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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第二章 この世界で
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VI プレイヤー

「なんと!イブキ様もいらしていたのかっ!」

 銀髪巨乳メイドエルフは、こちらを凝視して叫んだ。

 "も"、か?それにメイド服というと、クランリーダーであるレンしか浮かばない。

「シャロン、いきなり押し掛けてくるなんて珍しい。どうかしたのかい?」

 いつの間にかルティエラが近くまで来ていた。言葉使いは子供っぽさが一切抜け、仕事モード的なスイッチが入っている。

「実は折り入って相談したいことがありまして。至急、黒塵(コクジン)病の特効薬を用意して欲しいのです」

「黒塵病かい?アレの特効薬は日持ちしないし、調合が終わるまで時間が掛かるよ?誰か感染したのか?」

「我が主君が帰って来たのです。そして、傍らに黒塵病に掛かった女性を連れておりました。村の生き残りだそうです」

 これは明らかにレンだな。それに女を連れ帰って来たとは。どこまでもアイツらしいというか何と言うか。

 それにしても黒塵病か。──黒塵病とは、ある変質した魔獣が撒き散らす病魔だ。健康な人にはそもそも感染しないのだが、弱っていると感染する。咳、熱、発汗、と一般的な病気の症状が出るのだが、問題なのは感染者が死んでからだ。死ぬと名前の通り、皮膚が黒く変色して少し刺激を加えるだけで、ボロボロと塵のようになって崩れてしまう。当然、その塵には病魔が潜んでおり、人の呼吸器官に入り込んで弱らせ、感染させる。ゲーム時代ではその病で幾つもの村が全滅したという話を聞いたことがあるし、解決の為のクエストも受けたことがある。

 厄介なのは特効薬が日持ちしないことだ。薬師もギルドも作っては運び、作っては運びで世話しなく動いていたのを覚えている。


「俺、持ってるぞ。特効薬。」

「イブキ様!ほっ、本当ですか!?」

「ああ、ポーチがあるからな。劣化しないし、高く売れる時まで仕舞っといたんだよ」

「それなら話は早い!ルティエラ!イブキ様を借りていくぞ!」

「僕がオーナーの行動を決めることは出来ません。オーナーに聞いて下さい」

「イブキ様っ!来ていただいて宜しいですかっ!?」

「あ、ああ。大丈夫だ。レンの話も聞きたいからな」

「それでは行きましょう!今すぐに!」

「うおっ!ルティ、ちょっと行ってくるぞ」

「はい、行ってらっしゃいです。オーナー」

 シャロンに腕を引かれて歩き出した。外は夕日が更に陰り、太陽の光を反射している赤い月が顔を覗かせている。この世界の月は地球との距離が近い。そのせいか圧迫感が凄い。


「二十年経ったが、屋敷まで残ってたんだな」

「当然です。(あるじ)が置いてくださった剣を少しずつ市場に流していたので、私たちの生活は変わりませんでした。我が主君は偉大です」

「…アイツそこまで準備していたんだな」

 ゲーム時代で最後の日があんな様子だったからな。築いたものを全て投げ出していると思ったが、畳む準備を終えてからあんなことしてたということか。ちっとも尊敬は出来ないが。


 自分の記憶を確認しながら、夕日に照らされる街中を駆けていった。


 ******


「主!イブキ様を連れて参りました!」

 ──えっ!イブキか!?

 両開きの扉を押し退けて開いた。広い屋敷には塵一つおちていない。

「相変わらずクソ広いな…成金め」

「お!イブキィ!…なんか久し振りって感じはしねぇな」

「おう、レン。後で聞きたいことがある。…患者は?」

「こっちだ。上ってきてくれ」

 一段一段無駄に間隔が広い階段を上る。掃除は隅から隅まで行き届いていた。一体何人雇っているんだコイツは。


 大きなベッドに一人の女性が横になっていた。この女性も例に違わず胸がデカい。その周囲に三人のメイドが立っていた。

「それでイブキ。薬はどこだ?」

「落ち着けよ、…ほら受け取れ。ソレ、飲み薬だからな。」

「ありがとよ。…ジョセフ、薬だ。飲め」

 ──んぅ、むっ、うぇっ


 ジョセフと呼ばれた女性は中々薬を飲み込まない。

 口に入った異物を吐き出してしまうようだ。

「あー、俺外出てるから」

「俺は、別に他人が見ててもかまわないけどな?」

「そんなもん誰が好んで見るんだよ、別室で待ってるからな」

 廊下に出て、近くのメイドに声を掛ける。適当な部屋に案内して貰った。廊下を歩いていると高そうな壺や絵画が飾られている。

「こちらでお待ち下さい。紅茶を持って参ります」


 ******


「おう、イブキ。助かった」

 くすんだ金髪の美丈夫が目の前のソファーに腰を下ろした。西洋風の髪型に日本人の顔をそのまま貼り付けたような感じなので、髪を染めた大学生っぽさが拭えない。このチャラさなので、もしかしたら本当に現役の大学生なのかもしれないが。

「あの程度なら死なんかったろ。俺じゃなくても間に合ったさ」

「それは違うな。女の苦しむ姿を見ることしか出来ねぇってのもツラいもんさ。だからお前が居て良かったぜ」

「レン。本題に入るか」

「…おう」

「この世界に何時から居た?俺は二日前、"サリアナ樹海大迷宮"だ」

「オレも二日前、"カブラ村()()"だ」

「跡地…あの女が生き残りか?」

「そうだ。全員確認したが手遅れだった。ジョセフだけだ。まあ、名前しか分からねぇがな」

「よくそんなホイホイ人助け出来るな。俺は出来ない」

「女でも男でも助けはする。だけどな女だけは絶対に泣かしちゃいけねぇのさ」

「自慢気に言うけど、かっこ良くは無いからな?」

 レンは一応筋が通っている。とんでもない女好きだが、それゆえ話しやすく、クランを纏め上げることが出来た。


「戻れると思うか?」

「オレは正直言うと戻れねぇと思う。人に触れれば温かいし、ケガすればキチンと痛い。ここは現実だ、夢でもゲームでもねぇ」

「そうか。まあ、そこまでホームシックにならないから良いけどさ」

「おぉ、そうだよな。なぜか帰りたいとは思わねぇし、思えねぇ」


「…ケガ、か。死んだらどうなると思う?復活(リスポーン)出来ると思うか?」

「分からねぇ。試す訳にはいかねぇしな。でも、普通に死ぬと思う。誰でも例外なく、平等に、死はあると思う」

「…」


「ご主人様。紅茶の用意が出来ました。」

「お、ありがとな。頂くよ」

 レンはカップの取っ手を持ち、注がれた熱い紅茶に口を付けた。

「熱っ。うん、うまいな」


 俺はそれを見て、テーブルの上に置かれ、冷えきった紅茶を持ち上げる。現実では紅茶は滅多に飲まなかったな。白い陶器の縁に口を付けた。紅茶特有の香りと渋味が混ざる。冷えてしまったので牛乳とか入れると合うかもしれないな。…それはミルクティーか。

「普通に、紅茶、だなぁ」

「なんだよ、紅茶は紅茶だろ?」


「それでオレら以外にも居ると思うか?」

「分からない。でも居たとしたら自然と人の多い街に集まる、とは思う。王都とかさ」

「そうか、じゃあ別に積極的に探さなくても良いか?」

「人が増えて必要だったら作ればいいんじゃないか?そういうコミュニティとかさ。お前、得意だろ?」

「そうだな。うっし、それじゃあ薬の料金を払わなきゃな」

「要らねぇよ。その代わり、定期的にタダで剣のメンテナンスをしてくれよ」

「そんなんでいいのか?金なら幾らでもあるぜ?」

「要らん要らん。それにタダより高いものは無いって言うからな。…ん?外はもう暗いな。そろそろ帰るか」

「お、じゃあ馬車で送ってやるよ。サディ、馬車の用意を頼む」

 レンは近くに居た、初老の女性に声を掛ける。元は美人だっただろうが、目元や口元のシワがそれを隠してしまっている。


 屋敷の前には豪華な馬車が停まっている。外は暗いとはいえこれで走ったら目立つだろうな。こういう所は悪趣味としか言えない。

「またな、イブキ」

「ああ。また、な」


 金色の馬車は夜を切り裂き、商会まで駆けていった。

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