3話 世界の主役。
3話 世界の主役。
(……この疑念は、醜い嫉妬に過ぎないのか? いや、確実に、天童は恵まれすぎている。決して邪推ではない。あいつの運は異常だ!! まるで『世界の主役』じゃないか!! 俺など、ちょっとした脇役でしかない!!!)
怒りのあまり、頭をかきむしる。
(なぜ、俺が主役じゃない?! なぜ! なぜ、あいつなんだ?! あいつと俺、何がそんなに違う?! タイマンなら、まだ俺の方が強いぞ。……いや、確実ではないが、しかし……)
安西は、そこで、天童とのタイマンをシミュレートしてみた。
一応、互いに、最も合った専用剣翼を使うという前提で、
十五分ほど、頭の中で戦ってみた。すると、
「ぁ……負けた」
天童の戦闘スタイルに最も適した専用剣翼を想定した上で、
極めてリアルな脳内戦闘に臨んだ結果、
ボッコボコにされてしまった。
「クソがぁあ!!」
元帥という立場・矜持が、『異質なほど高次の戦闘力』を誇る天童を相手にした際の楽観的な展開推測を許さなかった。
「あんな、戦場に狂った冷徹モンスターとは違い、俺は人格的にも優れている。戦闘能力はともかく、『偉大なる主』の御側に侍る天使としては、俺の方が評価されてしかるべきだ。なのに……」
マジメで、努力家で、性能も高いが、
主役願望が強く、自己愛の塊で、嫉妬深く、
異常なほど『世界の主人公』という冠に執着する、名誉欲の化物。
――それが、安西総一郎。
「なぜ、やつばかりが優遇されている。なぜ……くそぉ!!」
愚痴りながらも、安西は、
天童の演習報告書に、
「……ぬぅう……書きたくねぇ……」
唸りながらも、『最優』の評価を記し、キチンと署名した。
「……」
せめて、備考欄に『戦場を愛しすぎている。破滅願望の持ち主。性格に難あり』の一文くらいは書きなぐってやろうか――という衝動に駆られたが、寸での所で筆を止めた。
それは、完全にパワハラだ。
立場を利用して、部下を貶める行為は酷く醜い。
そこまで堕ちてしまいたくはなかった。
「……くそがぁ……っっ」
★
司令室を出てすぐ、天童は、壁にもたれかかっている彼女を発見した。
「作楽……」
「また、褒められてたん?」
小柄で金髪ツインテールの彼女は、
天童の顔を見るなり、ニカっと笑って、そう声をかけてくる。
「ああ、少しな」
天童の解答に、彼女――『作楽 トコ』は、
クスクスと、楽しげに笑う。
絹のような金髪と、透き通るような白い肌。
頭上にワッカでも乗せれば、それで、『はい、天使の出来上がり』
――といった具合の、まさに天使のようなルックスだが、
『彼女の中身』を熟知している天童は、彼女に『幻想上の天使性』は感じない。
(まあ、リアル天使の実情を知っている今となっては、むしろ、模範的な天使といえなくもないが)
などと考えていると、
作楽が、ギリっと眉間にシワを寄せ、
「少し? 少しだけ? 『クソの役にもたたへんカス以下の新兵』を全員生き残らせた上、緊急介入してきた『チ○カスみたいな大天使(レベル2)』を六機も滅殺した大エース様を、ちょっとしか褒めへん司令部って、どうなん? いつも思っとるけど、あのふんぞりかえっとるだけの、アホ丸出しな『ゲロ以下の将官連中』、全員、マジで、ぶっちぎりに頭おかしいやろ。ただただ死ねばええのに」
歯をむき出しにして司令室を睨みつける彼女を見ながら、
天童は、
(……『みんな死ねばええのに』しか口にしなかった中学時代を想えば、これでも、かなり丸くなったと言えるんだが、まだまだ普通の女の子への道のりは険しそうだ。あらゆる全てに対し敵意をむき出しにするのは『ひたすらに損をするだけ』だから、本当にやめてほしいんだが……まあ、こいつの過去を考えれば、しゃぁないんだけど)
常に過激な彼女の、天童以外の世界全てに対する強固で邪険な態度に辟易しながら、
「相手の機体はすべて『強襲』系だったからな。ある意味、ジャンケンで勝っただけ。つまり、たいしたことではない」
剣翼は、大きく三つの系統に分けられ、
その力関係は見事な三竦みになっている。
「大事なんは、量産機で、専用機を駆る複数の大天使に勝ったって点やろ。ほんま、すごすぎやろ。なんなん、自分。イってんの? 頭、イってんの?」