7話 完敗。
7話 完敗。
「あと、スタイルも俺の方がいいよな。天童も、なんか、ちょっとは鍛えているっぽいけど、なんつーか、がっしりとし過ぎていて、流行りの体って感じじゃないじゃん?」
(こちとら戦場で生きてんねんから、流行りもクソもあるか、ぼけ。的確に動ける体がなかったら、敵に殺されて死ぬだけや)
「あと、これは確実に勝っている部分だけど、俺の方が断然オシャレ。ほら、このクツとか、なかなか合わせるの、難しいぜ」
(その訳わからん奇抜なクツを履くことがオシャレなら、あたしは、オシャレやない男の方がええ)
「あと、意外だろうけど、俺、料理も得意なんだよ」
(意外もクソも、お前の事とか、考えたことも無いんやけど。あと、料理やったら、中一のころから自炊しとる久寿男の方が確実に上やと思う。この学校の寮、寮っていうかマンションを一室貸すみたいな感じで、家事は全部、自分でやらなあかんからな)
「あと、親が会社をいくつか経営していて、いつか、全部、俺がつぐことになるから、将来性に関しても抜群」
(将来、熾天使の首席として、この世界の支配者である『主』の『隣』に座る事が確定しとる久寿男とは比べもんにならんけどなぁ)
「あと、中学の時にボクシングと空手をやっていたから、俺、実は、ケンカも超強いんだぜ。天童も、ガタイはいいけど、しょせん、あんなもんプロテインでかためた『使えない見せ筋』だろ? 純粋な強さじゃ、俺の方が上だと思う。てか、確実。俺、マジで強いから」
(久寿男とガチで殺しあったら、民間人なんか、60億人くらいで束になってかかっても、まばたきする間もなく、一瞬で、ケシズミにされるけどな)
「あと、頭も俺の方が上だぜ。一応、俺、お前に次ぐ学年二位だから」
(候補生はテスト受けんでええからなぁ)
仙草学園において、候補生は『非認識の超特別待遇生』という『一般人の視点ではワケのわからない扱い』になっており、テストどころか、授業も免除されており、一度も出席していなくとも、進級する事ができる。
(あたしは、毎回、ヒマつぶしに受けとるだけ。周りが『びっくりするくらいのアホばっかり』やから、楽に一位取っとるけど、そんなもん、なんの自慢にもならん。ちなみに、久寿男は、あたしより頭ええねんからな。『百人のゴミを指揮して、一人も死なさへん』のが、どれだけ頭を酷使するか分かるか? 当然やけど、テストで百点取るとかいう次元とちゃうで。少なくとも、あたしには絶対にできん)
「あとは、そうだな……」
そこで、一城は、キメ顔をつくって、
「作楽を守るためなら、俺、命を張れるぜ、きっと」
(そんな『渾身の口説き文句でトドメ刺したった』みたいな顔されても……)
「どう? 俺、かなりの優良物件じゃない? もし、天童に対して、直接、言いづらいんだったら、俺から話をつけてもいいぜ。だから、俺との事、ちょっと真剣に考えてみてくれな――」
「久寿男は、今まで、一回も、あたしのために命を張るとか口にした事ないわ」
「え、そうなのか? なに、あいつ、案外、ヘタレ?」
プチっと、何かが千切れる音がした。
作楽は、その『ぱっちりとした可愛い猫目』を、ギリギリと血走らせつつ、ガン開いて、
「おどれ、毎回、『息を吸います、吐きます』って宣言してから呼吸してんのか」
「……ぇ……ぁの……」
「ヘタレなんは事実や。久寿男は、体裁ばっかり気にするビビリで、自己保身と出世欲の塊。でもなぁ、そんなクズのくせに、呼吸するように、あたしを守ってくれるんや。あたしを守るために、あのアホ男が、今まで、何回、死にかけたか教えたろか。この五年間で三桁超えてんねんど。トキメいてまうのも、無理ないやろ。おどれなんか相手になるか、ボケ」




