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出会い3 河西慎

美人のモデルみたいな人、真っ黒い瞳のしかめっ面。

目の前の二人はいったいなんだろう?

慎の頭は混乱していた。

ここから、何かが始まろうとしていた。

出会い3 河西慎



「はやく入れば!」


 吐き捨てるように真っ黒い瞳が下からにらみつけた。


 百七十センチの慎を見上げる百五十センチもない目の前の敵は、どう対処して良いのかどんな風に言葉をかけて良いか慎の頭には思い浮かばなかった。


ものすごい角度で見あげられてびびるくらいの迫力の大きな黒い瞳。


その黒い瞳の中にはおびえたような顔をした自分の姿が映っていて、慎はなんとか落ち着いてみせようと胸をはって声を出した。

「あ~ うん、はい」


 中に入っていくとスポーツジムはいろいろな器具が置いてあり、奥のほうにボクシングのリングのような一段高くなった場所が見える。

汗とか根性とかそんな言葉が似合いそうな空間。


 ボクシングの事は良く知らなかったが、慎のやっているスポーツとはどこか違っている気がした。

それが何故かはわからなかったし、理解しようという気も今は起らなかった。


「こっち」

 慎は思い出した。


 そうだ、こいつの名前は宇佐美こだま、って言ったな、たしかに。


 女子の中ではちょっと浮いた存在で、いつも一人でいることが多かったな。


 話をしたこともなかったし、存在さえも忘れられちゃいそうにチビ。


 ただ、運動神経だけは抜群で、球技も走りもいつでも一番でその印象は強い。


 スポーツが大好きな慎は、宇佐美こだまが走ったり動いたりしている姿をすぐに思い出す事ができたのに驚いていた。


 そんなことを考えながら、後を着いていくとリング奥の階段に向かって軽い身のこなしで歩いて行く。

そのすぐ後に続いて階段を上がる。


 ジムのほうでは、若い青年が子供相手にいろいろと説明をしているようだった。

他、器具を使ってトレーニングしている年配が数人。


 身体を鍛えるのって、ちょっと面倒な感じだよな。

 サッカーとか野球は好きだし楽しい。

もともと、運動神経は良かった。

なんでもそつなくこなしていた慎は、地道な努力には苦手意識がある。

 筋トレとか毎日やっても、目に見えて何かが急激に変わるわけでもないと思うし、筋力はついてもすぐに効果はわからないようにも思っていた。


 故に慎は長距離走より瞬発力とやる気重視の短距離が好きで、たいていのやつはそうだろうと思っていた。

目に見えない成果は魅力的じゃなかった。



 宇佐美こだまは、チビなだけあってひょいひょいと階段を上がっていってこちらを振り返ると真っ直ぐに黒い瞳を輝かせて待っている。


「兄貴は?」

 こだまに聞いてみた。


 なんだって、兄貴はこんな不似合いな場所で意識が飛んだとかいわれてオレを迎えにこさせるような状況になったかな。


 第一、絶対に和樹はスポーツジムに来る事などは考えられなかったし、意識が飛ぶなんて事も想像しがたい事実だ。


 いったいどうしてこんな展開になるのだろう。


「なんで兄貴は、こんなとこにいるのかな?」

 宇佐美こだまは、瞳をこちらに向けて首をかしげる。

この身長差で見上げられると本当はにらんでいなくともにらんでいるように見えるのかもしれないと思った。

それでも怒ってるのかなと思うくらいに、ちょっと怖い。


 ニコリともせずに、こだまはあごを横のドアに向けて

「好きだからでしょ!」

 と言い捨てて、くるりと背をむけると階段を降りていってしまう。

本当に軽やかという言葉がぴったりのリズミカルな動きだ。

そしてそれは、瞬き一つの間の出来事。


 意味がわからなくてあっけにとられていた。

 どうも頭の回転が遅すぎる。


 好きって、何が?兄貴が何を好きだって?


 意味がわからないまま、中途半場に開かれたドアをのぞいた。

 中から、うれしそうな和樹の声が聞こえてくる。


 なんだ?このるんるんした話し方は。


「でね、本当に目の前に星がくるくるまわったんだよ。不思議だよね」

 笑い転げる女の人の声。

ころころと弾んで音楽を奏でるように聞こえる。


 そっとオレはドアの隙間から中に顔をだした。

 茶色いきれいな瞳と目が合う。

胸の中でドキンとドラムがなった。


「あら、おそかったじゃない。じゃ、わたしはこれで。ごきげんよう」

 茶髪は肩のところでふんわりとリズミカルにはねた。

色白のモデルかと思われるプロポーション。

さっそうと手を振るとにっこり笑った。

 ミニスカートから伸びたしなやかな足が優雅に歩いてくる。

 美しい。

めったに見ないほどの美人だ。

長身で、雑誌から抜け出てきたようなスタイル。

特に化粧もしていないように思われるのに、オーラが彼女を包んでいる。


「あ、か河西慎です。はじめまして」

 さすがにポ~っとなった。


「なに、見とれているんだよ、慎。僕の彼女だよ」

 聞き間違いじゃないのかと思われる声がした。


 あ?なに?彼女だって?


 和樹の言葉に否定も肯定もせずに、電話をかけてきた宇佐美ひかりは出て行った。


 さっそうと手を振りほほ笑んで、まるでファッションショーででも歩いているかのように。


 慎にとって不思議な二人に出会った、最初の驚きの一日だったのは言うまでもない事だ。


 脳裏に焼き付いた印象の対照的な二人。

 二人の本当に対照的な言葉と声、表情と歩き方。

 この日を境に、何かが変わってゆく。




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