5話 見事だ。
5話 見事だ。
会話しながら、
剣翼の刀身上に表示されている30インチほどの空中ディスプレイに、
佐々波は、特殊な端末を無線で接続する。
「そして、はい、じゃーん。どうすか、センセー、これ。センセーの専用機をチューンするためだけに造った特注品っす」
「なんだ、これ。うわ、形状キモ……お前、ほんと、頭おかしいな。せっかく性能高いんだから、その頭、もっと、ちゃんと使おうぜ、マジで」
彼女の趣味で『酔っぱらった前衛芸術家の妄想』と表現すれば、ほぼほぼ的確な『歪んだシンセサイザーにしか見えない』という、何から何まで理解不能な改造が施されている特殊なキーボードが登場。
「めちゃめちゃカッコイいいでしょー」
「だから、頭おかしいっつってんだろ。耳、死んでんのか」
剣翼に接続中の端末にセットするやいなや、目にもとまらぬ高速打鍵。
傍目には華麗なる超絶技巧。
冗談みたいな速度で、数多の数字と妙な記号を入力していく佐々波。
「しかし……お前、技術者としての腕だけは、マジで、すげぇな。神字のプログラムなんざ、俺には一生出来る気がしねぇ」
「出来なくても問題はないじゃないすか。ボクが、ずっと隣にいるんすから。おっ、なんか、今のセリフ、プロポーズみたいじゃないすか?」
「クソどうでもいい。集中しろ」
「めちゃめちゃ集中してるっすよ。ボク、センセーと違って、頭を並列に使えるんで」
「いるか? その一言。……ほんと、なんなんだ、お前。俺に鬱陶しく思われないと気がすまんのか。どんな病気だ」
「――というわけで、はい、これで、ハードウェアは完全に組み終わったっす」
「は? マジで? クソ早ぇ……てか、早すぎだろ。テキトーに組んだんじゃないだろうな」
「見てみたらいいじゃないすか」
言われて、天童は、ハードの状態をしっかりと確認する。
ブースタ(柄)・ジェネレータ(刀身)・火器管制装置・追加バリア・武装・オプション、その他諸々。
なにもかもすべて、天童の要望が『口にしていない好み』まで踏まえたうえで、完璧に組まれていた。
「………………見事だ」
思わず、ボソっとつぶやくと、佐々波は、ニィと笑って、
「お礼は、生エッチ三回でいいっすよ」
「本当に惜しいな。このクソみたいな性格でさえなければ、どこに出しても恥ずかしくない完璧な天才美少女なのに……」
「天才というのは、基本、壊れているもんすよ。まあ、ボクの場合は、エロ可愛くて天才っていう、全てを与えられたパーフェクト・オーダーメイドパターンっすけど。いやぁ、ほんと、センセーは幸運値がハンパないっすねぇ。こんな完璧な『彼女』なんて、一国の王でも、なかなか手に入れられないっすよ。いよっ! このラッキーボーイ。稀代のドスケベっ!」
「流石に、いいかげん『寝言を垂れ流す』のにも飽きてきただろ? ……ちゃっちゃと、次の段階に進め」
「ほんとに態度がつれないっすねぇ。ボク、拗ねちゃうっすよ」
そう言うと、佐々波は、
ニタっと、クソ面倒臭そうな笑顔を浮かべ、
「あ、急に腕が重くなったっす。これは、誰かに優しく抱きしめられて、『胸』を揉んでもらわないと治らないタイプの、アレ方面によるアレ的な例のアレっす。センセー、はやく、対処を! さぁ、はやく!」
「いい加減にしろ。マジで後ろから羽交い絞めにして、千切れるほど胸を揉みしだいてやろうか? あぁ?」
「うわ、ドン引き……地位を振りかざして、部下に抱きつこうとするとか。マジ、サイテー」
「……ほんと、芸術的な性格をしているな、お前」
「あの……天童さん。そろそろまじめに仕事をしたいのですが、よろしいですか?」
「そのセクハラオヤジを見るような冷たい目を今すぐやめろ。どうして、そこまで、マジで引いているような顔ができる?」
佐々波は、生ごみを見るような顔から、
「ちなみに、これが、今回、センセーに支給されたAQコアっす。じゃーん」
コロっと表情を戻して、
「GLP‐1200Dっす。いやぁ、いきなり、これだけ高スペックなCPUやメモリを積んだコアを配られるとは、流石、評価のされ方が違うっすね。将官の機体でも、これクラスを積んでいるのは、そんなにないっすよ」
「……おぉ。確かに、デカいな」
思わず、ボソっとそうつぶやくと、佐々波は、胸元をバっと隠して、
「どこを見てんすか! この変態!」
「……メモリ容量の事を言っとんのじゃい、このクソボケぇ」
「もちろん、わかってるっす。さて、まずは背骨からっすね。タンタンターンっと」
「……おい。なんか、お前、最近、作楽の前以外でも、妙にテンション高くねぇか?」
「そうっすか?」
「そうだろうが……お前は、初めて会った時から、ウザったいギャグを飛ばしていたが、あの頃は、芯が冷めてて、もっと距離があったぞ」
「おぼえてないっすねぇ。過去のことなんて」
「……あの頃が懐かしい……あのぐらいの距離感が一番よかった……ほんと、いろいろと楽だった」
「懐古厨になったら、人間終わりっすよ」
「人間終わりてぇんだよ。そのために必死になっとるんじゃい」