第六話
六話目です。
重要人物の一人がついに。出てきます。彼女の真の目的は何か!この人物に会うことでファルミリアはどう動くのか!
話が色々なところで、動き始めます
異変はそれだけでは終わらなかった。
闇に白くぼんやりと浮かび上がっているアーシア神像のその顔に重なり合うように、別の人物の顔が浮かび上がって来たのだ。
「エクセリオン様!
アーシア神のお顔が、エンディエッタ様のお顔に……」
それは、エンディエッタに似た少女の悲しみと不安をたたえた顔であった。
「違う!
あのお顔はファルミリア様だ」
「ええ!」
後は、声にならなかった。
マリオンは唖然として、ファルミリアの顔の浮かび上がったアーシア神像を見つめ、呟いた。
「あなただったのですね。
ずっと、悲しんでいらしたのは……」
マリオンには、ファルミリアの幻影が頷いたように見えた。
「僕が……僕が必ず、お助けしてあげます。
今、何処にいらっしゃるのですか?
教えて下さい!」
だが、その質問とは関係ない言葉が返って来た。
それは、とても弱々しいもので、直接頭の中に響いてくるような感じがした。
「……が、三番目の…………決めました。7日後……ます。砂漠の……来る前に伝えて……」
「何が言いたいのですか!」
マリオンは聞き返した。だが、一瞬のうちに、ファルミリアの声も幻影も全て消えてしまった。
マリオンは今の出来事を頭の中で整理し、気を落ち着かせようとした。
だが、なかなか興奮は収まらなかった。
「今、何があったのだ、マリオン」
まだ混乱の収まらぬマリオンにエクセリオンは尋ねた。
「え?あの……
エクセリオン様には、今のファルミリア様の声が聞こえなかったのですか?」
マリオンは困惑した。
「いや、私には何も……。
ファルミリア様の声……それで何と……?」
マリオンはエクセリオンの質問に、この部屋に入る前から、ずっと誰かが悲しんでいる感じがしていたこと、それがファルミリアであったこと、彼女が切れ切れのメッセージを残していったことを話した。
「三番目、決めた、七日後、砂漠、伝えて」
エクセリオンは繰り返して考え込んだ。
「エクセリオン様、わかりますか?」
「うむ、
七日後……七日後に何かが起こる。
それを何処かに伝えろと……何処に?」
「まさか、「平原の民」まで、襲うのでは……」
と、いままで黙って二人の会話を聞いていた巫女が口を挟んだ。
「あ、申し訳ありません
彼女達は「砂漠の民」と仲間のようなものですし、襲われるなんてこと、ありませんよね」
「いや、
あなたの言った通り、「平原の民」が危険なのかもしれない。
彼女達もまた、アーシア神の崇拝者だ」
「でも、もとは同じ一族だったのに……」
と、巫女は不思議そうに言った。
「全ては、大昔の戦いから、狂ってしまった」
エクセリオンは独り言のように呟き、他の二人を見た。
「とにかく明日、このことを誰かに知らせに行かせよう。用心に越したことはない」
長く不安な夜が明けた。
マリオンは昨夜のことが全て夢であってほしいと思った。
目を開ければ、いつもの変わらない自分の家で、隣には兄弟たちがいると信じたかった。
しかし、今、自分が横になっているのは、自分の家の柔らかく暖かい寝床ではなく、硬く、冷たい石の床の上であった。
「マリオン、朝だよ」
ジギアスが声をかけて来た。その声にマリオンは答えようとしたが、出来なかった。
今、目を開けると熱いものが溢れ出て、声を少しでも出すと、耐えていたものが、一気に爆発してしまいそうなのである。
目を閉じたまま、マリオンは包まっていた毛織物を頭から被って、起き上がった。
「なに?」
マリオンは気付かれないように、目を強く擦った。
「大丈夫かい?あんた!」
ジェリドが、牢屋に入れられているファルミリアのところへ食事をする運んで来たとき、暗闇の中で倒れている彼女を見つけて叫んだ。
牢番といっても雑用係のようなもので、あまり信用されていないジェリドは、牢屋の鍵など持っているわけもなく、格子の外から声を掛けるぐらいしか出来なかった。
「おい!
誰か呼んで来るか?」
すると、ファルミリアはゆっくりと身体を起こすと、座り直し俯いたまま答えた。
「わたくしなら、大丈夫です。
少し疲れただけですので、ご心配お掛けしました」
ファルミリアの表情は暗闇の中では分からないが、ジェリドはホッとした。
「そうか。
なら、メシ持って来たから、食えや。あんたの口に合うかどうかわからない、食え。食わねえとまた、倒れるぜ。それに、ここの連中、冷てえから、病気になったって薬なんてくれねえよ」
ジェリドはファルミリアに盆にのった水と干し肉の質素な食事を渡した。
「ありがとう。
あなたは優しいのですね。でも、わたくしにあまり関わらない方がいいでしょう」
その言葉にジェリドは言った。
「大丈夫だよ。
もともと待遇悪いし、冬の間だけここにいるだけだしよう」
と、笑った。
「あなたは「砂漠の民」ではないのですね?」
「ああ。
オレは流れもんの狩人だ。一匹オオカミよ。あんな、おっかねえ連中と、いっしょにすんなよ」
「では、頼まれてもらえませんか?」
「何を?
オレに出来ることかい?」
「はい。
ここをこっそり抜け出して、「平原の民」のところへ行って欲しいのです」
ファルミリアは格子のところまで来て、小声でジェリドに言った。
「これ以上、何の罪もない人々の命が奪われるのをわたくしは見ていられないのです」
「ええ!!」
ジェリドは大声が出そうになったのを慌てて押さえた。もともと、臆病な性格の彼は「砂漠の民」
に見つかったときのことを考えたのだ。
しかし、頼まれると断れないというそんな性格でもあった。
もうすぐ春だ。狩が出来るようになるなどと、言い訳すれば、この要塞から怪しまれずに出ることは出来るだろう。
「オレを信用しちゃっていいのかい?」
ファルミリアは黙って、ジェリドを見つめていた。
「出ることは出来ると思うけど、ここにはもう来れないぜ。
あんた、ひとりで大丈夫かい?」
ファルミリアは黙って頷き、
「はい、承知しております。
私のことは、ご心配なさらず、罪のない人々を救ってあげてください」
「「平原の民」のでしょうところへ行って、逃げるように伝えればいいんですな」
ジェリドは周りを警戒しながら、繰り返した。
ファルミリアは真剣な面持ちで頷くと、
「はい。
よろしくお願いします」
と、頭を下げた。
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