9話 どうか、どうか……
さすがにシンプルすぎたので、タイトルを変更してみました。
9話 どうか、どうか……
「主がどうしてもとおっしゃるのであれば、疑義などあろうはずもなく。この世のすべては、主の想いのままに。――ご要望とあらば、当然、この手で粛清することも吝かではありません」
「……あなたの信仰は受け取ったわ。あれは、あなたの道具と認識しておきましょう。自由にしなさい」
「ありがとうございます」
「ちなみに」
「はっ、なんでしょう」
「作楽トコは?」
「……」
「指定監察官の評定だと、彼女は、稀に見る『世界全体』に対して憎悪を抱いているタイプの徹底した人間嫌いで、著しく協調性にかけるという判断をされているようだけれど? 異端審問委員長としての、あなたの意見は?」
「確かに、協調性は皆無です。人間嫌いなのもおっしゃる通り。しかし、上の命令には従順ですし、高校二年で尉官に到達しているので、天使としての資質は申し分ないかと」
「資質はどうでもいいから、粛清したいと言ったら?」
「……」
「どうしたの?」
「偉大なりし主よ。あれは私のペットのようなもの。何か粗相があった時は、どうか、飼い主である私にお申し付けいただきたく。必ずや『成果』でもって、その償いを――」
「質問の答えになっていないわ」
「……」
天童の額に汗が浮かんだ。
根源的な恐怖に包まれる。
だが、ここだけは引くわけにはいかず、
「どうか……」
「ずいぶんとお気に入りなのね」
「どうか……どうかっ」
「現段階では、何もするつもりはないわ。けれど、もし、なにか問題が起きた場合は、もちろん、責任を取ってもらうわよ。当然、あなたではなく、あの娘自身にね」
「……部下の失態は、隊長である私の――」
「下がっていいわ。引き続き、お仕事、よろしくお願いね」
「……はっ」
頷きながら、天童は、
決して顔には出さないよう注意しつつ、
(作楽の言動に問題があるのは事実……そこを取りざたされたら、言い訳のしようもない。ここらで強くクギをさしておくか? いや、作楽の毒舌は『直らないクセ』のようなもの。態度を改善させるよりも、武勲をあげさせて、地位を向上させる方が処置としては適切か。……少々、難易度は高いが、俺の隊に所属しているのだから不可能ではない。なんだったら、今後、俺が挙げる戦果を、いくつかくれてやればいい)
ありえないほどの『贔屓』をプランニングしつつ、
(絶対に殺させない……あいつにまで死なれたら……俺は――)
★
中二の秋、少尉に昇格した直後のこと。
天童は、主に呼び出され、『異端審問委員長』になるよう命じられた。
神に仇なす不届き者の監視と粛清。
その手で直接『不敬者を屠った事』こそないが、
天童の報告によって、今日までに、30名近い人間がこの世から姿を消した。
そのことに関して、天童は微塵も罪悪感を抱いていない。
理由は単純明快。
(確かに、俺たちは、強制的に、12年も、不公平な戦争をさせられている。それだけをとってみれば、まあ、理不尽と言えなくもない)
しかし、
と、天童は心の底から思う。
(永遠の命をくれるんだぞ。報酬の大きさから考えれば、12年なんて死ぬほど短いだろ。たった12年間を生き抜くだけで、永遠の命をくれるっていう相手に悪口を言う方がどうかしている)
天童は、主に対して反意は微塵もない。
天童は、心から主を敬愛している。
なんせ、永遠の命をくれる相手だ。
少々性格がトガっていようが、
超越者特有の『融通がきかない強硬ぶり』に『少々ではない怖さ』があろうが、
『人を虫ケラ程度にしか思っていないきらい』があろうが、
その程度は、天童からすれば許容範囲。
というか、性格の方向性で言えば、自分と似た節があるので、むしろ、好感を抱いているほどである。
――仮に、主が、心底ムカつく相手だったとしても、
天童は、己が心をグっと抑え込んで、
今と同じように、全力でクツをナメていただろう。
なんてったって、不老不死にしてくれるのだ。
それ以上の報酬など実際の所、この世にはない。
『望みを何でも叶えてやろう』と言われた際、まっとうな思考ができる生物なら、とりあえず、最初に思い浮かぶ願い『不老不死』をマジで与えてくれるのだ。
それも、たった十二年間生き残るだけで。
そんな素晴らしい御方から直々に与えられている仕事。
だから、たとえ、『三十人近い人間をこの世から抹殺したがゆえに、昇進速度にブーストをかけたという事実』を突き付けられたとしても、天童は平然と、こう言うだろう。
『成した仕事に見合った対価を頂戴するのは当然であり必然』
天童は思う。
自分は、真っ当なルールに則って仕事をしているだけに過ぎないと。
ルール違反するヤツが悪いのだ。
天童は思う。
心の底で思うだけでも大概だというのに、
主への不満を、実際に態度で現すなど……
――天童の視点で言えば、そんなもん、ただの自殺である。
『見返りの大きさすらわからぬアホに価値はない。死にたがりは死ねばいい。死にたくなければ、黙って戦って、永遠の命をもらえばいい。それだけの話だ』
圧倒的な性能を誇り、主に対し従順な合理主義者。
天童久寿男の出世は間違いない。
このまま、なんの問題もなく、最速で元帥まで駆け上がる。
誰もがそう思った。
天童自身、その未来を疑わなかった。
しかし、やはり、人生というのは、なかなか思った通りにいかないもので――
ついに、ランキングが下がりました……
いつか来る日だとは覚悟していましたが、
くるものがありますね……(~_~;)
ここまでたくさんの応援をいただいたのに、
結局、上がり切ることができず、
申し訳ない気持ちでいっぱいです。