7話 壊れていく。
7話 壊れていく。
作楽の『無表情』にエッジがかかってきたのを確認した高瀬は、
トドメとばかりに、
「大佐って、クールな男を装っていますけど、実は、ピンチになっちゃうと、ママーとか叫んじゃったりして? あはは――っっ」
重低音の銃声が空間を震わせた。
『音速』が高瀬を貫いたのだ。
認識に届いてすぐ、高瀬は、胸部を確認する。
それなりに豊かな乳房に直径十センチほどの穴があいていた。
「かはっ……」
血を吐く高瀬に、
「オカンを大事に思って何が悪いねん、あぁ、ガキ、ごらぁ」
グレネードランチャーを片手に、
鬼の形相でそう言った作楽に、
高瀬は、
「……こほっ……は、はは……はい、キレた。味方に引き金を引いた……重大な軍規違反……めでたく、懲罰房行き……除隊ですね……少尉♪」
「……」
「邪魔もの……排除完了……えへっ」
「おどれぇ」
「うふふぅ……どうです……あたしぃ……したたかでしょぉ……えへへ……」
「ほんまにええ根性しとる。しゃーない。こっちも、ハラを決めたるわ。覚悟せぇよ」
作楽はそこで、ブレードを抜いた。
全力で『潰しあう覚悟』を決めた。
(こんなアホを久寿男の側におらす訳にはいかん。ネウロ系の精神破壊兵器で、心をズタズタにしたる。トラウマを植え付けて、まともに戦えんようにしたったら、特殊精鋭部隊からは当然除隊される。ここまできたら『道連れ』じゃい、あほんだらぁ。こっちは同級生でクラスメイト。除隊されても、接点は、いくらでもあるわ、ボケぇ)
「なんですかぁ……その目……言っておきますけど……撃つだけならともかく……味方を殺したりしたら……さすがに、懲罰房どころじゃ……うふふ……すみませんよう」
「心配すな。そこまでアホやない。徹底的に、おどれの心を壊すだけや」
「……やれるもんなら……やってみろ……あんた程度から逃げるだけなら……ごほっ……」
そこまでは笑っていたが、
「かはっ……こほっ……ん? あれ……」
だんだんと、顔が青ざめていく。
「おかしい……なんで……再生……まったく……ごほぉっ」
(あ? このボケ、何しとんねや。死にたいんか。こっちは、おどれの心を潰したぁてウズウズしてんねんから、はよ、胸部を回復させぇや。どんだけ再生装置の性能が低かろうと、グレラン一発くらいで……死ぬ……訳……)
そこで、作楽は、ブチ切れた顔から、真っ青な顔になり、
「まさかっ」
即座に、武器を放り投げ、
『ついには倒れこんでしまった高瀬』の元まで駆け寄り、
彼女の剣翼の点検を始める。
流れるように診断ツールを行使。
結果はすぐに出る。
「再生装置が……機能してへん……なんで……」
――と、そこで、
「どけぇ、作楽ぁ!」
どこからともなく、突然姿を見せた天童が、
「修復ツール、起動っ!!」
即座に、剣翼の修復機能を使って、高瀬の再生機能を修理しようとするが、
(ダメだ……基盤が完全に死んでいる。救急ツールじゃ、話にならん。こっちの剣翼と繋いで、一時的に俺の再生装置を使わせるしかない。だが、剣翼の直結は、あまりにも手順が複雑すぎて、俺一人じゃ出来る気がしねぇ)
となれば、当然、すぐに、
『彼女』の顔が、パっと浮かぶ。
(……佐々波なら楽勝。あいつを呼ぶしか…………………いや、無理だ!! 佐々波が戦っている相手は権天使。それも、装甲特化の『セ改』レベルスリー。どう計算しても、まだ戦いは終わっちゃいねぇ。……俺が……やるしかない……)
「く、久寿男……」
青ざめた顔で、震えた声を出す作楽。
その声をきくと、ハラが決まる。
不安そうな顔をしている作楽を背に、
天童は、
(まず、GAQロック解除アダプタを繋いで、外部装置を認識させて……ああ、違う、OSが違うんだから、まずは変数設定。それで、えーっと、えーっと……って、うわっ! こいつ、設定だけはイジってやがる! うそだろ! なんもかんも、うまくいかねぇ! くそが! じゃあ、えっと……とりあえず、GAシステムからログアウトして……コアを一端OFFって……って、いや、違う、違う! 俺はアホか! 『一型』は、そもそも、リカバルがついてねぇだろ。先に『リカバル8・27』をインストール……それで、えっと……えっと、えっと、えっとぉ!!)




