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クズニートの成り上がり~『剣の翼』を手に入れ、『ボーナスダンジョン級チート訓練所』で最強になったクズ男の至高堕天録~  作者: 閃幽零×祝百万部@センエースの漫画版をBOOTHで販売中
第二部『堕ちていく、クズ男』

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1話 人間関係の不可思議。


 1話 人間関係の不可思議。


「――無駄に、お手間を取らせてしまい、まことに申し訳ございません。閣下」


 翌日。

 鮮やかな夕焼けに染められた指令室で、

 天童は、腰を九十度に曲げながら謝罪をする。


「始末書は読ませてもらった。不運だったな、大佐」



 若干、機嫌が良い安西は、報告書に署名をしながら、


「味方への誤射自体は珍しくもない。わざとならともかく、仮に、誤射が処罰の理由になってしまえば、五年と持たずに、候補生は、一人残らず、この世からいなくなってしまうだろう。もっといえば、フルゼタの暴発やメテオ系の範囲調節ミスに巻き込まれたのならともかく、味方のグレランなんぞに当たる方がマヌケなのだ」


「大変もうしわけありませんが、私が殺めてしまった部下を冒涜するのは、ご容赦願いたく」


「事実は事実として受け入れたまえ、大佐。まさか、『人死に』を悪だと認識している訳でもあるまい。戦場においては、人の命など、ただの数字。私の同期の首藤少佐の隊を見たまえ。今回の演習でも、また五人も死なせて、とどろかせている二つ名が、ついには『貧乏神』になった。『味方殺し』や『死神』も大概だったが、それをも超越し、今や貧乏神だぞ。もはや、笑うしかあるまい。存在そのものが、非常に高度なブラックジョークという稀有な例だ」


 大学院二年でありながら、まだ少佐(他は全員、将官)で、だからずっと『序列最下位の部隊』を指揮し続けているという、逆に珍しい男。

 『首藤苅矢』少佐。

 彼の存在そのものと比べれば、天童のミスなど可愛いもの。


「時と場合によっては味方を殺すのも作戦。それが戦争だ。近距離型の拘束兵器なんかの場合、敵の足止めをしている味方もろとも殺してしまうのが基本。たとえば『一人を殺せば二人が助かる。その一人を殺さなければ、二人が死ぬ』という選択を前にしたとしよう。よほどの例外パターンを除いて、迷わずに、その一人を殺すべきだ。戦場では功利主義こそが真理」


 ニコっと、今まで見た事がないほどの満面の笑みで、


「話が逸れたな。何が言いたいかと言えば、つまり、貴官はミスを犯したが、しかし『大問題を引き起こしたという訳ではない』ということだ。ただ、まあ、今回の件で、貴官の損耗率は0ではなくなってしまう。それだけは、容認してもらわなければならない」


「当然のことです。事実、私の隊から死者が出ているのですから。文句などあろうはずもなく」


「しかし、点検不備か……珍しい事が起きるものだ。聞いた話だと、再生を司っている剣の基盤が完全に焼け焦げていたとか?」


「はい。理由は皆目見当つきませんが、私が確認した時にはそのように。……本当に申し訳ございません。私の監督不行き届きで、このような――」


「そう暗い顔をするな、大佐。『隊を率いる頭』だからといって、部下の点検不備の責任まで背負う必要性などない。不運な女子中学生が事故死しただけ。この世界では、よくある話だ」


「……そう言っていただけると幸いです」


「事後処理は、私の方で適当にやっておこう。貴官は下がっていい。あまり気を落とすな、大佐」


「身に余る心遣い、痛み入ります」


 深く頭を下げてから、天童は、


「それでは、失礼いたします」


 司令室を後にした。


 パタリと、扉が完全にしまり、 『天童久寿男の姿』が完全に消えたところで、


「ひゃはっ」


 安西は、破顔した。

 抑えきれない笑み。


(随分と、また、アホらしいマヌケな失態を犯したもんだねぇ、天童くぅん。まあ、ショボいミスだから、査定に大きく響くという訳ではないが、それでも『やらかした』という事実は永遠に残る。そして、0と1じゃあ、天と地だ。これで、お前は『完全無欠で超絶優秀な将校』から『ただの優秀な将校』に格下げってわけだ。俺と同じだね。お仲間だ。ははっ。いやぁ、スっとしたぜ。ムカつく野郎の失態ほど甘い蜜はない)


 今まで、ミスらしいミスはなく、

 それどころか、破格の武功ばかりあげて名をあげてきた、最大級の嫉妬対象。


 そんなムカつく野郎の失態。

 当然、フワァっと愉悦に染まる。

 脳汁がとまらない。


(この甘い喜びは、イケメン俳優の急死ニュースを聞いた時の百倍に匹敵するねぇ。ふふん)


 『成功者を襲った不運』に対する黒い喜び。

 それは、最も嫉妬に利く薬。


「こうなってくると、逆に、やさしくしてやろうって気になるんだから、人間ってのは不思議なもんだねぇ」


 独言しながら、安西は、今回の件に関する上への報告書に、嘆願書と贖宥状(将官に昇進した際、主から二枚だけ配布された免罪符)を、貼り付けた。


「ふふ……天童は、将来、同じ職場に勤めることになる『永遠の同僚』で、しかも確定で『上司』になる相手。恩を売っておいて損はない。たっぷりと感謝してくれたまえ、天童久寿男主席熾天使殿」


 安西は、鼻歌混じりに、『天童に対する明確な好意と的確な厚意』がキチンと記録に残るよう、手際よく、書類を処理していった。


 彼にとっては、『天童久寿男の経歴にキズがついた』という結果だけが全てであり、その背後にある事実関係などはどうでもよかった。


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