7話後編 クズニート・プレリュード。
7話後編 クズニート・プレリュード。
(最悪……せっかく『生きたい』って思えたのに……その矢先に死ぬなんて……ほんと、ボクの人生ってなんなんだよ……クソが……)
つい、グっと奥歯をかみしめる。
気づけば、涙が流れていた。
(うわ、ボク、泣いてる……みっともな……だっさ……このボクともあろうものが……くっそ……ムカつく……くそ……『この涙』は『恐怖からくるもの』じゃない……さすがに、ボクは、そんなものじゃ泣かない……ボクは……ボクは……)
「さよならだ、佐々波恋」
そう言いながら、
斥侯は、厳かな態度で、
『佐々波の喉元につきつけていた剣』を、いったん引かせて、
「せめてもの情けとして、苦しむことなく一撃で首をおとしてやるから、ジっとしていろ」
厳かに両手で構えなおすと、
スっとふりかぶり、
佐々波の首を切断しようとした――
――と、
その時!
ビシィっと天に亀裂が入り、
そこから、
「――デビルメアトランク、起動――」
飛び込んでくる『漆黒と金の剣』を背負う天使。
この亜空間に飛び込んでくると同時、
『専用剣翼を纏った天童久寿男』は、
流れのままに、
レーザーソードを召喚し、
宙に鮮やかな弧を描きながら、
「がぁああああ!!」
迷う事なく、斥侯の右腕を切り飛ばした!
※ 本来なら、斥侯の体を真っ二つにしたかったのだが、
寸前でよけられてしまい、腕しか奪えなかった。
「……っ……ぐぅ……っ」
ギリギリのところで致命傷は回避したものの、
しかし、腕を奪われたため、悲痛のうめき声をあげる斥侯。
「どうして……貴様が……別の亜空間に閉じ込めたはず……『専用剣翼の仕様を抑制できる空間』――私に生成可能な『最強の亜空間』に閉じ込めたのに……なのに、どうして……」
「俺はそこのバカ女ほど賢くないが、しかし決して『今日まで何もしてこなかったカス』じゃねぇ。別に『こんなシチュエーションを想定していた』というわけじゃないが、色々と死ぬ気で勉強しておいてよかったよ」
「……っ……」
ギリっと奥歯をかみしめてから、
斥侯は、
「ナメるなよ、天童久寿男……どうやら『最強』の評価を受けているらしいが、しょせんは『候補生の中』での話だろうが」
「まあな。俺は、まだまだ訓練不足。上には上がいる。俺は決して世界最強じゃない。けどなぁ」
そこで、レーザーブレードをかまえなおし、
「てめぇを殺すくらいなら出来る。『戦闘訓練』に関しては『空間系への対処』とは比べ物にならないくらい積んできた」
「調子に乗るな、カスがぁあああ!」
ブチキレた顔で、襲い掛かってくる斥侯。
そんな敵のムーブを、
「……強いな。さすがは『天使軍の敵』……天使になった後は、ずっと、永遠に『お前みたいなやつら』を相手にしなければいけないのか……ゾっとするぜ」
などと言いながらも、
軽やかに、鮮やかに回避しては、
的確に、カウンターの切り返しを決めていく。
「ぐっ……くぅ……たかが、候補生のくせに……どうして……なんで……なんだ、その強さはぁああ! ウチの世界のエースクラスじゃねぇか! ふざけるなぁああああ!」
「ふざけちゃいねぇよ、何一つ。俺はただ、必死に積んできただけだ。どれだけ苦しくても、どれだけつらくても、『あの日の痛み』よりはマシだったから……『必死に積んでいる時だけは、あの日の痛みを忘れられた』から……だから――」
そこで、
天童は、踏み込み足に気合を込めた。
グンと、それまでよりも一歩深く踏み込んだ。
動きに最善の注意をはらい、思考誘導を駆使して、相手に、
『天童久寿男はこのぐらいの力量だろう』と想像させてから、
『その幻影』よりも一歩はやく動いてみせれば、
こうして――
「がぁあああああああ!!」
強敵であろうと、
意外とあっさりと切り伏せることができる。
『強制させた油断』に食いつく、狡猾極まりない一手。
天童久寿男の十八番。
「……エース級……どころか……エースオブエース……きゅう……かよ……ふざ……け――」
真っ二つに裂かれた斥侯は、
そのまま、別れて倒れると、
雪の結晶みたいに、溶けてなくなった。
と、同時に亜空間が解除され、
元の場所に戻る。
唐突な始まりに、あっけない結末。
つり合いはとれている……なんてことを思いながら。
★
――『臨時ミッションの終了』を確認すると、
天童は、
「……さすがだな、佐々波。この『俺専用剣翼』は、見事、俺の思った通りに動いてくれる。『名前とカラーリング以外は』という限定条件つきだが……最高だ。ここまで完璧に仕上げてくれて、心から感謝する」
そんな事務的な発言を受けて、
佐々波は、
「感謝するのはこっちじゃないんすか? 命を助けてもらったわけっすから」
「俺がお前を助けるのは当たり前のことだ」
「っっ……」
急な一撃をもらい、一瞬呼吸がとまった佐々波。
そんな彼女に、天童は、いつもと変わらぬローテンションで、
「言うまでもないが、おかしな勘違いはするなよ。……お前を失ったら『今後、誰が、この厄介なチューンを受けた剣翼を整備していくんだ』って話になるから、助けるのは当然だ、と……言っているだけだ。いいな、ほんとに勘違いするなよ」
その発言を受けて、
佐々波は、顔を伏せた。
勘違いなんかしない。
わかっている。
――誰だっていいはずだ、そんなもの――
わかっている。
確かに、最初の構造理解に多少は苦しむだろうが、
工房に配属された天才たちなら、解析・調整くらいできる。
天童はそれを知っている。
『天童がそれを知っていること』を佐々波は知っている。
しかし、だからこそ、佐々波は、『だらしなくニヤける顔』を必死におさえこみ、
どうにか『いつものニヤけ顔』をつくると、
「まいったなぁ……『佐々波恋を助けるのは魂の義務だから』だなんて、それ疑いようのないプロポーズじゃないっすか。困ったなぁ……センセーと結婚なんて死んでも無理だなぁ、むりだなぁ。あー、ほんと無理」
「お前の耳が死んでいることはよくわかったから、さっさと立ちやがれ。さっきの異世界人のことを上に報告しにいかねぇと――」




