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この世界の台地で  作者: あの日の僕ら
第五章 安寧ヲ乱ス者
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XLIX 帝王

「三番術師隊、やれ」

 帝王がその言葉を発した瞬間、床が青く輝き出した。同時に、両側の魔術師から詠唱が聞こえてくる。嫌な予感しかしない。身体を反転させ、輝いている床から足を退かそうと動いた。


 ──『タイフン・バインド』!!!

 身体に風の帯が纏わり付く。名前からして風で拘束する魔術なのだろうが、とても動きづらい。

 床の輝きか増す。拘束を解除している時間はない。このまま光の外に出ようと足を踏み出す。


 ──『ホーリー・サンクチュアリ』!!!

 床の光が幾何学的な文字を紡ぎだす。そして、透明な壁が文字列からせり出し、進路を塞いだ。抜け道はないかと周囲を見渡すが、穴はどこにも空いていない。見渡したことで分かったが、床の文字列は大きな魔法陣であった。

 身体に絡み付いていた風の帯が消えていく。


 上を見上げる。半球状の透明な壁が覆っているようだ。試しに壁を殴り付けてみると、硬質な感覚と衝撃を吸収された感覚を受ける。この結界、相当硬いな。

「フハハっ!こうも上手く行くとは!侵入者一人に使うモノでは無いが、世の中何が使えるか分からんなっ!」

 帝王が大声で嘲笑う。床にこんなモノが仕掛けられていたのは流石に見抜けない。厄介だが、転移魔法陣ではなかったのが不幸中の幸いだな。

 これを発動していると思われる魔術達が、跪いて祈っている。発動者がどうにか…出来ないな。


 虚空に手を翳し、ポーチから樽を取り出す。爆破で穴を空けられれば良いが。

 ……なんだ?樽が出てこない。おかしい。さっきまでは直ぐに取り出せたのだが。システムが故障したとかだろうか。だとしたら、不味い。今の状況は不味い。

「いくら魔人と言っても絶食していれば弱ってくるだろう。お前が死んだら身体は有効活用して…。樽?」

 ぐるぐる考えを巡らしていた所で樽が出現し、魔法陣の上に落ちた。良かった壊れてはいないようだ。だが、出てくるまで時間が掛かった。原因は何だろうか。


 実験ついでにもう一つの爆破樽を取り出す。…一秒、二秒、三秒。二つ目の樽が出現し、魔法陣の上に転がる。いつもより三秒遅い。どういうわけかラグが発生している。結界に覆われるとポーチに不調が出る、なんて聞いたことがない。

 考察は後にして、今はここから出る為に動かなくては。システムに不調が出る空間なんて不安しかない。

 目の前の二つの樽に手を置き、それぞれに魔力を流す。これでどうなるか──。


 ──ズゥゥゥゥゥンッ!

 視界に色が戻り、結果が見えてくる。…残念ながら、結界は壊れていない。あわよくば床ごと魔法陣を吹き飛ばせないか考えていたが、変化がない。床にも結界が敷かれているようだ。

「…フハハっ!面白い道具を持っているな!だが残念だったな、そんな程度で破壊される──。なっ?!」

 樽をポーチから取り出す。一つ、二つ、三つ、四つ、と数を増していく。視界が戻ってから、結界にヒビが入っているのが見えた。直ぐに修復されてしまったが、樽の数を増やせばいけるはずだ。


 二十七、二十八、二十九、三十。これだけ数を増せば割れるだろう。…密室にこの数の爆発物、か。スーツは自爆想定で造っていたが、こんな場合は想定していない。スーツ自体は耐えられるだろうが、中身が心配だな。

 樽の山の一つに手を置き、ある程度全体に魔力が浸透出来るようにする。龍の攻撃にも耐えたのだ。これくらいなら、大丈夫、のはずだ。薬剤の魔力が臨界点に達し、光に包まれた──。


 身体を起こし、自身の状態を確認する。スーツには傷一つないが、全身が怠い。密閉空間で使用する想定をしていなかったのがいけない。台地に帰ったら、スーツを更に強化したいな。


 軽い頭痛を押さえ込み、立ち上がる。…走馬灯のようなナニカを見たが、アレが本当に神様だったのだろうか。と、つい思考が横にそれてしまった。ここに来た目的、報復を完了させなければ。


 周囲を見渡して、やることを決める。魔術師達は全員地に伏しているのが確認出来た。血が流れ出ている者も居るし、死んでいなくても自力では動けないだろう。

 天井を見ると、大穴が空いているのに気が付いた。そこから風が吹き込んでいるからか、砂埃が舞っている。

 そして、帝王。倒れているが、六角形のナニカが帝王を護るように浮かんでいる。身体全てを護れていないが、これは爆風で破壊された後ということだろうか。


 帝王の方に歩いて行く。さて、どうしようか。この王を殺しても、台地への干渉が止まらなければ意味がない。政治の実権を握ってそうな大臣的な人間は、ここにはいなかった。いたとしても、これだけ暴れたなら避難くらいしてそうだな。

「ぐ、ううううう!」

 帝王が、膝を付いて立ち上がった。気絶くらいしていると思っていたが、意識があるのか。その筋肉は伊達ではないようだ。

「驚いたね。生きてるか」

「…ハっ!化け物めが、自爆して無傷か」

「私も無傷では無いよ?…棺?」

 帝王の右、俺から見て左側の空間に、いつの間にか棺が浮いていた。その空間に縫い付けられているように、静止している。

 何だ、コレは。死体でも入っているのだろうか。


 棺の蓋が空間に溶けるようにして消えていき、中の様子が確認出来た。身の丈ほどあるような大剣が入っており、帝王がそれを掴んだ。

「あ"ー。久し振りに握ったぜ」

「何だい?ソレは」

「んー?どっちのことだか」

「どっちもだよ」

「ハっ、どっちも献上された魔宝具だぁ。必ずしも、棺桶に死体を入れる必要は無いってこった。そんでこっちが愛剣よぉ」

「魔宝具、ね」

「これでも最盛期は"軍神"とか呼ばれて恐れられたもんよ。…血がたぎるねぇ」

「…」

 帝王の目が血走り、大剣が赤く発光する。王冠は遠くに落ちており、高そうな服もボロボロだ。本当にやるのだろうか。

 四肢が筋肉で膨張し、血が吹き出す。俺も水鉄砲を取り出し、軽く構えた。


「『フィジカル・ブースト』」

 帝王の身体が一瞬赤く発光し、吸い込まれるように消えていった。名前からして身体強化魔術なのだろう。水鉄砲を帝王の腹部に向けて構え直す。棺を出せる魔法具、これは欲しい。大剣はどうでもいいが、ポーチが完璧では無いと分かった今は代わりが欲しい。なので、魔法具には傷を付けないでおきたいのだ。

 引き金に指を構え──。


「『フィジカル・ブースト』」

「『フィジカル・ブースト』」

「『フィジカル・ブースト』」

「『フィジカル・ブースト』」

 そんな言葉の羅列が、帝王の口から紡がれた。

「フンっ!」

 ──ズダンッ!

 目にも止まらぬ早さで大剣が振られ、数十メートル程弾き飛ばされる。水鉄砲は手放していない。反撃をしようと帝王を見据えた。

 …が、さっきまで居た場所に帝王が居ない。すると、今度は頭部に衝撃を受けて床に叩き付けられる。いつの間にか上に居たようだ。

 派手にやられたが、さしたるダメージは負っていない。さっきの爆発の方が痛いくらいだ。水鉄砲を帝王の顔に向けて、引き金を引いた。


 毒液の進路を六角形の結晶が塞ぎ、帝王へは届かなかった。これも魔法具なのだろうか。結晶は毒液で溶かされ、残りが床に垂れた。どうやら破壊は出来るようだ。

 再び引き金を引こうとした時、また床に頭部を叩き付けれられる。今度は素手で頭を掴まれた。…強いな。


 水鉄砲を仕舞い、毒瓶を取り出す。相変わらずラグが発生しているが、仕様がない。これで沈黙してくれると良いんだが。

 帝王が俺の片足を掴んで、床から引き抜く。身体の向きを変えて見ると、もう片手で大剣を振りかぶっているのが見えた。その攻撃をくらう直前に、蓋を空けた瓶の中身を帝王の顔に浴びせる。


 そして俺は、当然の如く弾き飛ばされた。

八月十一日の投稿です。

おい!それってYO!

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