002 チート
僕が異世界からやってきた青年を見つけて一週間。
あの後、彼がどうなったか気になって転生者の村へ様子を見に行くことにした。
「やあ! 久しぶり。あの時は助かったよ。本当にありがとう」
僕の姿を遠くに見つけるなり、手を振って色々と喋りながらこちらへ向かってきた。
少したどたどしくはあるが、しっかりとこちらの言葉で話している。
「へぇ、もう言葉がわかるようになったんだね。言語チート?」
僕が問いかけると、彼は目を丸くした。
もしかしたら気分を害したのかもしれない。
「あー、ごめん。転生してきた人たちがこっちに来る途中、この世界に適応するためか前の世界ではなかった能力が身につくケースがあるって聞いてたんだ。それを『チート』って呼んでたからつい……」
「なるほどね。心でも読まれたかと思ったよ」
ケラケラと笑うと彼は手を差し伸べてきた。
「オレはユーキ。よろしく」
「僕はラウ二ー。君たちの言うところの小人族だよ」
僕はユーキの手を取った。
「ところでさ、最強のチートって何だと思う?」
すっかり打ち解けた僕とユーキはしばらく話し込み、いよいよその話題になった。
「やっぱ戦闘スキルとかじゃないのか? あ、でもせっかくならイケメンになりたかったな」
頬をこね回しながらユーキが言う。
「言語チートもなかなかいいと思うけどね。言葉が通じなきゃ何も始まらないし」
「まあなー。このチートが生まれつきあれば英語で赤点取らなくて済んだのになぁとは思うよ」
「エイゴ」も「アカテン」もよくわからなかったけど、ユーキはそれに悩まされてきたのだろう。
こっちに来てすぐの時は能力を上手く使えなかったようだけど、じきに完璧に使いこなせるようになる。そうすれば「エイゴ」も「アカテン」もきっと怖くない。
「でもさ、僕は本当に強いのは胃腸のチートだと思うんだ」
「は?」
ユーキはポカンとして、すぐに笑い出す。
僕は大真面目なのに。
「こっちの食べ物に慣れてないとみんなお腹を壊すんだよ。食べ物が合わなくて死んじゃう人もいる。それを考えると鋼の胃腸って最強じゃないか?」
「うーん……。言われてみれば、オレも腹壊したしな。チートがあればその辺の草食っても平気なわけだろ?
サバイバルスキルとしては一級品だな」
「うんうん。毒キノコを食べたって平気なんだぞ?」
僕が得意げに言うと、ユーキは眉をひそめた。
「ほんとか? 誰から聞いたんだよ」
「僕のじいちゃん。実はさ、じいちゃんがそのチートの持ち主なんだよ」