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7話中編 亜空間。


 7話中編 亜空間。


「貴様は有能すぎる。貴様の手にかかった兵器は、我が世界にとって脅威。だが、裏を返せば……すなわち『貴様を殺せれば、この世界は最大の切り札を失う』ということ」


(周囲から天使候補生の気配を感じない……亜空間に閉じ込められた……まっず……いま、戦闘用の剣翼は持ってない……)


 佐々波のこめかみから汗が流れた。


 最悪なことに、

 現在は、『技師用の剣翼』しか装着していない。

 戦闘能力がゼロに近い技師用の剣翼では、

 異世界の斥侯(偵察兵)にあらがえるとは思えない。


(この世界の対異世界用のフィールドは凄まじく強固……この仙草学園はその中枢。そこに忍び込めるほど優秀な斥侯……たとえ、今、ボクが、戦闘用の剣翼をもっていたとしても勝てない……将来のボクならともかく、今のボクでは、さすがに無理。……ようするに詰み)


「言っておくが、上層部の助けを期待するなよ。痕跡はどこにも残していない。私の隠密力をナメないほうがいい」


(でしょうねぇ……別に、そうでなくとも、ボクは、『上の助け』なんて期待しないけど)


 佐々波は、現状を正確に把握すると、

 スっと両手をあげて、


「投降しまーす。というわけで、命だけは助けてほしいんすけど。情報が欲しいならいくらでも吐くし、『技術面で協力しろ』っていうなら、いくらでも。だから、どうか、命だけは奪わないでほしいっす」


「……私は異世界のスパイだぞ。私に協力するということは――」


「この世界を裏切るということ……んなこたぁ百も承知。ボクはバカじゃないんで」


「なぜ、そうまでアッサリと――」


「別に、世界とかどうでもいいからっすよ。ボクにとって大事なのはボク自身だけ。ボクはそういう人間っすよ」


「ふん……つまりは、最も忌むべきクズということか」


 そういうと、異世界の斥侯は、腰に携えている剣を抜いて、


「私は、貴様のようなクズが大嫌いだ。もとより『捕虜にする気』などなかったが、よりいっそう『捕虜になどしてやるものか』という気持ちが沸き上がってきた」


「……あら~……忍者やっているぐらいだから、現金な性格かなぁと思ったんすけど、どうやら、忠義を重んじるタイプだったみたいっすねぇ……いやぁ、見誤った、見誤った……これはもうダメかもわからんね」


「貴様は生かしていたら、どのような反逆をしかけてくるかわからん。貴様の頭脳は忌避の対象でしかない。よって殺す」


「……忌避の対象でしかない……か」


 そこで、佐々波は自分の人生を思い返してみた。

 一言で言えば、嫌われ続けた人生だった。


 有能すぎる彼女に対し、たいていの人間は敬意よりも先に恐怖を覚える。

 嫉妬という暴力。


(ちょっと前までのボクだったら……たぶん『ま、別にいっか、ここで死んでも』とか言ったんだろうけど……)


 心の中でそうつぶやいてから、


「……天錬工具改Ⅲ、起動」


 手首のロザリオを握りしめて、そう宣言した。

 すると、彼女の背中に、非常にメカメカしい剣翼が顕現。


「……どういうつもりだ? まさか、それで戦うつもりじゃないだろうな?」


「業務用トラックでF1に参加するようなものだ……ってことくらいは重々承知なんすけどねぇ……ちょっと最近『死にたくない事情』が出来たんで『無抵抗のまま殺されるのを待つ』って選択肢はないんすよねぇ」


「……ならば、せいぜい『無駄なあがき』を堪能するがいい」


 そう言い捨てると、

 異世界の斥侯は、おそろしい速度で、佐々波に切りかかってきた。

 反射的に『EECR拡散加速収束棒』を召喚して対抗。


 ギュィイインッと、『溶接棒』が『刃』をはじく音がした。

 この溶接棒は『剣翼を傷つける事さえ可能な超エネルギー』を放出できるが、しかし、それは『剣翼がそういう風に作られている』というだけで、どんな装甲も貫ける貫通武器というわけではない。


 まったく種類の違う『敵』との闘いにおいて、

 この溶接棒は、ド〇クエにおける『ひのきのぼう』級。


「動きは悪くない……『卓越した技師としての才』を持つだけではなく、戦闘兵士としても有能……見事だ。見事な才能だよ。貴様は天才だ……しかし、だからこそ死ぬ……」


 斥侯の圧力が増していく。

 佐々波を殺そうと詰めていく。


(ああ、これムリなパターンのやつ……)


 佐々波は決して弱くない。

 というか、候補生の中だと、かなり強い方。

 天才技師であり、戦闘兵としても一級という、超ハイスペック美少女。


 だが、さすがに、『本物の敵』に勝てるほどではない。

 あくまでも、彼女は天童(最強の戦士)のパートナーであって、

 最強の兵隊そのものではないのだ。


 だから、ついには、

 ガキィンッ!

 と、たやすく溶接棒をはじきとばされて、


「無意味な抵抗は堪能できたか?」


 喉元に剣の切っ先をつきつけられて、

 佐々波は、


(最悪……せっかく『生きたい』って思えたのに……その矢先に死ぬなんて……ほんと、ボクの人生ってなんなんだよ……クソが……)




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