11話 おためごかし。
11話 おためごかし。
「私だけではなく、一つ下の連中も、思考形態が、かなり天使寄りになっている。そう感じた事はないかね? 『上層部の連中は、どこかおかしい気がする』と思ったことは?」
「失礼な発言になりますが……本音を言わせていただきますと、幾度か」
「そうだろう。何も失礼な話ではない。私も、高校生の時は思っていた。もちろん、まだ、直接的な『主の加護』がないので、不死でも不老でもないのだがね」
「そうだったのですか。……あの、安西さん。お一つ、お聞かせ願いたいことが」
そこで、天童は『どうしても知りたかったこと』を訪ねる。
「天使になるというのは、どんな感じですか?」
「ふふ」
「?」
「何もないと思っていたが、こうして、キチンと向き合ってみると、意外と、私が君に『教えられる事』も多かったようだな」
「は?」
「いや、君は少し優秀すぎるというか、いつも私の遥か上空を飛んでいたから、私から君には何もしてあげられなかった。直属の上司として、それが、少々、歯がゆいというか、そろそろ卒業してしまう身としては、大きな心残りだったのでね」
本当はイラついていただけで『何もしてあげられなかった』などとは毛ほども思っていないが、もちろん、そんなことを素直に言うワケがない。
とにもかくにも、安西は、
未来の上司に対し、軽くポイント稼ぎをしておこうと、
「頼られている今が、珍しいというか……そう、純粋に、少し誇らしく、そして嬉しいんだ。こんな不出来な私でも、少しは君の役に立てるかと思うとね」
などと、いい上司ぶっている安西に、
天童は、
「何をおっしゃられているのか、本当に分かりかねます」
まっすぐな目で、
「安西さんは、私にとって尊敬してやまない破格に優れた上司であり、揺るぎない指針であり、最大にして最高の目標でした。その背中から、いつも、私は、進むべき道を教わっていました。だから、今日まで、迷うことなく進んでこられたのです」
ついクセで『少々過剰なおべっか』によるコーティングをしてしまってはいるものの、しかし、『その発言の深部』には、『揺るぎない本音』が滲んでいた。
確かに、戦闘能力は自分の方が優れているかもしれないが、人間性の部分で、天童は、安西を尊敬していた。
『勝っている部分などない』と断言できるほど、
安西は、天童の視点だと『完璧に完成した大人』だった。
これほど性能が高い人間がいるものなのかと、最初に会った時は驚いたほどだ。
確かに安西は嫉妬深い。
確かに名誉欲は凄まじい。
しかし、それは、『向上心』と言い換えることもできる。
仮に嫉妬心を『マイナス』として捉えたところで、
それ以外の部分は、実際、完璧と言ってもいいスペックなので実のところ、さほどの問題はない。
だから、安西は天童に尊敬されている。
それは決して奇異な話ではなく、実際のところは、至極当然の話。
なんせ、安西総一郎は『優れた者しか選ばれない天使候補』の中でも、
とびぬけて優れた超逸材なのだから。
『戦闘能力が異常に優れている』というだけで『安西よりも天童の方が高く評価されている』という現状は、安西が憤っているとおり、事実おかしい。
天童自身も思っている。
なぜ、自分程度が熾天使候補なのに、安西が智天使候補止まりなのだと。
「安西さんは、私の目標ですので、不出来などと、卑下なされるのはやめていただきたいものです」
天童の言葉を受けて、安西は、
「……」
ゆっくりと天童に背を向けて、そして、ゆっくりと天を仰いだ。
気を強く持っておかないと、泣いてしまいそうだった。
感情がないまぜになって、
何かが溶けていく。
――数秒だけ、
沈黙の中で頭を働かせてから、
「……質問への返答がまだだったな。答えよう」
「ありがとうございます」
「限りなく天使に近づいたことで、より、人間的になった気がする」
「は?」
「人間ではなくなるのだから、当然、人間性は薄くなると、どこかで思っていないか?」
「そうですね。そうだと思っています」
「逆だ。感情が尖っていく。あらゆる欲望が膨らんでいく。『抽象的だからこそ分かりやすい一言』で伝えよう。……そう、ギラギラしていく」




