6話 デビルメアトランク。
6話 デビルメアトランク。
ほどなくして、最後の微調整まで終わらせると、
「さて、それじゃあ、一度、試し乗りしてもらっていいすか?」
「ああ……」
返事と同時に、天童は、左手首ごとロザリオを握りしめ、
「トランク、起動」
宣言する――が、
「………………ん? トランク、起動! 起動ぉ! ……はぁ? ……おい、出ないぞ」
「そりゃそうっすよ。正式名称は、デビルメアトランクっすから」
「……は……ぁ?」
「さすがに、トランクだけだとダサすぎて萎えるんで、かっこいい名前を追加しておいたっす」
「そのかっこいい追加がデビルメアだと?」
「そうっす」
絶句している天童に、
佐々波は、嬉々として、
「だって、トランクだけだと、なんか『さも夢が詰まってござい』みたいな、軽くメルヘンチックで、しょーもないじゃないっすか。でもでも、デビルメアをつけることによってぇ?」
「悪魔の悪夢が詰まってます、ってか? やかましわ!」
「どうすか? そそるでしょ?」
「どの角度から見ても糞ダセぇだろ! ほんと、お前は、センスが死んでんな! いや、もう、どうでもいい! とにもかくにも、さっさと戻せ!」
「無理っすね。名前は、一回、決めちゃうと、それで永遠に登録されちゃうんで。強化して、プラスで名前をつけることはできるんすけど、母体となる名前は変えられないっす」
デビルメアトランク・セラフレア/トロイメロイなどと名前を追加することはできるが、
デビルメアトランクという名前自体にテコ入れはできない。
「ウ・ソ・だ・ろ、おぉぉぉい!!! って事は何か? 俺は、これから先、未来永劫、そのクソみたいな名前をコールし続けなきゃいかんのか?!」
「デビルメアトランク、めっちゃカッコいいじゃないすか! 『あ、抱かれてもいいかも』って考えなくもないレベルっす」
「ほんっとに、てめぇは、全方位に狂ってんなぁあ!」
「ちなみに、マジで、もう何言っても無駄なんで、さっさとコールしてくださいよ。ほら、はやく、センセー」
「……もう……マジでか……」
ガッツリと、本気で落ち込んでから、
「……で……デビルメアトランク、起動」
コールの直後、背中に顕現した新しい剣翼は、
今まで使っていた汎用機と、まるで違う輝きを放っていた。
(センスはともかく、やっぱり、出来だけはいいんだよなぁ。すげぇ完璧にセッティングしてんじゃねぇか。ほんと、あのアホ女が稀代の狂人でさえなけりゃあなぁ……)
軽く飛びあがってみる。
まさしく天使のように、柔らかに舞う。
(やはり、専用の剣翼はいい……このオーダーメイド感。かゆいところに手が届く感じ。しっくりくる)
亜空間倉庫に意識を向けてみた。
自分好みの配置で整理されている。
(武装の整頓位置を自分で決められるのは、やはり、かなりのポイントだな。ショットガンとバズーカとレーザーソードの切り替えがスムーズに出来るかどうかは、コンマを争う鉄火場だと、かなり重要なポイントだからな)
――剣翼は、ザックリと言えば、万能兵器。
大まかに出来る事は三つ。
『飛行』と『武装転送』と『肉体再生』。
亜空間倉庫にセットされた大量の武器を自由に出し入れしながら、高速で自在に天を舞う事ができる。
その上、戦いで傷ついた肉体も、凄まじい速度で再生してくれるという万能ぶり。
剣翼のコストによって、回復速度は大分違うが、
最低スペックでも、吹っ飛んだ片腕を数分程度で再生させる事が可能。
「どうすか。初めて駆る専用機は」
「名前はクソだが、性能は悪くない。全体的に軽い気がする」
「センセーがずっと使っていた、機動汎用の五改Ⅱ型より、旋回性能が大幅に上っすからね。仮に重いと感じたら、それは脊髄がイっちゃっている証拠っす。まあ、ただ、亜空間倉庫の積載量を大分大きくしちゃったのと、プラチナを三つも搭載しちゃったんで、最大速度は二段回ほど低下しちゃったんすけど」
「別に構わない。……ちなみに、プラチナのアビリティは、何を組んだ?」
「 『バロールバンプ(体力メチャメチャ削るけど、一時的に、火力超絶アップ)』
『ラストローズ・ダークマター(全挙動がかなりシビアになるけど、積載量三十%アップ)』
『魔心臓(光属性兵器の火力が低下するけど、偽装再生機能追加)』の三つっす」
「……なぜ、わざわざ、堕天っぽい、俗に言う闇属性の技能ばかり……」
いわゆる闇属性技能は、
『致命的な弱点がある代わりに、効果は抜群に高いよ』という諸刃の剣的な技能。
「戦場狂いと恐れられるネームドにはふさわしいんじゃないかと。バロールバンプなんて、めちゃめちゃ、センセーらしいっすよ。発動させたら、腕が、完全に異形化して超カッコいいんで、ぜひ、多用してほしいっす。魔獣って二つ名がつく日も近いっすね。やったね、センセー」
「なにひとつ嬉しくねぇ。今以上のマイナス系二つ名で呼ばれだしたとしたら、それは、つまり、最大級かつ本格的に『忌み嫌われだした』って事だぞ。流石にへこむわ。つぅか、クソみたいな機体名のせいで、すでに、今後、随所で『悪魔イジリ』されんのは確定してんだぞ。俺の心痛、わかってんのか、ボケが」