9話 隠ぺい。
9話 隠ぺい。
「でも……イヤや。久寿男に迷惑かけるんイヤや。あたし……久寿男の事、好きなんやもん」
「……っっ」
突然の発言に、天童は一瞬、思考停止状態に陥った。
脳味噌に直接フルパレードゼタキャノンを叩き込まれた気分。
困惑する天童の向こうで、
作楽は、薄く涙を浮かべて、
「どうせ、生きとっても、この先、良い事なんてなんもない。親もおらんし、友達もおらん」
彼女の涙を見て、
天童は心臓をヤスリで削られているような錯覚に陥った。
心が痛くてたまらない。
「私が死んでも、誰も悲しまんやん。せやから――」
ついに、天童は、作楽をガバっと抱きしめて、
「今日からお前は、俺の心臓だ。今後は、俺のためだけに生きろ」
「……ぇ」
「お前が死んだら、俺も死ぬ。忘れるな。おまえが死んだら、俺は自殺をする」
「なにいうて――」
「俺の命を守るために生きろ。俺に死んでほしいのか? どうなんだ?」
「死んでほしないに決まってるやん」
「よし。じゃあ、おまえの命は、今日から、俺の命だ。勝手に消費する事は絶対に許さない。俺は死にたくないんだ。死ぬほど死にたくないんだ。絶対に天使になりたいんだ。だから、いいな」
「……」
「答えろ。単純な問いだ。俺を殺したいか。どうなんだ……作楽トコ。永遠に俺と生きるか、今ここで俺と死ぬか。どっちだ」
「優しい事、言わんといてよ。そんな価値ない。……ただの人殺しやで……あたし……」
「俺だって、何十人も殺してきた。そうじゃなくとも、これまで、ずっと、牛・豚の肉を食べて生きてきた。ゴキブリや蚊は、見つけるたびに殺している。『ガキの素である精子』に至っては兆単位で殺してきた。自分が生き残るために、他生物を殺すなんざ、生命体として当たり前、生命維持活動の一部でしかない。つーか、よく考えろ。天使になってしまえば、出世のために、中高生のガキ共を殺しまくる事になるんだぞ。つまり、今回は『ちょっと早めに一回経験した』だけ。そう認識しておくんだ」
「……」
「俺が何とかする。問題はない。全てうまくいく。心配するな。余計な事は何も考えるな」
早口でそう宣言して、天童は行動を開始する。
(まずは、グレランの偏差射撃アルゴリズムを、誤射がありうる設定に変更する。高瀬の機体は強襲一。――それだと、確かデコイ兵装はバイオフェイクで、ステルス性能はC3。だから、えぇと……とりあえず、装填されているグレネード弾の強誘導システムを、オートロックではなくマニュアルに変更。……できれば、グレラン自体のサーチフィールドの索敵範囲を変更したいが、ハードのCPUを書き換えるのはさすがに時間的にもスキル的にも厳しい……)
作楽が駆る剣翼『強襲型汎用三』の兵器に、
『複雑なプログラムが施されている武器』はほとんどない。
ゆえに、もともとは彼女の所持物である、この『Mシステム搭載FK3グレネードランチャー』も、かなりシンプルな構造。
だからといって、一瞬で、射撃システムを、
それも不自然ではない完璧な挙動に変更できるほど、天童の技師的技能は高くない。
(佐々波なら容易にできるだろうが……こうなってしまえば、あいつに『この事』がバレるのはマズい。あの狂人は、何をするかわからねぇ。つぅか、誰にバレてもヤベぇ。……俺がやるしかない。可能な範囲で、死力をつくす。今度こそ、失敗は許されない。死ぬ気で気合いを入れろ。全身全霊で頭を回せ!!)
頭を全速で回転させる。
(フルマニュアルに切り替えるだけなら流石に余裕。『交換した際、俺用にカスタマイズした』と言えば、言い訳は通るだろう。実際、『ブレード系のスタイルサポート』や『予測射撃補正』は全部カットしている。『俺の戦闘技能があれば、あり得なくもない』……上の連中に対する『思考誘導』が成功すれば、勝ち確定)
天童は、必死になって、
『自分の手が人を殺めた』という『証拠』を作り始める。
(やり遂げてみせる! 絶対に死なせねぇ!)




