6話 生理的に無理。
6話 生理的に無理。
「作楽さぁ、ここ数日、なんか、一人でいる事が多くね?」
クラスカーストの覇者『一城』に、そんなことを問われて、
作楽の心は急速に静かになっていった。
――作楽は、その『虫ケラを見る目』に黒い光をともし、
「……だから?」
感情を殺した声でそう答える作楽に、一城は、
「ほら、作楽って、中学の時から、常に、いつだって、天童とべったりでさ、『一人でいる事』が極端に少なかったじゃん? なのに、最近、妙に独りでいるし、さっきも、天童のヤツ、ぇと、確か佐々波……だっけ? あの、かなりエロい系の後輩の子と一緒にいなくなっちゃったし」
「何が言いたいん?」
「いや、あのさ……率直に言うけど、もしかして、天童と別れた?」
「……」
「もし、そうだったら、俺としては、すげぇありがたいっていうか……」
一城は、そこで、ニっと、それこそ天使のような、輝く笑顔を浮かべて、
「なんつーか、その、俺にもワンチャンあるかなって」
(あるか、ボケ。クソしょーもない)
作楽は、一条に対し、吐き気を催すほどの鬱陶しさを覚えたが、
「あんたの言いたいこと、ちょっと、さっぱり、よぉ分らんけど、あたしは、今でも、久寿男と仲エエから」
一城の好意に対し、全力で『気付いていないフリ』をする。
『これまでと同じ』ように、『よくわからない』という言葉で穏便に切り捨てる。
天童に対して完全に心を開き、
切れ味鋭い角が取れて『丸くなった中学二年の後半』ぐらいから、
作楽は、幾度となく、今のような状況に直面してきた。
天童久寿男という、『常時ピリピリしていて、妙に濃い影が見え隠れしている、ガタイのいいコワモテ』と一緒の時に絡んでくるような『勇者』は流石に一人もいなかったが、天童と一緒にいない時は、頻繁に、ナンパなアプローチを受けてきた。
「そっか……ぁ、でも、もし別れたら、教えてくんね? 俺、気長に待ってっから」
「待たんでええ」
「そう言うなって。正直、作楽みたいな超絶的な美少女に出会える機会って滅多にないからさ。この千載一遇のチャンス、逃したくないんだよね」
一城は、当然だが、これまでの人生でアホほどモテてきた。
女なんて選り取り見取り。
何もしなくとも、向こうからしっぽを振って寄ってくる。
寄ってくる女は『身の程をわきまえている普通以下の女』よりも、
むしろ『己に自信がある可愛い子』の方が多い。
彼級のイケメンになると、えてして、そうなってしまう。
だから、彼の『女を見る目』は自然と磨かれた。
彼の女を見る目は超一級。
そんな『非常に肥えている一城の目』をもってしても、
作楽トコは、まばゆいばかりに輝いている。
彼女は美しい。
「あと、ぶっちゃけ、天童より、俺の方が、作楽には合っていると思うんだよね。俺の方がいい男だっていう自信があるんだ。付き合ってみたら、絶対に後悔させないっていうか」
などと言い出した一城。
結果、作楽の『無表情』に拍車がかかった。
もはや、彼女の『無』を止めることは天童以外の誰にもできない。
「どこ?」
「え?」
「あんた、どこが久寿男に勝っとるん?」
それは、素直な疑問だった。
詰問している訳ではない。
『不愉快な発言』に対して『怒って文句をつけている』という訳ではないのだ。
本当に、率直な質問。
不思議だったのだ。
『天童久寿男を上回っている部分』が、
目の前にいる男からは、一つも発見できなかったから。
「たとえば……やっぱり、まず顔?」
(こいつの顔、なんか、カマキリみたいで、五秒以上見てたら悪寒がしてくんねんなぁ)
趣味嗜好は人それぞれ。
『社会的に好まれる顔』があるのは事実だが、
そんなものは、あくまでも『好かれる確率』が高いか低いかでしかない。
岩石みたいな顔が好きな女もいる。
ブタみたいな顔が好きな女もいる。
そんな希少種たちにとって、
『世間一般で言われているイケメン』は、
『生理的に無理』な『キモ顔』でしかない。




