動。
スゥっと、天童の体が消えていく。
「……はぁ? おいおい、緊急展開を余儀なくされたとはいえ、不可視化系のぶっ放しは、悪手と言わざるをえないぞ。マイナスポイント。まさか、この程度か?」
主天使の視線は『姿を消した天童』を完全に捉えている。
「やれやれ……どうやら、知らなかったようだな。主天使以上であればエンジェルアイズが固有になる。視認は出来ずとも、知覚は可能。具体的な武装までは確認できないが、どこにいるかは分かる。つまりは、無意味だ」
捕捉系の武装が届かない距離を維持しながら、
主天使は、
「明らかな勉強不足。主天使は演習に出てこないから、知らなくても困らない、か? 話にならん。心底ガッカリだ。まったくもって、美しくない。よく、その程度で――んっ」
突如、背中に感じた衝撃。
貫通している刃物。
振り返ると、天童が、加速状態の『量子刀』を心臓めがけて突き刺さしていた。
「……っ……」
軽く動揺している主天使に、
天童は、
「心底から『侮らせる』――という一手を打ってみました。どうです? なかなか、悪くないでしょう? ちなみに、一応、全階級の天使の固有・兵装が、俺の頭には漏れなくしっかりと詰まっていますよ、先輩」
「ほぉ……では聞こう。わざわざレーザーブレードから威力の低い量子刀に変更しているのは?」
「全力で試験官に徹しようとしているあなたの『方針』から鑑みると、高難度の試験っぽく、カウンターで『DSN』を発動させんじゃねぇかなと思って。その場合、トリガーは、おそらく、ビーム系。なぜなら、ビーム装甲がもろいドラゴンホークだから」
「うむ、美しい」
本当に感心したようで、パチパチと、二回だけの拍手をしつつ、
高速で動く眼球を周囲の全てに配った。
全力サーチ。
すぐに理解。
「そして、こうも簡単に背後を取られたのは……ああ、なるほど。オプティカルシステムのデコイか。いつ術式を組んだ?」
「この空間に転送された直後」
「……臆病なほど、完璧な対処だ」
「褒められているんですかね、それ」
「もちろんだ。美しいほどの空間支配力。――だからこそ、美しくはないが、こうして、たかが高校生相手に、プライドを捨てて――『中学生を人質』として利用しようとしているのだ」
「っ?!」
「ふふ。ちょっぴり不愉快だが、第2フェーズに移行する」




