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朝の目覚め

爽やかな朝を迎える慎、こだま、和樹、ひかり、そしてはるか。

そこに登場するのは?

色々な気持ちが交差する中で。

 朝の目覚め


翌朝ひかりは、どこかでニワトリが泣いているのを遠くで聞いていた。

ぼんやりとした意識の中で、朝が来たな、ここはどこだったっけなと夢の中で思っていた。


夢の中でひかりは小さい子どもで、ニワトリを追いかけて野原を駆け回っている。


「ここってどこだったっけ?」


 ひかりがはるかに聞くと

「こだまのおじいちゃんの家よ。ひかりのおじいちゃんにもなってくれるって言っていたから甘えちゃうといいよ。大好きな人がたくさんいるって、なんて幸せな事なのかしらね」


 二人でニワトリを捕まえて胸に抱えてにっこりほほ笑んだ。


 そうするとニワトリが低くて大きな声で叫んだ。


「いい加減に起きろぉ~、誰か忘れてないかぁ~!」


はぁ?

なんだ、このニワトリ人間の言葉話してるよ。

誰かって誰の事言ってるのかな?

でも、そういえば誰か肝心な人を忘れてるような気もするな。


 なんだったっけ、今の声は?


ひかりはハッとした。

パチッと目が開いて声のする方を見つめた。


ここはこだまのおじいちゃんの家で、大きな和室でそこに川の字になってはるかとこだまと夕べいそいそと布団を引いて眠ったのだ。


そして部屋の廊下の障子をあけて立っているのは、まぎれもないひかりのいや、ひかりたちのパパ、親父さま。


抱きついてるのは、こだま。

障子の前には母が座ってる。


「親父、どうしたの?ここ知ってたの?あ、知ってるか。いや知らなきゃ来てないよね」


 なんだか狐につままれたように、今がどういう状況かが呑み込めないひかり。


 そこにおじいちゃんの声が聞こえてきた、天の声のように響いた。


「朝飯の用意ができてるんで、起きてきんさい」


「今行きます」

父が返事をする。


そしてひかりに向かって

「朝飯だってさ、ここの飯はうまいぞぉ~」

 小さな子どもみたいに、こだまの事をおんぶして廊下を大股で歩いて行ってしまった。


「だってさ、ひかりも支度して朝ごはんにしましょう!こだまったら、お友だちに見られたら恥ずかしいだろうにね」

ピンク色のカーディガンを着たエプロン姿の母の姿が消えた。

ここら辺は高原みたいに朝が涼しい。

慌てて、着替えて居間に走る。


ちょっと油断しすぎたのかな。

寝坊した?楽しくて夢見すぎたかしら。


まだ少し、ねぼけてるみたい。

どうして親父がここにいるんだったかな。

夕べおやすみなさいを言った時にはいなかったのに。

お母さんが連絡したのかな、あ、それとも長谷さんか。


ああ、長谷さんだ。

なんでもお見通しの長谷おじさんったら、なんか策略があったのかも。

ひかりは、長谷さんがこんな策略家だったとはうかつだと、額に手を当てた。


そんな事を考えて居間に入ると、なんと、河西兄弟の横に座っているのは、河西くんのお母様だ。


なんだかご立腹のご様子。

ご立腹の原因は、この私かしら?


小さくなっている河西兄弟とお母様が三人、大きな座卓を挟んで向かい側に座っている。

こちら側には父とひとつ開けてこだま、その隣の開いてる座布団にひかりは座った。

はるかが忙しそうにお味噌汁を持ってきたのを見て、ここは大人の女性をアピールしようとお手伝いに立つことにする。


超緊張の嵐。


(なんでこんな緊張した朝ごはんを食べなくちゃならないんだったっけ?私、謝った方がいいかしらね)


すでに、ひかりの思考回路はショートしそうだ。

こっそりすれ違いざまに母に耳打ちした。

「助けて!私謝ったほうがいいの?」


 はるかは「大丈夫」とだけ言ってウィンクをすると、エプロンを取って席に着いた。


「さぁ、召し上がってくださいな。お義父さんも久々に私の朝ごはん食べてくださいな」

席に着いたすべての人をみまわして、にっこり微笑むのは、さすがだ。

ひかりはちょっと安心したのか、ぐぅっとお腹がなってしまいあせって大きな声をだした。

「いただきま~す」


 その声ににんまりして和樹が

「おいしそうだね、いただきます。気持ちのいい朝だよね」

 能天気なのか、天然なのか。


「そうね、いただきましょうか」

 河西のお母様が箸を持った。


(食べてしまえばこっちのもんだわ。お母さんの料理は天下一品、幸せで怒りも吹き飛ぶというものよ)

採れたてのトマトのサラダ。

そういえば裏で泣いていたニワトリ、その産み立ての卵の卵焼き。

小さなお魚の佃煮、納豆、山菜と厚揚げの味噌あえ。

玉ねぎのお味噌汁。

久々だった、母はるかの手料理、朝ごはん。


「人間ってね、美味しい物食べたときに幸せホルモンがたっくさんでるって知ってる?」

 向かい側に座っている和樹が答える。

「知ってる知ってる、たしか人のために何かした時にもでるんだよね。この山菜おいしいよ、幸せホルモン次々にでまくっちゃう、みんな美味しくて」


「でしょう?お母さんの料理めっちゃうまいでしょ!」

 口の中に物が入ったままおしゃべりしてしまい、まずいと思って河西お母様をチラッと見ると目があって慌ててそらす。


「本当においしい朝食ですこと。こんなご飯がいつも食べられてひかりさんもこだまさんも幸せね」

(褒められた?)

 河西の母がにっこりした。


「そうなんです母さんの料理美味しくて、太っちゃいそうで困るんです。あ、今回は私が和樹くんを連れまわしちゃってすみません」

褒められたついでにひかりは謝ってみた。

すると、こだまが気を使ったようで

「お姉ちゃんじゃないです。あたしが慎ちゃん連れてきちゃったからいけないんです。ごめんなさい」

 小さい声で肩をすくめた。


「オレ勝手についてきただけだから!こだまは悪くないよ。ごめんオフクロ、叱るんならオレを叱ってよ」


 自分だけ謝ってないと思ったのか和樹が

「ごめんなさい、でも夕べ連絡入れたしその時には怒ってなかったよね、母さん」


(あれ?そういう言い方やばくない?)

「あらあら、わたくし怒っているかしら?」

冷ややかな声。

今の一言で怒った可能性は大だと思うけど。

ひかりはどきどきする。


そこに、二杯目のおかわりをもらって嬉しそうな父がにかっと笑って一言。


「親だもの、心配するさぁ~。心配して眠れなくなっちゃって電話かかってきたのは夜中だったものね」

 母が後を続けた。

「だそうよ、で朝早く二人で車を飛ばしてやってきたって訳ね。そもそも、事の発端はわたしですもの。本当に申し訳なく思っています。ごめんなさい、そちらのご兄弟にもたくさんご迷惑をおかけしました」

 箸を置いてはるかが、頭を下げる。


 河西の母が手を振ってちょっとひきつった笑い顔をつくる。

「いえいえ、なにかご病気がみつかったとか。可愛いお子さんの事考えたら悩んでも仕方ない事ですわ。こんな何の取り柄ない息子たちですが、お役にたったのなら幸いです。それに、良いお父様をお持ちで。羨ましいというか。ねえ!」

 と慎にふる。


「別にオレは自分ちの親父、結構好きだけど!」

 河西母のちょっと戸惑ったところに、珍しく助け舟をだしたのは和樹だ。


「うちは、そこそこ有名な華道一家の婿養子だもの大きな顔はできないから、あれでいいと思うなぁ、父さんは父さんなりに一生懸命父親がんばってるみたいだよ」


ひかりはみんなが複雑な表情になっているのもお構いなしで、くったくなく話している和樹を見て笑いがこらえきれなくなって、いけないと思ってうつむいた。


 楽しい朝の会食は、そろそろおしまいに近づいていた。

「さ、お食事いただいたら、あなたたちもう帰るわよ!本当にわたくしまで、ずうずうしくいただいてしまいまして恐縮です。ごちそうさまでした、また後程何かお礼など考えさせていただきますわね」


「いえいえ、そんなお気遣いなさらないでくださいな」

とここから、よくあるおばさんのイエイエコチラコソ、の応酬合戦勃発。

そして、どちらが勝ったのか河西親子はお母様の運転する白のセダンで手を振りながら帰って行った。


(ふぅ、緊張の糸きれた)

 ひかりは身体の力が抜けてゆくのがわかった。


 しかし、まだまだビックリは止まらなかったのだ、この後に父が信じられない事を言い出すのだから。








次話、20日23時 アップします

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