3話 みみっちい依頼。
3話 みみっちい依頼。
「ネウロウェーブ系の兵器を改造して、記憶を改竄するツールって作れるか」
「もともと、記憶改竄ツールを改造して戦場でも使えるようにしたのがネウロウェーブっすからねぇ。当然、出来なくはないっすよ。ただ、戦場でも使えるようにという理由で、パルス介入の性能を落としてまで、ウェーブタイプにしている訳っすから、戻したら、戦場では使えないっすよ。天使が、おとなしく足をとめて、頭を差し出してきながら、『さぁ、どうぞご自由に電極をぶっ刺してください』なんて言ってくるワケ無いんすから」
「……天使に使うわけじゃない」
「どういう事っすか?」
「……」
天童は少しだけ悩んでいる風に見せて、
「作楽に使いたい」
「……はい?」
「難しいことがしたいわけじゃない。あいつの頭の中から、俺が……『天童久寿男が女子中学生を殺した』という記憶を消したい。それだけだ」
「お気に入りの女の子からは『人殺し』だと思われたくない、って事っすか?」
「……不愉快な表現で言語化するな。まるで、俺が小さい人間みたいじゃないか」
「みたいっていうか……めちゃめちゃ『ちっちぇえ』じゃないすか」
「各部署への根回しは終わった。今後、俺を指差して、『あいつは人を殺した』と罵ってくるようなヤツはいない。だから――」
「あ、あそこにいる男は、いたいけな女子中学生を惨殺したノーパンの変態! 怖いっす!」
天童を指差して叫ぶ佐々波に、
「――仮に、お前のような『ラリったカス』のせいで『俺がしょうもないミスで人を殺したという事実』が、作楽の知る所になったとしても、そのつど、その記憶だけ消去すればいい」
「ノーパンをスルーされたのは悲しいっすねぇ。渾身のキラーワードだったんすけど」
「お前の気品しかないセンスにくらいついていけるほど、今の俺はスタイリッシュじゃない」
「ミディアムな皮肉で返すのが精一杯っすか。まあ、その気持ち、わからないでもないんすけど」
そこで、佐々波は、ガチの表情で、
「仮に、改造したツールを作ってあげたとして、トコちゃんの記憶改竄を、マジのマジでやるつもりなんすか?」
「ああ。あいつの中にいる俺を、俺は『完璧』なままにしておきたい」
「とんでもなく『みみっちぃ発言』っすねぇ。完璧とはほど遠いっす」
「お前にどう思われようが構わない」
「ちなみに、違法改造かつ隊員に兵器を使うって事なんで、バレたら軍規違反で処罰されるんすけど、それは?」
「お空を飛びまわって、あちこちにビーム兵器をぶっ放すって訳じゃないんだ。キチンと場所を選べば、バレる可能性など皆無。ツールの使用だけなら、記録には残らないしな」
「都合のいい愛人に、記憶を改竄させる装置を違法に創らせ、お気に入りの女の子の記憶を弄って好き放題しようとする、その悪魔も恐れる外道っぷり。まさしく下種の極み。圧倒的暴挙。なんという鬼畜。さすがはセンセー。いよっ、大魔王! この神殺し!」
「……何度も言わせるな。今の俺は、お前の鋭角なボケを、細かく処理できるほど、勇気リンリン元気溌剌じゃない。まともに相手をしてほしかったら、この依頼を完璧に処理しろ。そうすれば、いくらでも相手をしてやる。佐々波、マジで頼んだぞ」
そう言って、天童は、その場を後にした。
教室に戻る道すがら、
(あれだけ醜態をさらしておけば、『俺が俺のためだけに行動している』としか思わないだろう。仮に、今回の件が露呈したとしても、俺が『みっともないと思われる』だけで済む。処罰の一つや二つ、どんと来い)
自分の言動は完璧だったと満足している天童の背後で、一人、
残された佐々波は、机に腰掛け、天を仰ぎ、足をプラプラさせながら、
「あの体裁と保身の塊が、あそこまで、執拗に、自己卑下以外の『マイナスにしかならない醜態』をさらすのは明らかにおかしい。その理由は? なぜ、あそこまで割り切って……もしかして、自分のためじゃない?」
佐々波は、顎をしゃくりながら、
「異常なほどの広域視野を有する戦争の天才――あの天童久寿男が、『前に出るはずがない新兵』に誤射するなんて、最初からおかしいとは思っていたが……ふむ。となると……撃ったのは……相互関係から推測するに……作楽トコか。彼女の性格から鑑みて、なんかしらの理由でキレてしまい、撃ってしまった……そして、おそらく、事故である事に間違いはないものの、人を殺してしまったという事を気に病んでいる。だから、天童久寿男は、身代りになった上、彼女の精神を自由にするために、記憶を弄る装置を、ボクに依頼した……ふむ、なるほど。ふむふむ」
ニカァっと笑って、
「いやぁ、いい男っすねぇ、センセー。『好きな子のためなら、最も恥を晒したくない相手(佐々波)に頭を下げるのも、世間様に無様な醜態を晒すのも訳ないさ』って事っすか? 鬼かぁっくぃい! あははははは!」




