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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第二章 この世界で
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VIII 調薬師の後輩

 扉を開けて、廊下に立っていたルティエラに声を掛ける。

「ルティ、準備出来たぞ。」

「もう、オーナーはもっと恥じらいを持ってください!」

「お、おう。それで、食堂か?」

「ほんとに分かったんですか?…朝食ですよ。オーナーはどうします?」

「ん、頂くよ。それと、シュミ婆さんに会ったがあんま変わってなかったな」

「シュミさんですか?教え方も上手くて、とても助かってますね」

「…あの婆さん、今何歳だったっけか」

「んー?どうでしたかね?僕よりは若かった記憶があるんですが」

「流石に百歳は超えてないか、人種だもんな」


 話ながら歩いていると、食堂の入り口が見えてくる。

 造りは社員食堂の様な感じで、手前にトレーと料理が並んでおり、それを持って好きなテーブルへ移動して食べるようだ。

 ルティエラは既に料理をもらっている。

 俺ももらってくるか。


「ルティ、俺の薬は卸さなくて良いのか?直ぐに出せるが」

「オーナーの、ですか?そうですね…今の所は大きな取引も無いのでまだいいです。貴族との取引にオマケで付けたら…とか考えてますが」

「ふーん、色々考えてるんだな」

「当然ですよ!商会を大きくする為に頑張りました!褒めて下さい!」

「おー、すごいすごい。これからも宜しくな?」

「はいっ、任せて下さい」


 いつもの感じで会話してたが、ここ食堂だったな。周りが驚愕した様な目で見ている。ルティエラは仕事中は真面目っぽいからか、素はこんな感じなんだけどな。もっと年相応の行動を…って成人近いエルフだったな、コイツ。

「…?どうかしましたか?」

「いや、何でも無い。仕事に行こうと思ってな」

「じゃあ僕も仕事に戻りますね。あ、今日はヤナギさん達が帰ってくる予定ですよ」

「アイツらか、居なかったから森に帰ったかと」

「稀少な魔獣の素材とか、僻地の魔草をたまに採って来て貰ってるんですよ」

「そうだったか。教え終わったら、傭兵達の案内もしてくれるか?」

「いいですよ。今日は予定が詰まっているので、明日、で良いですか?」

「ああ、明日な。わかった」

 食堂を後にして、調薬室に向かった。


 ******


「ふん、お前達。この坊主が新しい講師だよ。そんでもって、私は御払い箱って訳さ」

「婆さんも引き続き講師だよ。詰まんねぇ冗談はやめろ」

「相変わらず口が悪い男だね。…悔しいが私より腕は上さ。しっかり学ぶことだね」


 調薬室で新人相手に挨拶を済ませ、調薬の腕を見て回る。

 教えているのは三人だ。

 赤茶色の髪色をしており、そばかすが頬にある。

 特別目立つ容姿では無いが、手際よく作業している。

「えーっと、ヒュミ?だっけか?彼女が一番上手いな」

「フッフッフ。この子は私の孫だよ?当たり前さね」

「婆さん孫居たのか…、てっきり独身だと思ってたわ」

「あのねぇ。普通はね、私くらいの歳なら孫くらい居るもんだよ?」


「先生、出来ました。鎮痛薬です」

「ふむ、うん。上出来だな」

「ありがとうございます」

「不純物も少ない。色も良く出ている。優秀だな」

「…お言葉ですが、不純物なんか欠片も入ってないのです。なので、その言葉は不適切です」

「いや、入っているよ。あんまり効果に差はないけどね」

「…っ。そうですか。ご教授ありがとうございます。」


「先生ーっ!毒が腕に掛かってしまいましたーっ!」

 猫系獣人種のサリーが叫ぶ。サリーは王都に来た初日に関わった職員だ。前向きな性格というか、怖いものなしというか、行動に落ち着きが無い。

「流水で、綺麗に洗って来なさい」

「はーいっ!でわっ、行ってきまーす!」


「先生っ!出来ました!どうですか!?」

「えーっと、ん?これ鎮痛薬かい?」

「はいっ、痛みが引くように祈りを込めて作りました」

 どうみても色が毒々しい。ローブの袖に隠して一瞬だけポーチにしまい、説明文を読む。

『安楽毒』『使用者は耐え難い眠りに誘われ、一度意識を手放せば目覚めることのない眠りに就く』

 うっわ。確かに痛みは止まるだろうが、命も止まるとかやべぇな。ゲーム内のどこかのクエストで見たことあるな。救いがない様な後味が悪いクエストだった記憶がある。偶然で、しかも善意でこれを作り出したのか…。

「サリー。君は毒物には触らない方が良いかもしれない」

「?」


 この猛毒、どうしようか。…こういうのは、誰かにぶん投げるのが一番良いということを、俺は知っている。

「婆さん。出来れば処分しておいてくれ」

「なんじゃ?…坊、これは何じゃ!?」

「サリー作の鎮痛薬だ。彼女には毒は扱わせない方が良い」

「処分といっても…。分かった、なんとか無毒化して捨てておくぞ」

「流石婆さん、頼りになる」


「ミシェル。ここでは余り時間を掛けない方が良いぞ」

「分かっているよ」

「分かってないじゃないか。ほら、変色して駄目になった」

「うるさいっ!大人しく教えを受けてやるんだ!教えるなら、手伝えっ!」

 ミシェルは青色の髪色の少年で、言葉は荒々しいが動作は丁寧だ。が、俺はあんまり好きなタイプじゃ無いな。手伝ったら駄目だろ。自分でやらなきゃ。


「ほう、上手いじゃないか。やれば出来るな」

「ふん、もっと誉めるが良いさ!」

 少し褒めたら、直ぐに調子に乗るな。だからと言って不注意になるということは無いので、ほかっておくか。問題があったらその都度注意すれば良い。

「鎮痛薬だ。最高傑作だな!」

 うん。普通の鎮痛薬だな。可もなく不可もない。


 ******


「俺はこれで出ていくけど、今日の復習をきちんとしておくこと。…サリー以外な」

「坊はあんまり教えるの上手くないのぅ。そこは私の勝ちじゃな」

「ハイハイ。勝ち勝ち。じゃあ俺行くから」

「なんじゃその反応は。ムカつくのぅ」

 調薬室を後にして、傭兵の宿舎を見に行くことにする。あ、昼飯食べて無いな。先に食堂だな。

 才能溢れる後輩が居て良かった。調薬師も安泰だな。


 ******


 目の前のメニューには、Aセット、Bセットの文字がある。これはゲーム時代のルティエラに社員食堂のことを少し話したことがある。恐らくその再現だろう。どちらにしようか。…どっちでもいいな。

 食事を作っているのは、親子らしき二人だ。父と娘だろうか。どちらも黒髪で顔に共通の特徴がある。


「すいませーん。Aセット下さい」

「Aセットね。ん?兄ちゃん。新入りかい?」

「いや、新入りというか戻ってきたというか」

「そうかい。商主様のあんな姿見たことないよ。それから推測するに…古い知り合いか何かって所だろ?」

「まあ、そんなもんかな。古い知り合いだ」

「やっぱりね。ハイっ。Aセットお待ちっ!」


 トレーに乗った料理は朝と違って量が多かった。サラダっぽい奴とパン、スープと果物。そして何だかよく分からない塊。無理やり表現するとバカでかいコロッケという所だろうか。


 普通に旨かった。パンは若干堅かったが、スープに浸けて食べれば普通に食べれた。コロッケの様な何かは最後までよく分からなかったが、肉の味だけは確認出来た。

「やあ。ここ、座って良いかい?」

 右肩から腕にかけて刺青のある男が、目の前に座った。腕に描かれている絵は龍だろうか。髪色は金色で伸ばした髪を型まで伸ばしている。

「君、見ない顔だね。新入りの薬剤師さん?」

「まあ、俺は薬剤師だけど」

「俺!一人称が俺!良いねぇ。名前は?」

 めんどくさい奴だな。適当にあしらっておけばいいか。

「傭兵の人?」

「ん?オレかい?オレは傭兵だよ。知らないのかい?"閃耀のディガル"なんて王都では有名なんだ」

「そうか。じゃあ俺、用があるから」

「あ、ちょっと!まあ、ここに通えば会えるか。それが運命(さだめ)ってモノさ」


 なんかアイツの話を聞いていると背筋が寒くなる。

 一瞬、レンに似ているなと思ったが、全く違った。言葉選びが中二くさいというかキザったらしいというか。

 用事はもう無い、当初の目的通りに傭兵を見に行くか。

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