4話 マザコン。
4話 マザコン。
「で、センセー専用剣翼の名前は何にするんすか?」
「急に飽きんなや、てめぇから振ったくせによぉ」
やれやれと頭をかきながら、
「名前か。……まあ、なんでもいい。どんな名前にしようと、特に何が変わるわけでもないからな」
「じゃあ、マザコンでいいすか?」
「……」
「冗談っすよ」
「正式に警告する。俺にとって、母の死は何ひとつとして冗談ではない。今後、母に関する件でおちょくってきたら、その時点で貴様は除隊だ。特異技術士官兼副官という他に『代替のきかない稀有な逸材』である事はみとめているが、そんな事は関係ない。決して躊躇はしない。もう一度言う。これは正式な警告だ」
「顔が怖いっすよ。スマイル、スマイル。ほーら、センセーの大好きなおっぱいでちゅよぉ。ちょっとだけなら吸ってもいいから、許してほしいっす。ただ、母乳は出ないので、そこは勘弁してもら――」
「除隊手続きを済ませてくる」
「ぁあ、違うっす! 今のは、いつものようにボクのセクシーが暴走しちゃっただけで、マザコンネタじゃないっす! だから、ほんと許して、センセー」
「ええい、腕にしがみついてくるな、鬱陶しい」
佐々波をひっぺがしながら、天童は、
「母の件は当然として、エロ系のネタも出来るだけ抑えろ。うっとうしくて仕方ない」
「お母様の件は了解っす。でも、エターナル・セックスシンボルのボクに、セクシーを抑えろっていうのは無茶な話っすよ。抑えようとしても、このパーフェクトボディから、ムンムンほとばしっちゃうんすよねぇ。あまりにも扇情的過ぎるボクが側にいることにより、センセーの股間に、常時、多大な負荷をかけさせてしまって申し訳ない限りなんすけど、こればっかりは、どうにもこうにもねぇ。本当に悪いと思っているんすよ。だからこそ、妄想の中で、ボクを好きなようにする事を許可しているんすから。いやぁ、エロ可愛過ぎちゃって、ごめんなさい、センセー」
「ほざき終わったか? よし。なら、調整の続きを始めろ」
「もう……まったく、センセーは、本当にノリが悪いっすねぇ」
軽くブーたれてから、
「で? 名前、どうするんすか? 登録名がないと起動させられないっすよ」
「……じゃあ、トランクでいい」
「トランクっすか。へぇ。ちなみに、なぜゆえにっすか?」
「トラッシュとジャンク、どちらにするか迷ったから合わせた。それだけだ」
「自分の愛機をガラクタ呼ばわりとは、また、シュールっすねぇ」
「俺みたいなのが、品や格好のいい名の翼で飛ぶわけにはいかないからな」
「前から思ってたんすけど、センセーって、なんか、過剰に自己評価が低いっていうか、妙に頽廃的っすよね。なんすか? 芸術家気取りなんすか? ボードレールにでも憧れているんすか?」
「分を弁えているだけだ。頽廃的な芸術家ってのがどういうものかは寡聞にして知らんが、少なくとも、そういった『聞こえのいい上品な言葉』で飾れるような気質じゃないという事だけは断言できる。ようは『しょーもないヤツが格好付けているのを見ると鳥肌が立つ』ってだけの話だ」
「天童大佐殿は、しょうもなくなんかありませんよ! とても格好いい御仁であります!」
キラキラとした笑顔で、ハキハキとそう言う佐々波。
「なるほど。嬉しい評価だ。大尉。……で、本音は?」
「ぷぷ……もちろん、ぷぷっ……今のが本音っすよ……ぷくくっ」
「はったおすぞ、クソガキ」
★
『天使』と『人間』は、同じ塩基配列が一つもないほど、
ゲノムの分子レベルで全くの別物だが、
『天使候補軍に所属している高校生以下の候補生』と
『一般人』の本質的な差は皆無に等しい。
――違いはたった一つだけ。
「おいおい、佐々波……お前、OSの書き換えまで、神字の打ち込みで出来るようになったのか?」
『剣翼』を与えられているか、否か。それ以外の差などない。
もちろん、それは、非常に大きな差なのだが、
内面的な差は何もない。
――にも関わらず、どうして『ちょっと訓練を受けただけ』で、
『長年それでメシを食ってきた傭兵のようにキチンと闘えるか』
と言えば、剣翼が、戦闘のあらゆる面をサポートしてくれるからである。
「CLIに慣れてくると、グラフィカルのパズルは、触れる可動域が狭すぎて、むしろ、やってられなくなるんすよ。あっちは所詮、すでに完成しているモジュールとマクロの組み合わせでしかないっすから、たとえば、美しい『パラパラ』を躍るための補助システムとかは構築できないんすよねぇ」
「んなもん、構築する必要がどこにある」
「どういう意味か、よくわかってないようっすね。ガチプログラムを施せば、実質、剣翼で出来る事は無限ってことっすよ。その気になれば、ボタン一つで、センセーの前立腺を刺激し、心拍数を上昇させ、ボクに襲いかかるよう仕向けさせることも出来ちゃうってことっすよ、ぬふーふーふー」
「お前の頭は、どうして、そう男子中学生的なんだ」
「ボク、男より、女の方が、絶対にエロいと思うっす。むしろ、男、性欲少なすぎ」
「……お前なぁ。少しは、その高性能な頭脳を、気品や気高さでドレスアップしようとは思わんのか」
「ちっちっち。着飾った美しさなんて、本物じゃないんすよ、センセー」
「本質がクソだから『隠せ』っつってんだ。偽物でいいから、いい夢だけ見せてくれ」