表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/73

独白プロローグ「正真正銘のクズ男」


 独白プロローグ「正真正銘のクズ男」


 俺(小学六年)の母親は、異常なほど過保護で過干渉なモンスターペアレントだ。

 去年の夏休み明け、俺は、学校にいくのが嫌になった。


 誰にでも起こる九月一日病。


 つまりは、ただ純粋にタルかっただけなのだが、ありのままを理由にしては、流石に休めないと思ったので、


「イジメらしき何かしらに遭っているし、担任からも嫌われているっぽい雰囲気を感じるから、学校に行きたくない」


 と、事実無根の大ウソを振りかざして、学校を休んだ。


 その結果、俺の母親大暴走。

 学校へ嵐のような猛抗議。

 そんな事実は確認されていないという正当な反論は火に油。


 怠慢! 隠蔽! エトセトラ!


 ヒートアップしていく現状に、最初は戸惑ったが、

 しかし、そこは流石の俺様。

 すぐさま、


(ま、いっか。考えるのタルいし。担任が困ろうが、母さんが恥を晒そうが知っちゃこっちゃないよ。なぜなら、俺は困らないから♪)


 思考を放棄して、流れに身を任せた。


 元々過保護気味だった母は、この件があってから、より過保護に拍車がかかるようになり、結果、『今の俺』というモンスターが誕生した。


「――久寿男。ずっと家にいないで、ちょっと散歩くらい、してみない? いつも言っているでしょ。あなたには、ずっと健康でいてほしい、長生きしてほしいの。だから――」


「いやだ! 外、怖い! 誰かに会うかもしれないじゃん!!(今日は新しいイベントが三つもくるから、そんなヒマありませーん。スマホゲーを七つも同時進行中の俺は大変忙しいのだ)」


「――久寿男。一緒に、おいしいものでも食べにいかない? そうすれば、少しは心が満たされて、精神が安らぐかもしれないわよ?」


「だから、外に出たくないんだよ! どうして、そんなに俺を追い詰めるんだよ! そんなに俺の事が嫌いなのかよ!!(母親と一緒に外でメシなんて食えるかよ、恥ずかしい)」


「ごめんね、久寿男。そんなつもり――」


「ああ、痛い! 頭が痛いよ! ストレスで体が熱い! 死にそうだ(オナニーしたいから、一旦、家から出ていってもらおーっと。つぅか、空気読んで、自分から出ていってほしいわぁ。ほんと、このオバハン、間が悪い)!」


「だ、大丈夫?! 久寿男?!」


「アイス買ってきて! 冷たいもの食べたい! 甘いもの食べて落ち着きたい!」


「わ、分かったわ。すぐに買ってくるから。ねぇ、本当に大丈夫?」


「いいから、はやく! うざい! きもい!」


「わかったわ。ちょっと待ってて」


 母が家から出ていったのを確認して、俺は、


「あのババァ、ちょろいなぁ。というか、根本的に頭が悪いんだろうな。まったく、バカってイヤだねぇ。ああはなりたくないもんだ、っと。――さあ、今日は全裸で抜いちゃうぞぉ。久寿男くん、大フィーバー。あははん♪」


 密かにアマゾンで購入していたAVで一発抜いた。

 賢者モードになると、なぜ、こうも眠くなる?

 俺は、AVをベッドの下に隠して、まどろみに身を任せた。






 ――独白終了。懺悔開始――






「――久寿男、起きろ。おい!」


 父親にたたき起されて、どうしようもないクズガキ――『天童てんどう 久寿男くすお』は目を覚ました。


 目をこすりながら時刻を確認すると、十五時過ぎだった。

 久寿男は眉間にしわをよせる。


(なんで、こんな時間に父さんが?)


「すぐに出かける準備をしろ。病院に行く」


「病院? なんで?」


「母さんが事故った」


 それを聞いて、久寿男は、


(……めんどくせぇなぁ、まったく。今日の六時から、新しいイベントがくるってのに。ほんと、めんどうくせぇわ、あのオバハン。もう、いっそ死ねよ)


 心の中で溜息をつきながら、


「どの程度のケガ? 骨が折れちゃったみたいな?」

「……」


「父さん?」

「死んだ」

「……ん?」


「即死だ。ダンプにはねられたからな」

「……」



「わかっていると思うが、父さん、仕事の方が、かなり忙しくてな。来週からは、また長期で海外に行かなければいけないし……だから、母さんの葬式の準備、お前にも手伝ってもらうことになる。いいな?」

「……………………うん」


「父さん、これまでと同じように、家には滅多にいられないから、今年中は、とりあえず、家政婦を雇う。仲良く、礼儀良く接するんだ。いいな?」

「……はい」


「でも、流石に、そんな状況をずっとは無理だから、来年の中学からは、全寮制の中高一貫の私立に入ってもらう。大丈夫だな?」

「はい」



 久寿男の父親は、家庭に興味がない人間だった。

 だから、『そんなの、今、話すことではない』とも思ったが、

 久寿男は、自分の父が『そういう人間だ』と知っているので押し黙った。


「頼むぞ、久寿男」


 それからの日々は、非常にあわただしく過ぎていった。

 病院で白くなっている母親に別れを告げ、

 死亡診断書を受け取り、葬場に連絡して、遺体を運んでもらった。


 葬式の打ち合わせは少し難航した。

 決めることが多すぎる。


 葬式をする場所の規模、花、提灯、引きでモノ、精進落とし。


 一番困ったのは遺影だった。

 家中探したが、一枚もなかった。


(写真嫌いだったからなぁ……母さん)


 その後も、

 やれ親戚に連絡だぁ、

 やれ役所に火葬許可書を発行してもらってこいだぁ、

 やれ湯濯の儀に立ち会いだぁ――


(やる事、多すぎるな。まあ、今はありがたいけど)


 葬儀に没頭していると、いろいろな事を忘れる事ができた。

 思い出したくない事があまりにも多すぎる。


 葬式が終わってからも、面倒事はたくさんあったので、久寿男的には助かった。

 私物の処理や、御墓の手配。


 だが、諸々全てが終った、ある日の夕方。

 散歩の途中で、

 夕焼けを眺めていた時、




「ぉお……ぅぉ……ぉお……ううぁ……ぉあ……」




 全身がブルブルと震えて、涙が止まらなくなった。


「ごめんなさい……ごめんなさい……うぁ……ぁあ……」


 本当に動けなくなり、引き裂かれたように、心が痛んだ。

 バカみたいに、散々泣いて、心が枯れたのを確認してから、


「確か……健康で、長生きしてほしい……んだったよね? 母さん」


 もう、この世には存在しない人に向かって、久寿男は宣言する。



「約束するよ。人一倍健康に気を使って、誰よりも長生きする」



 母が唯一、自分に望んだ事。

 健康と長生き。


 久寿男は思案する。

 どうすれば、より健康で、長生きできるか。


(まずは、食べモノだ。野菜と果物と海藻……それで、Bカロテン・ビタミンCEB、マグネシウム、カリウム、鉄分は十分。野菜は苦手だけど、俺の嗜好なんて関係ない。あとは……ビタミンDを、きのこ類で取る。シメジもシイタケも大嫌いだけど、健康のためだから、仕方ない――)


 これからの生き方、スケジュール、プランを、全力で組み立てていく。


 どうすれば、健康で、長生きできるか。

 それだけが、今の久寿男にとっての全て。


 この日、この時、久寿男は、生命に貪欲な獣になる事を誓った。


 ――しかし、皮肉な事に、

 あるいは幸運なことに、

 そんな決意をした日に、『それ』は届いた。


 家のポストに入っていた、一枚の真っ赤な紙きれ。



「なんだ、これ?」



 それは、赤紙。

 『天使候補軍』が、『天使候補生』を召集するために発布した令状。


『 召集令状

  左記日時、学校法人仙草学園に参着し、

  この令状を以て当該招集事務所に届け出よ』



「ぇ……何、これ? 天使……はぁ?」







ブクマと評価をしていただけると、

すごく喜びます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ