8話 告白。
8話 告白。
佐々波に呼び出された天童は、廊下を歩いている途中で、
「いい加減にしろよ、てめぇ」
「ぬふーふーふー」
妙な顔で笑うと、佐々波は、
「いやぁ、気分がいいっすねぇ。センセーを、こうも自由に振り回せるなんて」
「何か本当に困った事が起きた時には、必ず力を貸してやるから、無意味に呼び出すのはやめろ」
「まったく無意味じゃないっすよ。センセーと一緒にいたいなぁって思ったから、呼びだしたんすよ」
「……佐々波」
「なんすかぁ?」
そこで、
天童は、神妙な顔をして、
「いい加減、教えろ。なぜ、わかった? あの事故と作楽を繋げる証拠などは、何も残していなかったはずだ」
「センセーって『世間体と保身5割・出世欲5割』で出来ている自意識の化け物で、かつ『バレた時の事を過剰に恐れてしまうせいか、些細な不正をも忌避する傾向にある』っていう、根っからの、クソビビリ童貞野郎じゃないっすかぁ」
「……その評定の中で、俺が童貞かどうか関係あるのか?」
「そんな人が、ああも、安易に『ヤバげな無様』を晒しちゃあ、流石に、こっちも不審に思うっすよ」
「……俺の人間性がそこまで見抜かれているとは……さすがに想定できなかったな。やるじゃないか。素直にほめてやる。見事な洞察力だ。『お前と過ごした時間』よりも『はるかに長い時間』を共有してきた作楽にも気づかせていない、俺の本性を、よくもそこまで正確に――」
「トコちゃんも、気づいていると思うっすよ。彼女も、人間を見る目はあるから」
「なわけないだろう。もし俺の人間性を正しく理解できていれば、俺に好意など抱く訳がない」
「あれ? もしかして、告白されたんすか?」
「……その記憶も消しておいたがな」
「えぇ?! なんで、消したんすか?」
「勘違いと気の迷いで『俺なんぞに告白してしまった』なんて過去は、あいつにとって汚点でしかない」
「自己評価が低いのも大概にしてほしいっすね。トコちゃんは、ガチで、センセーが好きなんすよ。センセーの『その必死に虚勢を張りながら、でも、心の底ではプルプル震えている臆病な感じ……みっともないダサ男のくせに、一生懸命、歯を食いしばって頑張っているセンセーのキモ可愛い姿』に、キュンキュンしちゃってんすよ。ボクと同じようにね」
言いながら、佐々波は、天童の首に抱きついた。
「何のマネだ。離れろ」
「別に、天使は、一夫一妻じゃないんだし、ボクも、愛してくださいよ、センセー」
「ふざけんな。俺はお前が嫌いだ」
「そうすれば、全てうまくいくんすよ。それとも、安易にボクを袖にして、深く傷つけ、この口を軽くしちゃうのが望みっすか?」
「からかうのも大概にしろ。おまえは別に、俺の事など――」
「――好きになっちゃったんすよ。信じられない事に。圧倒的な天才で超エロ可愛い完璧美少女であるこのボクが、クソ以下の最低童貞野郎であるセンセーなんかを、マジで」
「おい、こら。ガチのトーンでギャグをかますな。それはルール違反だろ。寝言は、ハイテンションでほざきやがれ」
「……本当に好きになってしまったんですよ。久寿男さん。私はあなたが好き。大好き。死ぬほどダサくて、けど、死ぬほどかっこいいあなたが好き」
「ぇ……………いや……ぇ……ちょっ」
「まあ、別に、今すぐ答えを出さなくてもいいっすよ。なんせ、ボクらには時間が無限にあるんすから。ゆっくり口説き落としてみせるっす。覚悟しておいてほしいっすね。ボクみたいないい女に、本気で攻められて、センセー程度の男が耐えられる訳ないんすから」
「……す、すさまじい自己評価だが、しかし、俺の視点では、おまえなんか、大した女じゃない」
「本当にそうっすか?」
「……」




